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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(1)無愛想な彼だけど

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001

 四月初旬。


 ほんのりとあたたかい朝。仕事に向かう電車のなかで久々に履いたスカートに少し照れくささを覚える。


 今日はいつもはやらないアイメイクをして、マスカラも塗った。昨日の夜はパックをして保湿も完璧。ついでに爪には薄いピンクのマニキュアも塗った。


 ちょっと気合入れすぎ?


 いやいや。これが世間一般の普通。いままでが手抜きだったんだ。


 三年前に離婚してバツイチの三十三歳。

 この三年間、彼氏なし。

 おしゃれをしても仕方がないとかなりルーズに過ごしてきた。


 でもこのままじゃいけない。今夜こそ勇気を出そうと思う。



◇◇◇



 会社の最寄り駅に着いた。だけど改札を抜けたところで愕然とした。


「嘘でしょ!?」


 雨だ。たったいま降り出したみたい。パラパラと霧のように舞っている。天気予報を確認するのを忘れた。夕べも今朝もそれどころじゃなかったから。


 駅から会社までは歩いて十分もかからないくらい。雨はまだ本降りではない。走ればそんなに濡れないかもしれない。どちらにしても今日はスプリングコートを着てきたので服は濡れてもなんとかなりそう。でもメイクが崩れるのは阻止しないと。


雨宮(あまみや)さん、よかったらこれどうぞ」


 ふいに聞こえてきた男性の声にビクッと肩が上下する。


 振り返ると、同じ会社の後輩である蓮見(はすみ)(しずか)くんが立っていた。


 手には黒い長傘があった。


「びっくりしたあ!」


「すみません。驚かせてしまって」


 ぺこりと頭をさげられ、悪いことをした気分だ。


「ううん。こっちこそ、ごめん。傘、貸してくれるの?」


「はい」


「でも蓮見くんはどうするの? あっ、相合傘ってことかな?」


「いいえ。これとは別に折りたたみ傘を持っているので」


 冷静に返される。


「そ、そうだよね。えっと……二本持ってるんだね」


 蓮見くんから長傘を受け取る。


 いまのちょっと恥ずかしいな。相合傘のわけないよね。


「折りたたみのほうは天気に関係なくいつも持っているんです」


 そう言って蓮見くんは肩にかけていた黒のリュックから黒い折りたたみ傘を取り出した。


「それでは僕はお先に失礼します」


「え? あっ、うん」


 わたしが戸惑っている間に蓮見くんは手早く折りたたみ傘を広げ、すぐさま歩き出した。


「傘、ありがとね!」


「いいえ」


 去り際にお礼を言ってもその横顔は表情を変えず、前を見据える深い色の虹彩の瞳にはなんの感情も見えなかった。


 同じ会社なのに一緒に行こうとはならないのか。


 でもそこはイメージどおり。常に自分のペースがあって、急いでいるところや焦っているところを見たことがない。だからちょっと驚いた。蓮見くんって愛想はないけど、やさしいところがあるんだね。


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