14.勇者様とダンジョンに行こう-1
エマール国はウジェ川沿いにあるオーリク村。の、さらにそばにあるダンジョン。そこにはサイクロプスと呼ばれる巨人がいる。一つのフロアに一体、そして九フロア。つまり九体。しか、いない。そんなんなんのうまみもねえから、冒険者は寄り付かない。冒険者が寄り付かないと、いつかダンジョンからモンスターがあふれてしまう。
そうならないようにつまらないダンジョンのモンスターを何とかする仕事がある。通称間引き。この村のダンジョンはよほど美味しくないと見えて、なんか色々特典がついてきた。
いや、単に南の賢者様にお願いしたかっただけじゃねえかなとも思うけれど、ありがたく俺たちはそれを受けることにした。だってあっちがくれるっつってんだし。
俺たちにとっては、勇者様と仲良くなれて、もしかしたら勇者様に稽古が付けられて、俺の修業も出来るわけだから、まあありがたい話ではあった。
まず初日は、南の賢者様のジジイと一緒にダンジョンの底まで行ってみることにした。ここまでの道中で入手しただけの武器と防具じゃ、俺一人じゃ踏破出来ねえのは確定だからな。俺と南の賢者様の二人だと、怪我しても治せないというのがネックだ。一応どこだったか忘れたけれどどこだったかのでかい街の冒険者のギルドで怪我を治すポーション、って奴は買ってきた。買ってきたのはいいけれどまあ数に限りはあるし、オービニエの冒険者のギルドではそんなに取り扱いなかったからこいつら頼りという訳にはいかない。
ここのダンジョンに出るのは、全部サイクロプスて名前の、一つ目の巨人。俺の倍から、頭が見えないくらいでかいやつまでいた。踏まれそうで怖えのな。
「んー、今の小僧なら、一人で三階までは行けるな」
三階までって言うと、俺の倍くらいあるでかい一つ目の巨人と、一階のヤツと同じくらいのサイズで頭が二つある巨人と、空を泳ぐ一つ目の魚だ。
どれもこれも弱点は目で、普通に立ち向かうと攻撃は届かない。無理に決まってんだろ。だから石を投げる。最初の二体は普通の、ええと、無属性の魔力を付与して投げる。うまく目ん玉をえぐれればそれで勝てる。で、最初のかその次のヤツが持ってるでかい棍棒を手に入れるだろ。運がいいとこのどっちかが魔力を持ってる奴だ。最初からこんな、攻撃は届かねえわ手に入るアイテムも持って帰るのだけで一苦労だとか、まずいにもほどがあるわこのダンジョン。そりゃ冒険者寄り付かねえよ。俺にはデカくて重くてありがたい武器だけどさ。
三匹目の魚は雷をまとわせた石を目ん玉に当てりゃいい。で、落ちてきたところを棍棒でタコ殴りだ。こん時棍棒にも雷を付与、だ。ここまでは俺だけでも問題なく行ける。ジジイは持ち込んだ簡易椅子に座り込んで見てるだけだ。いや、初めて潜った時は色んな事を教えて貰ったけどさ。けどやっぱり座ってはいた。ジジイは立ってるの辛いんだと。俺はなんも言ってねえぞ。
「とりあえずだな」
「おう」
「いきなりお前さん一人で三階まで周回してます、は、やっちゃだめだわな」
「別に問題なくねえか」
「んや、勇者様をある程度まで育てたら、お前は冒険者辞めるんだぞ? 引き止められて面倒なことになる」
「そんなこともあんのかよ」
というジジイの見立てに従って、一日一回ジジイと一緒に地下までお散歩だ。討伐の証はサイクロプスの瞼。それから薬の材料になるとかで、眼球も出来るだけ綺麗に抉り出す。つっても、そこが弱点だから綺麗になってる奴ほとんどないんだけどな。ギルドの受付で怒られた時は間引きの依頼じゃねえのかと確認した。綺麗に抉り取れたらボーナス、そうじゃなくても通常買取だろうがよ。綺麗に抉り取れなかったら持ち込みもしねえぞ? 潰れてたってこのサイズだ、使い道あるだろうがよ。
今の俺は前の俺と違ってそれほどいかつい外見はしていないが、それでもジジイを見てここまで来たから凄み処と凄み方は分かる。受付に肘をついて前傾姿勢。瞬きしねえで受付の姉ちゃんの目をしっかりと覗き込む。上からでも下からでもいい。同じ高さでももちろんいい。どの角度からだっていいらしい。ただきっちり、覗き込め。目をそらしたくなるくらいきっちり。
たまにこっちの目をしっかり覗き返してくる奴もいるから、そういう場合は譲歩を引き出せりゃいいんだってよ。なあ、それチンピラの手法じゃねえか? なあおい、南の賢者様よう?
まあ俺がやると様になるだろうから、まあいいか。多用すんなって言われてるから、普段はしねえけど、今はやり時だろう。
町に出るのに歩いていくかと、村の入り口でリュックを背負い直したら、おっさんの一人がちょいと町まで買い出しに行くからと荷馬車に乗せてくれた。時間的には大差ねえんだけど、話せる相手がいるのはいいことだ。ちなみに買い出しに行くのは薪で、その金はジジイが出してる。年かさのガキどもに駄賃をやって、火をつけるのは俺が魔法の鍵で練習がてらやるけれど、火が絶えねえように見張らせてる。あと浴槽から湯が減ったら井戸から水を追加したりとか。沸かした風呂は、俺以外の村人たちも入りたい奴は入っていい事になったそうだ。もったいねえもんな。
必要なもんを売り払って、必要なもんを買って。俺たちはオーリク村に帰る。
毎日ダンジョンの一番底まで行くけど、一回行くだけだ。周回はしない。朝起きて朝飯食って、借りてる宿の前、つまり広場で素振りとかして体を温めて、昼飯前にダンジョンに行く。ダンジョンの中で昼めし食って帰ってきたら夕方。そこからもうちょい素振りとかしてクールダウンしてから、風呂入って寝る。そんな毎日だ。
最初の頃はゴブリンから分捕ってきた粗末な棍棒で素振りをする俺を、村人たちは遠巻きに見てた。気が付くと、その辺の小枝を拾って餓鬼どもが隣で素振りを始めた。危ねえから隣は辞めろ。
「足は肩幅に開いて、右を半歩から一歩下げろ。デオダ、お前は左利きだから左足だ」
「あい」
一応騎士団で、教え方も習ってきた。つっても、先輩方が新人の従騎士にやってる後ろをついて歩いてただけだけどな。
「枝はしっかり握りこめよ。手からすっぽり抜けたら、近くのヤツにぶつかる。そいつが当たったら怪我をしたり当たり所が悪かったら死んじまうんだ」
何度も先輩たちに言われたことだ。
お前はそれを抱えて騎士になるのだと。下手すりゃ死ぬまで、それで騎士になれなかった奴をお前が養い続けろと。そうしたくねえなら、手を放すなって。
「おらそこ、ちゃんと距離とれ距離」
今作初めてしっかりダンジョンの設定をしました。
サイクロプス九体分データあります。
いやデータはないわ。データまではないけれど、どんなサイクロプスが出るかは決めてから書いています。




