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死に戻り王子に買われた奴隷は英雄になる  作者: 稲葉 鈴


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19.魔王を倒そう-1

ちょっと長め。

戦闘シーンはとても楽しい。

 冒険者たちが大量の血を流して切り拓いてくれた道を通って、俺たちは魔王と対峙していた。魔王の口からもれ出る瘴気、とかいう奴のせいで、空は暗く、視界もあまり良くはない。それでも、あまり良くはない、程度で済んでいるだけ大分ましだ。前に、ほぼ完全に見えない中で戦ったこともある。あの時は、聖女様の祈りも、勇者様の光の攻撃だかも、たいして通らなくて難儀したもんだ。

 今俺たちの目の前にいるそれは大きな角を持つ竜。四足歩行の竜。よっしゃ当たりだ。魔王はまだ本当に復活したばっかりで、弱い。ドラゴンは強い。誰もが知っている事実だ。

 だから、魔王は、その姿を取っている。

 最後の拠点からそのでかいドラゴンは見えている。口の端から、黒い煙が登っている。ここまで同行してくれたシャルル達冒険者と、それから聖女様も勇者様も、ガエルもびっくりしているけれど、俺と王子様と南の賢者様は顔を見合わせてにやりと笑った。


「楽が出来そうじゃねえか」

「気ぃ抜くと死ぬけどな」

「じゃ、まあ。行きますか」


 エマールの騎士、ガエルが俺たちをちらりと見て、呆れたようにそう言った。南の賢者様がそう言うならそうなのだろう。今ここで情報の開示を求めて多も、多分無理そうだ。大方、あの御仁はそう考えてくれているんだろう。騎士団長様だからな。それくらいの事は分かるだろう。あとで聞いてくるかもしれねえが、聞かれるのは南の賢者様だ。

 ガエルはその大盾を構える。大柄なガエル自身がすっぽりと隠れてしまうくらいのでかい奴だ。それに、聖女様が聖なる祈りをかける。


「女神よ。女神よ。祝福を。彼の盾にすべてを弾き飛ばす祝福を」


 魔王の作り出す闇の中、きらきらとガエルの盾が輝く。俺から見てもかなり眩しいが、まあ、こんだけ眩しいのが目の前にありゃあ、魔王としてはあの盾殴り飛ばしたくなるよな。目に痛てえんだわ。


「開け開け(つまび)らかにせよ。さあ、儂にお前のすべてを見せるがよい!」


 南の賢者様がキラキラとした宝石なのか石の沢山ついた大振りの鍵を取り出し、そいつをひねる。鍵の周囲に三つばかり魔法陣が展開した。俺たちには魔法陣にしか見えないあいつが、魔王の情報を教えてくれるんだとか。


「バティスト、いけるな」

「あいよ」


 俺が手にしているのは、石ころだ。港町のボビリエに向かう道中も、それからこの島についてからも、コツコツ集めた石。仲間たちからは何にするんだって目で見られたそいつを、南の賢者様に作って貰った魔法のポーチから取り出して、足元に積み上げる。

 魔王は、空に浮いている。ドラゴンだからな、空も飛ぶよな。まずは地上に引きずり降ろす。そうしない事には、こっちの攻撃当たらねえからな。


「女神よ。女神よ。祝福を。彼の礫に、全てを貫く祝福を」


 とりあえず魔法のポーチから引っ張り出して、足元に積んだ。それが全部光る。ありがたい事だ。一つずつだったら、聖女様に面倒かけるところだった。


「くらえやあ!」


 ずぱああぁぁぁんん!


 振りかぶって投げたその石は、無事に魔王の片翼のど真ん中にあたり、それを破る。続けて、二つ、三つと投げていく。狙うのは、同じ片側の翼。両方の翼に同じように一つずつ投げて、案外翼が無事だったら面倒だからな。確実に一枚は破いておきたい。


 アアアアアアアアァァァァ!!


 悲鳴を上げて、魔王が墜落する。土煙が上がった。聖女様に祝福をかけて貰った石は、ガエルに預ける。使ってくれ。ちなみに祝福をかけて貰ってない石も、ポーチごとガエルに渡す。ポーチは後で返してくれ。


「バティスト、カミーユ! 次は魔王の尻尾を落とせ!」

「あいよ! 行くぜ、勇者様!」


「女神よ。女神よ。祝福を。彼の者達の剣に、全てを切り裂く祝福を」


 ガエルの盾の陰から、俺は走り出す。少し遅れて、カミーユがそれに続いた。さらにその後ろから、聖女様の祈りの声が届く。魔王が後ろ脚で立ち上がった。

 俺の分投げた石ころで穴の開いた翼から、瘴気が立ち上る。それは、しばらくの間をおいてモンスターになる。そいつらの討伐は、ここまで一緒にやってきてくれた冒険者たちが相手をしてくれる。魔王の相手は出来ないが、モンスターの相手ならできる。そういうことだ。


「この盾を見よ!!」


 ガエルが大声で叫ぶ。魔王はそっちに気を取られて、いやあの盾めっちゃ気になるって。目も行くわ。まあ、あの盾が気になって、俺たちに気が付かない。ありがたく、俺と勇者様は魔王の横をすり抜けていく。まあ、魔王から見たら俺たちなんて小さいから、そりゃ気にもならないよな。

 魔王の尻尾に向かって走りながら、俺は俺自身を強化する。足に力を入れればスピードが、腕に力を入れれば斧が魔王にもたらすダメージが、目に力を入れればこの暗闇の中だって見通していく。魔法はイメージだと南の賢者様から教わったから、俺はひとつひとつ自分を強化するイメージを浮かべていく。そうして最後に。魔王を倒すイメージだ。

 俺は魔王の尻尾にたどり着いた所で、胸元の魔法の鍵を魔王に向けて、軽くひねる。


「開け開け。俺にも見せろ」


 呪文を唱える必要性について、以前南の賢者様が言っていた。格下相手なら不要だが、格上相手には呪文を唱えた方が通りがいい、と。そもそも南の賢者様がすでに魔王の情報を引っ張り出してたから、俺は呪文を唱えなくても多分見れるんだけどな。まあ、念のため。ちなみになんで俺が南の賢者様がつまびらかにした情報を見れるのかはわかっていない。南の賢者様ですら途中でぶん投げてた謎のままだ。分かったらきっと魔法の何とかにきよ、出来るんだろうけどな。まあ、魔王の封印が終わってからでもいいだろう。そんなことは。

 俺が魔法の鍵をひねって展開した魔法陣は、たった一つ。魔王の尻尾の付け根だ。こいつがオレンジ色に点滅したら、尻尾が落とせるまであとちょっとって事になる。


「俺が鱗を削るから、勇者様はそこを攻撃してくれ」

「分かった!」

「頼むぜ相棒!」


 聖女様の祈りを受けて、ガエルの盾ほどじゃなく、もうちょっとうっすら抑え気味に輝くミノタウロスの斧を、ドラゴンに変じた魔王の尻尾の付け根に叩きこむ!

 剥がれたのは、数枚の鱗。まだ、魔王はこちらを振り返らない。俺はまた振りかぶり、斧を尻尾に叩きつける。何度も、何度も、何度でも。お前の鱗をはいでやる。


 ギャアアアアアアアアァァァァァ!!!


 ドラゴンが吠え。こちらを振り返る。どうやら一撃が通ったらしい。ぐるりと体勢を変えて、俺に向かって足を持ち上げ、振り下ろそうとして。


「お前の相手はこっちだ!」


 魔王が完全にこっちに振り返る前に、ガエルがさっき俺が魔王の翼を破った石を魔王の顔に向けて放り投げる。ガエルは左手に盾を持ったままだから、そこまでの勢いが出ない。それでも、魔王は、標的をガエルに変える。あの盾には、魔物を挑発する効果があるんだろう。おそらく聖女様の祈りにもある。あの光り方はどう見たって挑発してるだろうよ。魔王の背後に回ってるここは、魔王の吐き出す瘴気のほとんどど真ん中で、周りは暗い。手元や足元は見えるが、遠くの、南の賢者様たちがどこにいるのかはよく分からない。それでも、ガエルの盾がびかびかと輝いてくれてるから、場所が分かるのだ。

 魔王は腕を振り上げて、そのびかびか光る盾を殴る。かったそうな、あの盾を。


「よしカミーユ、斬っていいぞ」

「うん」


 魔王がガエルを狙っている間に、俺とカミーユで尻尾を攻撃する。俺たちに対して魔王が振り返ったら、ガエルが石を投げたり南の賢者様が攻撃をして、またガエルを狙わせる。それをただただちまちま繰り返して、まずは尻尾を切り落とした。念のため、尻尾を切り落とすのもカミーユにさせる。その間に俺は、目の前にある後ろ脚の付け根に攻撃だ。お前も落とそうな。


 グアアアアアアアァァァァァァ!!!!

戦闘シーンは書いていてとても楽しい。

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