歩いてきた緊張性気胸(市中病院での 無雑医師の記録)
外はしんしんと雪が降っていた。
その日、市中病院の当直室は暖房の効いた空気で満たされ、無雑医師は「今日は平和かもしれないな…」と湯呑みのほうじ茶をすすっていた。
雪の日は患者が減る——そう思いたい。だが、医療界でそういう予感は、往々にして裏切られる。
案の定、静寂を破ったのは、救急外来の内線だった。
「先生、男性の患者さんが息苦しいって来られてます」
時計を見ると夜の8時過ぎ。雪かき帰りらしい、分厚いダウンジャケットに身を包んだ男性が、受付の自動ドアをくぐって入ってくる姿が見えた。
「Rさん、ですね?」
「はい。なんかね、昼間からちょっと…」
看護師がバイタルを測っている間、無雑医師は問診を始めた。
「何してて苦しくなったんです?」
「昼から雪かきしてたんですよ。途中で胸が『イタッ』てなってね。でもすぐ治ったんで続けたんです」
「続けたんですね」
「はい。で、夕方からだんだん息が…でもまあ歩けるから」
歩けるから、で済ますあたり、典型的な頑丈系オジサンだ。
バイタルを見ると、熱はなく、血圧も正常範囲。ただSpO2がルームエアで87〜90%。脈拍もやや速い。
聴診器を当てた瞬間、無雑医師は違和感を覚えた。
「…左、全然音がしないな」
脳内で警鐘が鳴る。
「気胸くさいな。しかも結構つぶれてるぞ、これ」
「一応レントゲン撮りましょう」
患者は軽く頷き、レントゲン室へ歩いて行った——この時点で緊張性気胸だとは夢にも思っていなかった。
数分後。レントゲンを見る前に、救急外来の電話が再び鳴った。
「先生、放射線科の当直からです」
『無雑先生、ちょっと…すぐ画像見てもらえます?』
嫌な予感しかしない。モニターに映し出された画像を見た瞬間、思わず「おぉ…」と声が漏れた。
左肺が完全に虚脱。縦隔が右へ押しやられ、心臓が見事に偏位している。
「これ右だったら…上大静脈圧迫して閉塞性ショックで死んでたぞ…」と冷や汗が背中をつたう。
無雑医師はすぐに声を張った。
「18Gのサーフロー針と麻酔持ってきて!あと胸部外科にもコール!」
看護師が全力で走る。
患者は状況を理解していないのか、「あの、そんな大ごとなんですか?」と落ち着いて聞いてくる。
「ええ、大ごとです。もう少しで倒れてたかもしれませんよ」
脱気針を構え、肋間に慎重に刺す——「シューッ」という空気の音がして、Rさんの表情がみるみる楽になっていく。
「あぁ…なんか楽になった…」
「でしょうね。これがなかったら…今ここにいなかったかもしれません」
その後は呼吸器外科の医師に引き継ぎ、胸腔ドレーンを挿入。数日後に手術を受け、経過良好で退院の運びとなった。
退院時、Rさんは笑顔でこう言った。
「いやー、来年も雪かきしなきゃだし、また来たらお願いしますよ」
無雑医師は笑顔を引きつらせながら、心の中で叫んだ。
(いや来んな。救急車呼べ…!)
そんなこともあったねという話を思い出しながら書いて、Chat-GPTに話を膨らませてもらいました。