6.陛下が会いに来ました-2
俺はそっと一歩脇にどいて、陛下に頭を下げる。膝をついて礼はしない。王子様も立ち上がって、陛下を迎え入れる。その隙にもう一歩ずれて、普段使ってない方の椅子をゲットだ。家庭教師の先生が使うやつ。
「こちらをお使いください。
王子様の椅子と、テーブルを挟んで斜め向かいになるようにさりげなく椅子をセッティングして、俺は陛下とは反対側の王子様の斜め後ろに陣取る。いや陛下が王子様に何かするとは思ってない。息子だし。でも俺は一応、練習中の身なので。
前世で散々ジジイに殴られながらやった成果で、俺は今回めちゃくちゃ及第点を貰っている。すなわち飯の肉が増える。まあ体を作れって言われて元々肉も野菜もたんまり貰ってるから、どんぐらい増えたのかよく分からねぇんだけど。いつだって腹は減ってるから、ありがたく食う。
「いかがなされたのですか、父上」
陛下が椅子に座るのを待って、王子様がそう声をかける。ちなみに俺はテーブルの上に載っていた、王子様が飲んでいた紅茶一式をお盆ごと下げたところだ。俺の側にあるサイドテーブルに乗せて、よし。新しいお茶は、ジジイが頼んでくれているだろうから、しばらくしたら来るだろう。
「いやなに、執務の合間の休憩よ」
「それでも、こちらに来るのは珍しいではありませんか」
王子は今十一歳である。もうすぐ十二歳になる。二つ下に双子の妹姫がいて、陛下は大体そちらへと行く。まあ、王子様もうそんなに小さくないし、あっちのが楽しいだろうしな。
「いや、皆にな。姫の方にばかり来すぎだと怒られて」
「妹たちに、嫌われる前に、こちらに来たんですね」
「上の二人は嫌がるしなあ」
王子様がもう小さな子供でないのであれば、その上のお二人はまあそろそろ成人が見えてくる年頃だ。多分第二王子様が俺と同じくらいの年頃で、第一王子様はもうちょっと上、だったと思う。正直あんまり俺には関係ないことだと思っていたので、詳しくはない。第一王子様の成人の儀がどうの、って、騎士団の先輩方が話してるのを小耳にはさむ程度の知識しかない。だって俺、やること絶対にないし。
ジジイが侍女さんと一緒にあのあれ、お茶とかを乗せるあれを転がして、戻ってきた。お菓子もある。
俺は二人が作業しやすいように、ドアの側に移動する。まあ、俺が話聞く必要とか、無いしな。
お茶とお菓子をテーブルに並べた侍女さんが、ワゴン、確かワゴンっていうあれを押して帰っていく。ドアを開けて、通りやすくするのが俺のお仕事だ。本来ならそういう仕事をする奴もいてもいいんだろうけれど、まあ、俺が兼任すればいいだけだ。俺はまだ騎士じゃないし、そもそも奴隷は騎士になれないし、いやそういう話をするならこの部屋にいちゃダメだろ。それに後あれだ。王子様は国王になるわけじゃないから、それほど沢山のそういうのはいらないそうだ。
ちなみに俺が来るまではジジイが一人ですべてをこなしていたという。すごすぎんだろ。
「さて」
陛下が、雰囲気を変える。部屋の空気がピリッとした。あんた、休憩時間に息子と雑談しに来たんじゃないんか。
「魔王討伐に向けての、進捗を聞こうか。ああ、そうか。お前は私達が知っていること、知らないんだったな」
俺は思わずジジイを見る。どういうことだ。
「お前が生まれた時にな」
陛下が、昔話を始めるようだ。立ち去るようにと指示がなかったってことは、俺も聞いていていいのだろう。
「上の王子たちの乳母の、アレットがいるだろう」
「はい」
「あれは、産婆でもあってな。お前を取り上げたのも、アレットだ。その時にな、お前が、産まれたばかりのお前が、また倒せなかった、と言ったというのだ」
「懐かしゅうございますな」
赤ん坊が?
産婆が取り上げる、って、赤ん坊だよな。セドリック隊長の所にこの間産まれたっていう、あのほやほやした奴だよな? え? 赤ん坊って喋らねえよな?
ジジイを見ても、緩んだ顔で頷いているだけだ。駄目だ、あとで聞こう。
「喋ったのですか。私が……?」
「少なくとも、アレットはそう言っているな」
「そいういう類の嘘を言う女ではありませんよ」
王子様も戸惑っている。わかる。俺も戸惑っている。
陛下はゆったりとお茶を飲んで、王子様の反応を楽しんでいるようだ。
というかいやジジイ。城にそういう類の嘘いう奴いたらダメだろ。違うそうじゃなくてだな。
「赤ん坊って、喋りませんよね?」
「喋らんな」
「聞いたことはございませんね。ですからアレットもええ、とても怯えておりました」
だろうな。
ああ、それで王子様には乳母じゃなくて爺やなのか。不思議だな、とは思っていたんだよ。もしかしたら、アレットがもう婆で乳が出なかっただけかとも思ったんだけれど、お城で言うところの乳母っていうのは、そっちじゃなくて乳離れした王子様達をお育てするお仕事の女性を指すらしい。二人も三人もあの手の人には変わらないらしいから、少なくともそう聞いたから、おかしいとは思ってたんだよな。
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赤ん坊が喋ったのは仏陀を彷彿とさせますね。
いやあちらさんは脇から生まれてるか…。




