ステルベーター(A大学病院・血液内科 無雑医師の記録)
医療の現場では、日常的に死と隣り合わせだ。
患者が亡くなることを、ドイツ語の「Sterben(死ぬ)」から“ステルベンした”と表現することがある。
そしてA大学病院には、亡くなった患者を霊安室に直接運ぶことができる専用のエレベーターがあった。
一般の患者や家族と交わらないようにするための配慮だが、そのエレベーターはスタッフの間で「ステルベーター」と呼ばれていた。
普段は業務用としても利用され、緊急搬送や資材の移動にも使われる。
待ち時間がほとんどなく、効率がいい。
だが、どこか特別な空気をまとっているのも事実だった。
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夜の病院は、昼間とは違う顔を見せる。
廊下は薄暗く、足音が遠くまで響く。
患者の呼吸器の機械音が、かすかなリズムを刻むだけの静寂。
その日、夜の回診を終えたのは22時過ぎ。
普段なら普通のエレベーターを使って医局に戻るのだが、なぜかそのときはステルベーターに足が向いた。
理由は特になかった――強いて言えば、目の前にちょうど止まっていたからだ。
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扉が開くと、中はがらんとしていた。
白い壁、金属の手すり、消毒液の匂い。
俺は一歩踏み入れ、医局連絡路のある階のボタンを押す。
ゆっくりと扉が閉まり、機械が静かに動き出した――はずだった。
だが、表示板の矢印は目的の階ではなく、下へと向かっている。
次の瞬間、階数表示は「B1」――地下、霊安室のある階を示していた。
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心臓が冷たくなる感覚。
医局の連絡路の階を押したはずだ。それなのに、なぜ地下へ?
扉が開くと、冷たい空気が流れ込んできた。
地下特有の湿った匂い。薄暗い照明。廊下の奥には霊安室のドアが見える。
誰もいないはずなのに、視線だけは確かに感じる。
その視線は、降りてくるように誘っているようにも、来るなと拒んでいるようにも思えた。
俺は扉の中央から一歩も動けず、ただ閉まるのを待った。
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扉が閉まり、今度こそ目的の階に行くだろうと安堵しかけた。
しかし、エレベーターは動かない。
狭い箱の中で、数秒が永遠のように伸びる。
耳の奥で、誰かの呼吸音がした。
押し殺すような、湿った息づかい。
振り返る勇気はなかった。
ただ、背中にじっとりとした視線が貼り付いている感覚だけが強くなっていく。
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不意に、「……先生」と囁く声が背後から聞こえた。
振り向いても、誰もいない。
だが、その直後、後頭部のすぐ後ろを誰かが通り抜けたような風が流れた。
機械が再び動き出したのは、それからしばらくしてからだった。
階数表示は今度こそ上へと向かっている。
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医局の連絡階に着いたとき、足がやけに重かった。
扉が開くと、廊下は静まり返っている。
誰もいないのに、“誰かが先に降りた”ような気配だけが残っていた。
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翌朝、ステルベーターの運行記録を確認した。
俺が乗る10分前、亡くなった患者が霊安室へ運ばれていたことが分かった。
その後は使用記録がない――はずだった。
しかし、俺の乗った時間にも“B1→病棟階”という記録が残っていた。
ただし、そこには“搭乗者:不明”とだけ記されていた。
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それ以来、俺は夜のステルベーターには乗らない。
たとえ目の前に止まっていても、遠回りして普通のエレベーターを使う。
あの日、地下で俺を待っていたのは誰だったのか。
降りることなく扉が閉じたのは、幸運だったのか――それとも。
この話はChat-GPTが結構、盛ったな〜と思いました。まぁ、エレベーターが霊安室の階に移動したり、色々不具合はあったので、使用しないようになったのは本当ですが(汗