19.魔王を倒そう-2
魔王の絶叫が響き渡る。まあ、尻尾斬り落とされたらそりゃ痛いよな。足の鱗も気が付いたら落とされてて、そこにでっかいミノタウロスの斧食い込んでるしな。いやずっと痛かったよな、継続的に攻撃され続けてたもんな。俺たち攻撃した素振り、ずっと見せてたもんな。
魔王が血走った眼で、こちらを見る。鼻の穴が、膨らんで。
「おっとブレスが来るぞ」
ブレスは、魔王が噴き出すまでに魔王に近寄ってしまえば当たらない。それは、戦闘開始前にうっきうきの南の賢者様から聞いていた。だから俺もカミーユも走り出す。
ドラゴン型の魔王がブレスを吐きだす前にガエルが攻撃をして、魔王はブレスを吐きださずに終わった。まあそういう方法もある。魔王が俺たちから目を離した隙に、俺たちはガエルの盾の陰に転がり込む。
切り落とされた魔王の尻尾の付け根から、瘴気がすごい勢いで漏れているのが、ここからでもよく見えた。あれ全部モンスターになるのかよ、マジかよ。
「癒します」
「不要だ。俺たちはどちらも無傷だ」
「祝福をお願いします」
「尻尾は落ちた! なら次だ!」
聖女様の御付きのアデライドが、俺とカミーユに水筒を差し出してくれる。礼を言って受け取って、喉を潤している間に、聖女様が祝福の祈りを始めた。
南の賢者様はノリノリである。楽しそうだな、ジジイ。
「バティストは後ろに戻って魔王の足を落とせ。カミーユはしばらく待機。魔王がバティストを狙い出したら、正面から攻撃だ」
「わ、わかりまし、た」
「逆のが良くねえか?」
カミーユには、魔王の正面は怖いと思うんだが。その証拠に、ちょっと青ざめているように思う。
俺やガエルとは違うんだぞ。気を使ってやれや。
ちなみに、魔王は今もガエルと遊んでいる。ガエルは必死だが。
「ここのがガエルも聖女様もいるから、安全だろうがよ」
「そうだけどよ」
まあ南の賢者様がそうしろ、というなら、そうするだけだ。
フーッフーッ、と、魔王は肩で息をしている。お疲れさん。するりとガエルの盾の隙間から抜け出て、魔王の方へと走っていく。魔王はちらりと俺を見るけれど、ガエルの方が脅威だから、俺を見逃す。走るのに邪魔だから、斧は返してもらったポーチに仕舞った。ポーチに仕舞っても、聖女様の祝福の効果は続くのは、ありがたい。ずっとじゃねえけど。
魔王の尻尾の付け根から生まれたモンスターたちが俺に群がってくるから、魔法のポーチから斧を引っ張り出して切り捨てる。聖女様の祈りの力は凄まじく、ほとんどのモンスターを一撃で切り伏せることが出来た。こいつらは瘴気にならずに、その場で消える。たまに、消えずに体が残るモノもいる。邪魔だ。
背後の俺と正面の勇者様で魔王を殴り続けて、俺に攻撃を入れようとしたらカミーユが殴って、カミーユを狙った魔王の攻撃はガエルが受けて。そうこうしている間に片足を失った魔王はそれでも気丈に立っていた。
数秒だけだったけど。尻尾も片足もなくても、バランスって少しは取れるもんなんだな。お前は頑張ったよ。
「これで止めだ!!」
勇者カミーユの一撃が、無事に魔王の脳天を貫く。勇者様の魔法は、特に呪文は必要ないらしい。カミーユが手にした剣が、聖女様のかけてくれた祝福とはまた違う色に光って、いや光っていろんな色あるのな。聖女様の祈りの光は黄色っぽくて、カミーユの勇者様の魔法の光は青っぽい。魔王はもう声も上げずに、がくりと頭を落とした。魔王の口からはだらしなく舌が出ていて、開いた口からはまだ瘴気が漏れている。切り落とした尻尾の付け根からも、足の付け根からも瘴気は出続けているけれど、もうモンスターにはならない。俺は右手の辺りを斧でつついて、ガエルは左手の辺りを盾でつついた。よし、本当に死んでんな。
「聖女様、お願いいたします」
「はい」
戦闘中は全くやることのなかった王子様にエスコートされて、聖女様が魔王の前にやってくる。せめてもの救いは、魔王は血を流さないところか。血の代わりに、黒いもやもやを垂れ流しまくっている。これが全部モンスターになったら、駆除だけで一苦労だ。地面にひざまづいて聖女様が祈りを捧げている間に、血に汚れなくてよかったよな。多分、ご本人は気にしねえんだろうけど。
俺とガエルは周辺の警戒だ。今の魔王の瘴気からはモンスターが生まれなくても、その前に生まれた連中がこっちに流れてこないとも限らない。俺たちだけなら問題はないが、聖女様と王子様を攻撃されるわけにはいかねえからな。
前回みたいにとどめの一撃を入れた瞬間に強制終了されねえってことは、魔王は倒せたんだろう。だったら、魔王の生み出した魔物どもに殺されるとか、断固拒否する。俺はそんな終わり方は認めん。
空から、光が降り注ぐ。魔王から生まれていた瘴気と、その瘴気から出来ていた黒いモヤが、晴れていく。俺たちはどれだけ、何も見えない空間で戦っていたんだ、って気になるな。いや。南の賢者様から、視力を良くする魔法を教わっていたから、そんなに苦労はなかったけどさ。勇者様もそうだろう。攻撃で来てたってことは、そうだ。
それまで、硬い大地だったところに、草が生える。聖女様を中心に。さっきまで、そんなものはなかった。上陸した時はどうだったろう。興味もなかったから覚えてもいない。流石に目の前で奇跡が起きりゃ、興味も引かれる。
あちこちで、鬨の声が上がる。
俺たちは、勝ったのだ。
ほぼ完封勝利でしたね。
いやまあそうなるように準備したわけですが。
準備、もうちょっと丁寧に書くべきだったな、と思いはした。




