スモーキング・シュガー 〜リバース〜
この前に書いてたK様依頼のスモーキング・シュガーの完全版です。
あの女サイドの心理描写なども入り完全版となってます。『』の部分が追記分になります。
一文字分頭がズレてたり、【。】で終わってるところが心理描写、普通に『』な部分が追記のセリフになると思って下さい。
「……またあの女いんな」
『……またあの男来たわね』
朝の一服……コレがねぇと仕事にヤル気が出ねぇんだよな。家で吸ってっと嫁と子どもがうっせーから、いつもこの職場近くのコンビニの喫煙所で俺は吸っている。
『朝の一服……コレがないと仕事にヤル気が起きないのよね。ウチの会社は全面禁煙だから、いつもこの職場近くのコンビニまでワザワザ吸いに来ないといけない。』
「「…………」」
今日も今日とて別に会話するでも無く、灰皿の近くでお互い立って煙草を吸っているだけの赤の他人……だけど何か気になっちまうんだよなそいつの事が。偶にだけどチラッと見られている様な気もしてしまう。
年は同じくらいか? 彼女も職場が近くなのだろうか? まぁだからといって「もしかしてどっかで会った事あります?」なんてナンパな台詞を言うつもりも無く、もしそんな事してんのがバレたら嫁に俺は殺されるだろう(笑)
『今日も今日とて別に会話するでも無く、すぐそばで煙草を吸っているだけの他人……それだけよ……うん。
年は近そうね? 私と同じで近くで働いてるのかしら? まっ、別にどうでも良いけどね(笑)』
そんな日々が数ヶ月続いた…………
「チッ、今日は雨かよ」
生憎の雨模様……俺の住むこの街も先日梅雨入りしたらしい。だからってこの朝の日課を止める気はねぇぜ俺は! いつもの様にお気に入りの煙草に火を付け、この一服を楽しむ……だが、今日は俺一人。
一人……別に一人でも何らおかしな事ではない。いつも必ず隣に立って吸っていたわけでもない、居ない日だってあった。けど何故か今日は良く俺と同じ朝の日課をする女の事が頭に浮かんだのだ。
しかし、そろそろ仕事に行かねぇと課長に怒られちまう。そう思って車に戻ろうとしたところで、パシャパシャと足音をたて、小さな傘をさしたソイツが喫煙所にやってきたのだった。
「あぁ〜もう、結構濡れちゃったわね!」
『なんでウチの会社全面禁煙なのよ……喫煙スペースぐらい作ってよホントに……そんなイライラを忘れるべく私はいつものお気に入りの煙草に火をつける。』
そんな愚痴を零しながらも彼女はいつも通りに彼女のお気に入りなのであろう煙草に火をつける。
「わざわざ濡れてまで此処に吸いに来るんだな」
「ウチの会社全面禁煙なのよ! だから一番近いここまで……って、えっ?」
「――あっ、すまん。声掛けて迷惑だったか?」
『驚いた……あの男に急に話しかけられた……なのになんで声掛けたアンタが驚いてんのよ。』
何故だろう……無意識に自然と話しかけていた……向こうも俺に声を掛けられたのが意外だったのか少し驚いているようだ。
「ワルイ、俺はもう行くから」
「アッ……」
『一体何だったのよ。いや、どうせなんとなく不意に言葉に出たって感じだったんでしょうけどね!』
そう言って俺は逃げる様にその場を後にした。いや、ここで話し込んでしまったらホントに「遅い!!」と課長に叱られそうだったからで逃げた訳じゃねぇから!
こうして俺達の初めての会話は終わりを告げた。
『次の日、今日も今日とて煙草を吸いに……今日は私が先みたいね……って、どうしてあの男の事なんか考えてるのかしらね私。あぁ〜無視だ無視無視。』
次の日、今日も今日とて煙草を吸いに……今日は向こうが先に居た。
その女は一瞬チラッとだけ俺を見たが、直ぐに違う方を向いていつもの様に煙草を吸い始めた。ここで声を掛けられようなら気まずかったが、そっちがその対応ならと俺は俺で愛用の煙草に火をつけて朝の日課を楽しむ事にした。
結局、その後はお互い話しかけるでも無く、前と同じ状況に戻ったとさ。コレでこの女とももう話す事も無いだろうとこの時の俺は思っていたのさ…………
『…………ほへっ?……ヤッバイ! 寝坊した!?』
『今日は会社に出勤ではなく、大型のホールで行われる新卒向けの就職説明会のブースに人事部の仕事で行かなくてはならない。日課どころじゃない……そのまま現場行きねコレは。
ギリギリ間に合った私は先輩の下準備を手伝う。学生を迎える準備が終わりオーケーを貰ったので、一息入れに行く事にした。まぁあとは学生の来る開始時間まで待機なので今の内ね。』
「……ねみぃ」
今日は朝から現場が入ってて、お早い出社だ。まだ日も登りきってない薄暗い時間帯……一人寂しく日課を済ませ、現場へと。
バイトの連中に激を飛ばしながら一仕事終える。いつもなら会社に戻って次の現場の準備をするところなんだが今週は暇なせいか、俺も現場の転換作業の為残る事になった。まぁ時間まで何事も無ければほぼ待機なので楽なもんだ。
「お願いしまーす」
お客さんからのOKが出て作業に入る。俺はブースの追加変更の出店者のとこに入ったのだが、ふと隣のブースの出店者が急に出てきて、ぶつかりそうになり避けたのだが……
「あっ、スマセ…………」
「いえ、こちらこ……えっ?」
『あの男が目の前に立っていた。
なんでコイツがここに居んのよ!? 一瞬ギロリと睨んじゃったけど、今は一息つきたい衝動が勝った。無視して喫煙スペースに行くのを優先した。』
あの女が目の前に立っていた。
なんでお前がここに居る!? って感じの目で一瞬ギロリと見つめられ、何事も言わず去っていった。小休憩にでも行ったのだろう。
「なんかなぁ〜」
俺はパパパと作業を済ませ、あの女が戻ってくる前に作業を終わらせ、先輩と会社に戻ったのだった。
「明日の撤去入ってなくて良かったー」
『開始時間が近くなってきたのでブースに戻った。』
『もう居なくなったみたいね……なんかなぁ〜』
次の日……あの女は来なかった。恐らくだが昨日設営した会場に仕事で居るのだろう。
「さて、今日も一日頑張りますかっと!」
俺は車のエンジンをかけ、会社に向かうのだった。
『次の日……あの男は居なかった。もしかしたら撤収の時に片付けに来るかもなんてずっと考えてたけどそれも無かった。』
『なんで来ないのよ…………』
『あれ? なんで私そんな事……何となく胸にモヤモヤを抱えたまま、会社へと帰ったのだった。』
「「…………」」
見られてる……チラチラとだが絶対に見られてる。
この前現場でバッタリ会った日から、こうして日課の煙草を吸ってる間にチラチラと見られる様になった。まぁ勿論会話という会話があるわけでは無いのだが。
そんな日が2、3日続いた後、今日は向こうが先に来ていて、車を降りた時からだろうか?
「……視線を感じる」
今日はチラチラでなく、確実にジッと見られている。
喫煙所について、煙草を出したところで今度は向こうから声を掛けられた。
「あ、あの!」
「!?――おぅ、なんすか?」
向こうから話し掛けられたのはコレが初めてか? 何を言われるのかと警戒していると、ポケットに入れていたケータイが鳴った。
「……あっ、どうぞ」
「あっ、はい」
嫁からの着信だった。今日は何時頃になるかの確認と、夜予定ができたから晩飯は外で食ってくれとの事だった。
電話を切った後、改めてあの女の方を見ると何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「あの……今のって…………」
「あぁ、嫁からの電話で……『――!?』」
「嫁……奥さん…………」
「そんで何でしたっけ?」
「……いや、何でもないわ」
あの女は煙草を灰皿に押し付ける様に消した後、何も言わず去って行った。
『あの日を境に、どうしてかあの男の事が気になり始めた。どうしてかチラチラと煙草を吸うあの男をチラ見してしまっている私が居る。だからといって会話があるわけでも無いのだけど。
そんな日が2、3日続いて、私は意を決してあの男に声を掛けてみようと思った。この胸のモヤモヤをハッキリさせたくて……だけど直ぐにあの男の携帯がなって会話が途切れて……チラホラとだが会話の内容が聞こえてきて――!?
その後、何か話したみたいなんだけど、もう覚えてないや…………私はあのコンビニの喫煙所に煙草を吸いに行くのを止めることにした。これを機会に煙草も……は無理そうね。』
『ちょっと遠くなるけど反対のモールの喫煙所にまで行くかなぁ……ハァッ…………』
今回の事で分かった。私はあの男の事が気になり始めていたのだろう。
『……既婚者かよ! クソがっ!!』 カーン!!
『私は地面に転がっていた空き缶を蹴り飛ばし、会社へと戻ったのだった。』
それからだが……あの女はこの喫煙所に姿を見せることは無くなった…………俺の朝の日課は変わらず続けている。
半年程続いたあの女との奇妙な関係……何かが違えば違った未来が合ったのだろうか? そんな事も一瞬考えはしたが、終わった事と方を付け、俺は今日も仕事に向かう。
愛する妻と子ども達の為に今日も一日頑張らねぇ〜とな!
こうしてこの奇妙な体験は終わりを告げた。
『終わらない愛憎劇が始ま……「らせるかあぁぁぁぁぁ!!」……イヤン♡』
もし連載にした時のプロットを考えたらドロッドロ愛憎劇なバッドエンドな感じになりました。
K様もソレに関しては反応が微妙だったので恐らく書かれることは無いと思われます……(笑)