7.南の賢者と北の賢者-2
南の賢者様も似たような感じなのだろう。他国の王子さまからいきなり手紙を貰って力を貸して欲しい、って言われても、って思うんだろうな。そこに、自分の国の王族からのお手紙が着いてりゃ、ってことだろう。
なるほどなるほど、と俺は頷く。
「そういうのをひっくるめて、根回しっていうんだわ」
「あ! 王妃様とかがやってる奴だ!」
侍女さんたちが言っていた。王妃様は根回しがお得意だ、と。これか!
どんなものか詳しくは分からないし、俺が王妃様やお姫様方の護衛をする日は来ないので、詳細は知らないままだが、そうそうと騎士団の先輩方が頷いていたので、良いのだと思う。
「南の賢者様より、お返事が参りました」
それは陛下と王子様の間でお話が出てから、五か月は経った頃だと思う。確か王子様が十二歳になるかならないかの頃だったはずだ。南の賢者様の話題が出たの。
王子様はそれからコツコツと頑張って魔王復活についての本を読んでいた。その内容をまとめるために、俺に説明をする、という流れだ。ちなみに俺の感想はほぼ毎回「そうなんですか」で、王子様は不満げだ。仕方ねえじゃねえか、興味ねえんだから。
南の賢者様からの返信を王子様の部屋に持ってきたのは、陛下のお付きの文官の人、らしい。ジジイに取り次ぐ。及第点を貰えたから、部屋の入り口で出迎えるのは俺なんだけれど、こういうのはまだジジイのが適任だ。
「ベランジュに代わります。お待ちください」
「どうされましたかな」
名を出せば、それだけでジジイが近づいてきてくれる。あとは任せた。
「ああ、ベランジュさん。南の賢者様よりお返事が届きましたので、お持ちしました。こちらの開封済みのものが国宛、未開封の物が殿下宛になります」
「ご丁寧にありがとうございます。ベランジュが確かに受け取りました」
それでは、と言って、使いの人は帰っていった。ジジイは受け取った手紙の内、開封済みのものを開いて確認する。内容に、さっと目を通して、開いたまま俺に渡した。俺はそれを別に読まずに手に持っているだけだ。多分読んでもいいのだろうけれど、読む必要性を感じない。あとちらっと見てみた結果、俺には難しい、ということも分かった。知らねえ単語しかなかった。
それからジジイは封がされている方の手紙を検める。といっても中を見るわけじゃなくて、開封してもいいかどうかの確認、って奴だ。多分大丈夫だろうとは思うんだけれど。陛下のいる方の城でもやってるだろうしな。それでももしかしたら、何か仕込まれている可能性がある。ここ城だし。
「どうしたの」
「南の賢者様からお返事です」
ジジイはそう言って、開封済の方を俺から受け取って王子様に渡した。王子様がそっちの手紙を呼んでいる間に、ジジイは王子様宛の手紙を開封する。そうして、ざっと目を通した。
王子様っていうのも、大変だなと思う。手紙の内容、筒抜けだもんな。勿論、今回送ってきた手紙は、こうなんていうのか、国同士がケンカになるような内容が書いてある方が困るので、チェックされるってことは、あちらさんも知ってるんだろうけれど。
「恋文とかも、チェックされるんすか?」
「殿下あてのですか?」
「です」
「そうですねぇ……。第一王子殿下には、すでにご婚約者様がおいでなのはご存じですね?」
「あのお祭りやったやつですよね」
「そうです」
おそらく次の国王になるだろう第一王子殿下が、しばらく前に婚約者を決めた。その方を国中に周知するためにお祭りが開かれた。俺自身はよく知らねえし、街に住んでる連中と一緒になってパレードを見たくらいだ。正しくはあの時、警備に駆り出されたから、城下町に住んでる連中がパレードの前に出ちゃったりしないように大通りで警備しながら見たんだ。つまり最前線。陛下から王子様に話がきて、ジジイから参加するようにって言われたんだった。あれも根回し、だな。
「第一王子殿下方のように、すでにご婚約が成立している場合では、よほどの事がない限り確認はされません」
「あ、される場合もあるんだ」
「そうですねぇ。お嬢様のお家の方ではない者が持ってきたときなどは、確認されますね」
「あー、偽物の場合があるのか」
「褒めてあげましょう」
やったぜ!
まあ、もう。褒められても肉大盛はなくなったんだけどな。それでもやっぱり、褒められると嬉しい。今回と前回くらいしか、そんなことなかったからな。
「そうか。殿下への恋文のふりをして変なもん送られたら困るから、恋文もチェックなんすね」
「左様です。そうして、貴族というものは、そういう事が往々にしていることをご存じの上で送ってまいりますから、気にする必要はありません」
ねぇのかよ。でもそうか。基本的にどこの家でもやってるってことか。じゃあセドリック団長の家に手紙書く時とかも気を付けた方がいいんだろうな。書く予定ねえけど。そもそも本人に手渡しすりゃいいわけだ。
「南の賢者様、ご自身でこちらにいらっしゃるそうだよ」
「マジか」
「お出迎えに上がらなくてよろしいので?」
王子様が読んでいるのは、南の賢者様から届いた方だ。ジジイはざっと目を通していたと思うけれど、そうでもないのかな。つか南の賢者様が手紙に魔法でなんか仕込もうとしたら、俺らじゃ手出しできなくねえか?
「バティストに迎えに来させろって書いてあるから、もしかしたら御記憶をお持ちなのかもしれない」
「相変わらず口わりいな、あのジジイ」
俺が言えたことでもねえけど、南の賢者様は口が悪い。北の賢者様はお上品でお高く止まってるから、俺は南の賢者様の方が気楽だ。どっちもよく分かんねえ年寄りなんだけどよ。
「別に行ってもいいけど」
道については調べれば何とかなるだろうし、国の方で調べて俺に教えてくれるだろうし、ボードレールの賢者の塔まで行くのか、それとも国境まででいいのかとかも、多分書いてあるだろう。
「南の賢者様、馬乘れんの?」
ちなみに俺は乘れるようになったけれど、誰かを乗せた状態では走れない。騎士団の先輩たちはそれくらいできるし何なら貴婦人を横座りで乗せて走れるらしいけれど、俺に求めないで欲しい。前の時だって、俺一人で乗れる程度にしか練習してねえし。今回だってそうだ。出来ればもうちょっと頑張って、馬上槍を使えるようになれと言われている。必要ない気がするけれど、楽しみではある。
王子様は、南の賢者様に送った手紙に俺の事は書いていないはずだという。とりあえず陛下の方に確認してくれるそうだけれど。そりゃそうだ。そっちに書いてあるかもしれねえもんな。
俺が南の賢者様を迎えに行く。その方向で話はまとまった。




