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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(2)復縁を申し込もうとしたら

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010

 結城史奈(ふみな)さん。


 彼女は店舗勤務から商品開発部に異動してきた。明るくてかわいらしい子なので本社のなかでも目立つ存在。わたしとは違うタイプ。なので敦朗がそんなキラキラした女の子を選んだことにも驚いた。


「上司と部下だとちょっと問題あるね」


「そうなんだよ。やっぱりまずいよなあ」


 うちの会社は社内恋愛は禁止ではない。むしろ多い。わたしと敦朗も社内恋愛からの結婚だった。


 でも同じ部署の上司と部下となると話は変わってくる。その状況を嫌うひともいるし、上司として公平な査定をしているのか疑うひとも出てくる。そのためこういった状況がわかると、ほぼ間違いなくどちらかが異動になる。


「結城さんは商品開発部を志望して異動してきたんだよね」


「そう。俺が面接した」


 そのとき一緒に蓮見くんも採用された。結城さんは蓮見くんと同期入社で同い年の二十五歳。優秀な若い人材がふたりも入ってくれたと、当時敦朗はすごく喜んでいた。


「交際がバレたらどうするの?」


「隠し通す。もしバレたら、そのときはそのとき……かな」


 敦朗はなにか含みを持たせて言った。


 それはすでになにか考えがあって、覚悟はちゃんとしているということ?


 敦朗はそういう恋を選んだんだ。そこまでして手に入れたい、そう思われている結城さんに嫉妬を覚える。


「それにしても彼女がひとまわり下っていうのもどうなの?」


 ほかの女性を選んだ敦朗への憎しみのような感情も少なからずあって嫌み混じりになってしまった。


「そこはセーフじゃないか? 十代ならまずいけど二十五なんだから」


 それはそうなんだけど。こっちとしてはショックだし、がっかりもした。若さには敵わないと思ってしまう。


 男のひとがうらやましい。年の差を気にせず、若い子を選べるんだから。わたしには無理だよ。


 こうしてわたしの胸の内はどんどんダークに染まっていく。だけどマイナスなことを考えていると、自分に対してうんざりしてくる。


 敦朗の前でこんな格好悪い自分をさらけ出したくない。だから偽りの自分を演じるしかなかった。


「それもそうか。二十五は立派な大人だもんね。それに結城さんは優秀だし、礼儀正しいし、しっかりしてそうだもんね」


 慎重に言葉を選んだ。そしてにっこりと微笑むことも忘れない。


 これでいい。とにかくいまはこの時間を乗り切ることが先決だ。


 その後、お店を出て駅に向かった。食事のあとはムードのあるバーで甘いカクテルを飲んで……なんてことを妄想していたけれど、当然そんな展開になることもなく、敦朗とは駅で別れた。


 やるせない。今日のためのメイクや服は無駄に終わった。そもそも敦朗はいつものわたしと違うことに気づいていなかったのかもしれない。


「自分がプレゼントしたものくらい覚えとけ、ばか」


 一粒ダイヤの華奢なデザインのネックレス。結婚前に敦朗がわたしの誕生日にプレゼントしてくれた。職場では結婚指輪以外のアクセサリーは禁止なので、デートのときは必ずこのネックレスをつけるようにしていた。そのたびに敦朗は喜んでくれた。


 でもそれは昔のこと。いまは気づいてすらもらえない。


 おまけにプライベートなのにわたしのことを「雨宮」呼び。ふたりきりなんだから、「一紗(かずさ)」と下の名前で呼んでほしかった。


 もう元に戻ることは無理かもしれない。


 目の前の現実に打ちのめされて、その夜一睡もできずに翌朝を迎えた。


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