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エルフの村が焼かれず奪われる時代にて  作者: ムルモーマ
1. ジョコーとニンファエア、それから首狩りウサギ
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帰還道中

 依頼を完了した事に同意を示すサインを無事貰って、村長の家から出た。

 使用人からは、相変わらず礼儀正しく見送りをされて、少しだけ肩の力を抜く。

 村も、少しずつ活気を取り戻していた。


 久々に外に出て活気を見せている子供達。

 村の周囲に必要以上に設置されていた罠を回収していく大人達と、荒れ果ててしまった畑を久々に手入れをしにいく大人達。

 首狩りウサギが辺り一帯から完全に居なくなってしまった事に困惑を示す村民も少なからず居たが、大半の住民はほっとしたような、久々の安寧と日々の営みの忙しさを味わっているようだった。

 村長は首狩りウサギの産業を出来なくなった事に強い不満を覚えていたが、それを命に代えてまで続けようと思っているような人は極々少数だったのだろう。

 直接感謝を述べてくる村民も多少居るのに応えながら。

「ま、胸糞悪いような終わりにはならなかったか」

「最悪だと、どのようなのを想定していたの?」

 それに対しては、明日には離れる拠点にて、帰路に必要な量の保存食を作っている仲間達の元にまで戻ってから答えた。

「あの父親の気性も変わらなかったら、俺達の中にも犠牲は出てもおかしくなかったんじゃないかな」

 数に任せて突撃するしか能のない、古いゴブリン程度の戦略しか取れなかった子供達。

 それが父親の先導の元、今のゴブリン以上の戦略性を与えられていたら。

「でも、そうだったら私達が来る前にこの村はとっくに滅んでいたんじゃない?」

「それもそうだな」

 村の危機であれど、自分達の等級に任せられる程度の依頼だったという事だ。


「依頼は完了出来たのか?」

 ウサギ肉を外で燻していたダイアンがこちらに気付くと聞いてきた。

「ああ。ちょっとだけ渋られたが」

「これで俺達もグリフォン級か」

 等級の名前は、それに匹敵する強さの種族から取られている。

 今のジョコー、ニンファエア達の等級はワイバーン。その前はヒポグリフ。

「グリフォンね……」

 四つ足で駆ける事と、白い翼で翔ける事を同時にこなせる、雄大な魔獣だ。

 敬意を払い、対価をきちんと渡す事で背中に乗せてくれる事もあるが、その対価は同じグリフォン級になっても相当に厳しいものがある。

 ワイバーンの方が対価は少なく、グリフォン級になったならば乗れない事もないが、二本の足と一対の翼しか持たず、飛ぶことに特化したその背中に乗る事は、気紛れに曲芸飛行をされる事を覚悟する必要があったりする。

 またヒポグリフ——グリフォンを小さく可愛くしたような魔獣と言って差し支えない——は、背中には精々人間くらいしか乗せられず、乗せると滑空も出来ない。

 どれも街では普通に見かける存在だ。グリフォンとグリフォン級の協定者は流石に少なくなってくるが。

 そんな、余り想像のつかない先に対してぼんやりと空を眺めているようなジョコーに、ダイアンは続けた。

「ま、取り敢えずは明日以後に備えてくれよ。どうせ寝るのも帰ってからだろ?」

 ちょっと間があったが。

「そうね」

「……そうだな」

 そう言ってニンファエアはそのまま、ジョコーは受領書を丁寧にしまった後、保存食作りに加わる。

 そんな二人を見届けながら、ダイアンの頭の中は暫く一つの事柄で占められていた。

 …………本当に子供が出来るのか?


*


 行きは各々が準備をする為に、ジョコー達は街から、そしてニンファエア達は水源から各々出発していた。

 帰りは無事に依頼を完了した事を報告する為にも共に帰る。

 歩きで3日程の距離。本当に協定者が居なくなって大丈夫なのかと不安な目線を向けてくる村民達の目を感じつつも、保存食を担いで帰路に着く。

 朝早くから荒れ果てた畑で作業する村民たちも通り過ぎ、行きとは比にならない気楽さでひたすらに歩みを進める。

 緊張を適切に保つ為とか、そんな目的もなくそれぞれで雑談をしながら。

 そんな中、ニンファエアが少し躊躇いつつも言った。

「……昨晩、皆と少し話したんだけど。

 私達も等級を上げられるとしても、少し待った方が良いかな、って」

「もう少し慣れた方が良い、ってか?」

「そんなところ。ジョコー達だけでも今回の依頼はギリギリ犠牲も出さずに達成出来ただろうけど、私達だけだったら、結構微妙だったと思ってる。私だけじゃなくて、皆も」

 ジョコーは一度黙る。

 分かりやすく肯定も否定もしなかったが、そうだろうという感覚はあった。

 少し言葉を選ぶような時間を挟んで、口を開いた。

「ただ、ギルドはそんな待ってくれないし、等級は上げるなら上げてしまった方が良い。招集されるような事が起きたら、もうどのみち避けられないだろうしな。

 俺達は別にそんな求めている訳じゃないが、あんた等は権利も、報酬も、あるだけあった方が良いだろ」

 リザードマンという種族ももう街においては見慣れた種族となっているが、馴染んでいるかと言われたらそれはまだ微妙なところがある。

 狭い世界に閉じ篭っているだけでは破滅を迎えるだけだと理解してギルドに迎合する事にしたとしても、それだけでは自らの足でこの広い世界に立てているという証明にはならない。

 だからこそ、ニンファエア達は協定者となった。集落の皆を先導する為にも。

「私、別に村の皆の為に、って気持ちはそこまで強くもないけれどね。

 他の皆も全員そうだったりするし」

「……それでも、流石に滅んで良いとまでは思ってないだろ?」

「まあ、それは流石に。でも死んで欲しいって思う人も結構居るけど」

 ……何かいきなり会話に毒が混じってきたが。

 そんな事も話して良いって思われてる、って思っておくべきだろうか。

「特に、私がジョコーと交わった事を言ったら、命に代えてもジョコーを刺しに来る人、10人はくだらないと思う」

「…………そっちに再び行く機会はなさそうだな」

「うん。それが良い。それで良い」


 疎らな森や丘陵地帯に切り拓かれた道をひたすらに歩いていく。時に村を通り過ぎ、物と物を交換する。

 燻した首狩りウサギの肉は、想像以上に良いものと交換してくれた。

 ついでに軽食を摂りつつの休憩も何度か挟みながら。日が暮れ始める前に、川の近くに建つ小屋の中で休む事にした。

 行きにはそのまま通り過ぎて使わなかったこの小屋は、廃屋とまではいかない程度にしっかりとしている。また近くの川沿いには粉挽き小屋もあった事から、その休憩場所として使われているように見えた。

 また、川を見つけるや否や、ニンファエア達は目を輝かせて久々に水浴びを思う存分堪能していた。余り表には出していなかったが、この7日間で水を浴びる機会といえば井戸の水を頭から被るくらいしかなかったから、ストレスは地味に溜まっていたのかもしれない。

 ジョコー達も身体を拭っておく。

 身に沁みる冷たさは、街に戻れば熱い湯に身体を沈められる事への期待感を高めてくれるよう。

 また水棲のリザードマンが六人も居れば釣り道具なんて一つもなくとも大漁は約束されていた。素手で捕らえた魚を丸ごとばりばりと食べながらも、ジョコー達にも何匹かずつ獲ってくれて。

 嵩張っている保存食も使いつつ、運悪く最初の見張り番になった二人以外は満腹になるまで食べて、訪れる眠気に従ってそのまま眠りに就く。

 その最初の見張り番の二人、ダイアンとブライリー。

 小屋の周りを広く歩きながら、自然と雑談をする。

「僕達の村でフェンネルと戦ってた時は両手剣を使ってたけど、今回は短剣だったのは、やっぱり首狩りウサギ対策?」

「それ以外に無えだろ。正直、フェンネルがそのまま斧槍を担いで来た時は正気か? って思ったがな」

「その通り、次から次へと襲ってくる首狩りウサギ達に斧槍じゃ対処しきれなくなって、最終的に素手で迎撃してたね。飛びかかってきたのを食い千切って、爪で切り裂いて、蹴り飛ばして……」

「俺とジョコーが奮戦している時にそんな事を……。だからあいつ、一層血塗れだったのか。

 まあ俺は大体何でも使える。器用さで謳ってるドワーフだしな。

 そこまで行かなくとも、あいつも何か別の武器を使えるようになっておいた方が良いだろうな。そうだな……鉤爪や鉄篭手なんて似合うんじゃねえか? それにその太くて長い尻尾。ニンファエアは槍を使うのに活かしているのを見たが、格闘術としても役立つだろ」

「うん。村でも殴り合いとかになると、そうやって活かしている人は居たりしたよ。フェンネルもその一人なんだけど、フェンネルにとってはそれは若気の至りっていうもので、あんまり表に出したくないみたいだけれど」

「役立つなら、そんな些細なプライドなんて捨てておいた方が良いぞ」

「悩んでたら、そう言っておくかな。

 …………。

 それと、もう一つ聞きたい事があるんだけど。ちょっと、失礼かもしれないけれど」

 言いあぐねるような言葉。

「……何だ?」

 ブライリーはまた少し迷うように黙ってから、けれど口を開いた。

「ジョコー達って、それぞれ何回位死んでるの?」

「あー……。別に隠す事じゃねえが、トリリー辺りは聞くの嫌がるかもな。俺は4回。詳しく言おうか?」

「いや、うん、それよりも。生き返るのってどんな感覚か聞きたくて。僕達、まだ誰も死んだ事はないから。

 何かの参考に出来ればな、って」

 そんな事を聞いてくるブライリーの事を、ダイアンは冷たく見上げた。

 身の丈が人間より低いドワーフ。身の丈が人間より高いリザードマン。

 身長の差は子供と大人に近い程にあるが、ブライリーは思わず気圧された。

「……一つ言っておくが。あんたは死なない方が良い。

 感覚的にしか言えんが、あんたは蘇生が失敗する可能性が他の奴より高そうだ」

「…………」

「俺達はな、ジョコーの異能が無きゃとっくに全員くたばってたパーティなんだよ。協定者としての、荒事に立ち向かう才能の不足によって必然と訪れる死の結末を、ジョコーが居た事で強引に回避出来た。

 だからこそ、特に俺やササンクァはその才能の不足を努力で補う時間を与えられて、ここまで登ってこれた。

 それに対してあんたらは、そんな高みまで自分達の有り余る才能だけでひょいひょい登ってきた。それで、そんな高みまで登ってきて、誰かが唐突に死んでみろ。立て直す暇もなく、パーティとして瓦解する可能性しかねえだろ」

「……僕達のパーティは脆い、と」

「とてもな」

 ニンファエアを含め、薄々勘付いている事でもあった。

 ブライリーは続けて聞いた。

「それを克服するには、どうすれば?」

「ま、模擬戦で死んでもほぼ確実に生き返りそうな奴が死んでみれば良いんじゃねえかな。

 あんたのパーティだと、ヤローとかはかなり大丈夫そうだ」

「……何でヤローなの?」

 思わず出た、僕よりも臆病なのにという感情が篭っている声。

「俺の持論なんだがな。何度でも蘇られる奴は、絶対に死んでやるか、死が恐ろしくて溜まらない、生き返った感覚なんて味わいたくもないし、聞きたくもないって奴なんだよ。

 逆に蘇生があるからって言って気軽に死ぬような奴だったり、俺は死なない! って根拠もなく自身満々な奴は呆気なく灰になって、そこから簡単に昇天しちまったりする。

 そういう点でヤローはぴったりだろ?」

 納得しつつ、ブライリーは返す。

「ヤローは嫌がりそうだけどなあ。でも、だからこそなのか」

「そういう事だ」

「それと、そういう点だとジョコーは死んでも確実に生き返るって事だったりする? 一度も死んだ事がないって聞くけど」

 そう聞くと、ダイアンは何故か酷く難しい顔をした。

「…………いや、あいつは。一度死んだら、蘇生出来ねえんじゃねえかな。

 これも感覚的にしか言えないんだが。あいつの異能を言葉にするのならば、死に近いからこそ、死に魅入られているからこそ、死を感じ取れる。そんなイメージなんだ」

「…………」

 ヤローがほぼ確実に生き返るであろう事と同様に強い説得力を感じたからこそ、ブライリーは何も返せなかった。

 気付けば、交代の時間はもうすぐだった。

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