神隠しと消えた少女と■■■
『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
とうとうこのオレがヤってキてヤったぜ!
ナンでコのオレがキたかって?
キマってんだろ!
アイツ!
アイツがイるからだよ!
コのマチにアイツがイるってハナシをキいちまったからには、アいにイかないワケにはイかないだろ!
ヨにもメズラシオレのダチ!
トモダチだぜ!
ナニカンガエてんだってな!
いくらコのヨがヒロいからってよ!
いくらジンルイ60億人だからってよ!
いくら十人十色同じヒトなぞイナイとはイえよ!
コのオレのダチになろうなんてヤカラはイるわけがナイ!
イやしナイ!
トコロがイやがった!
オレにタイして手をサしダしてトモダチになろうなんてイマじゃドラマ、アニメ、エイガ、ノベル、エホン、、エホン、ラジオでもありやしナイコトをアイツはコのオレにヤってくれた!
そんなコトサれてみ!
トモダチにならナイワケにはイかナイだろ!
そんなオレのダチがオレのイるマチにキたんだぜ!
それならオレはトモダチのアイツにアいにキたんだってんだ!
ぁん?
オレがダレだって?
オイオイオイ、コのオレをシらないワケナイだろ!
コのキバ!
コのマント!
コの使い魔!
ソレでもワカラナイって?
シカタナいからオシエてヤるよ!
━━━だ!
なっ、シってるだろ!』
第一噂
魔女と━━━と中真さんと
始まりは1ヶ月前の話だ。
中学1年生が夜になっても戻らないという。
どこにでもありそうで、なかなかありえない話だ。
その子どもが見つからない間に、また子どもがいなくなった。
2人目は小学生。
子どもが遊びに行ったりしていたのではなく、家の中にいたのにもかかわらずいなくなった。
警察が双方の事件を捜査してるなか、3件目の事件が発生した。中学2年生が集団でいなくなった。
授業と授業の合間、先生が職員室に戻り、次の先生が来る数分の間にいなくなった。
どの生徒もどの教師も見ていないと言う。
見ていない。
不審者も侵入者も見ていない。
それだけではなく、教室から出て行った生徒も見ていないと言う。
そんなことはありえない。警察は生徒の集団ボイコット、教師が首謀となっての誘拐、実は消えたことが自体が嘘といくつもの過程を立てた。
が、近隣の住民も誰一人として見ていないという。
生徒が学校から出るさまを。
自動車もバスもトラックも運搬出来る物も何一つとして見ていないと言う。
警察はこれを別件として捜査を進めた。
集団誘拐なんて想像の範囲にあるわけがなかった。
そんな中、1番目に誘拐された子どもが戻ってきた。
警察が聞こうと、親が聞こうと、教師が聞こうと、友人が聞こうと、近所の住民が聞こうと、報道人が聞こうと、兄弟が聞こうと、その子どもは黙し続けた。ただ一言だけこう答えた。
「…魔女がいた」
その後も子どもは消え続けた。
大人たちはクスリだと噂する。
老人たちは神隠しだと噂する。
子どもたちは魔女が食べてると噂する。
ここは真中市中央区にある、名も単純な中央区第一中学。
この中学でも魔女の噂が流れている。
聞けば魔女に魅入られないおまじないや浚われない祈り、逃げ切れるジンクスや食べられない印の結び方といった対処法がメインだが、それ以外にも他愛もない子供だましの噂だけが流れている。
本質的な所は一切流れない。
魔女の姿や形、服装、声、見た目、印象、雰囲気、実体を掴ませる噂は規制されているかのように流れない。
誰かが噂を流そうとしても簡単に欠き消されてしまう。
魔女が魔法でも使ったかのように無かったことにされてしまう。
噂が流れてから一月経つが、忘れ去られる兆しは一向に見えない。
「ねぇ、先生。この噂、知ってる?」
「どんな噂だい?」
「魔女の噂」
毎日、毎授業事、朝自習昼休み放課後問わずに話されちゃ忘れようがない。
それでも嬉しそうに話そうとする生徒を邪険に扱えるわけがない。
「どんな噂だい?」
「魔女の噂」
毎日、毎授業ごと、朝自習昼休み放課後問わずに話されちゃ忘れようがない。
それでも嬉しそうに話そうとする生徒を邪険に扱えるわけがない。
「どんな噂なんだい?」
「魔女に会ったらポマードって3回言って、紫の物を投げたら魔女が逃げるんだって」
僕が子どもの頃流行った『口割け女』と『紫ババア』が混ざってて原型が無くなっている。
子どもも不安なのか休日も夜遅くにも電話を掛けてくる。
頼って貰えるのは嬉しいことだが、休みの日にさえ蔓延る魔女の噂は早く消失してほしい。
不安が不安を誘い呼び、このままだとどんなことも魔女の仕業にされてしまう。
現に2日前に発生した誘拐未遂の事件も犯人は、今なら魔女の仕業にできると思った、と言っている。
「そうなのかい。…沙耶はなんで魔女は子どもを連れてくと思う?」
生徒が魔女の話をするたびに、僕はこれを聞いている。
自分の答えを言ってくれる存在を求めているからなのか。
「みんなは食べるためって言ってるよ」
「みんなじゃなくて、自分ではどう思っているんだい?」
こう聞くことで子どもの心を問うと共に、自主性を伸ばさせる。
これもまた教師の教えるべきことだ。
「…沙耶は違うと思う。
食べるためなんかじゃないと思う。
だってそのためだけだったら悲しすぎるよ。
きっと魔女は寂しいんだよ。
だからたくさんの子どもを連れて行くんだ」
そう言って沙耶という子は教室から出て行った。
自分の生徒のその言葉に僕は心が動いた。
それは僕の知り合いも魔女について『魔女になったから寂しいんじゃない、寂しがり屋だから魔女になるのさ』って言っていたのがいる。
教室の扉を開けて少女の姿を探したが、見当たらなかった。
教室の前にいた生徒に聞いても、誰も出てきていないと言う。
階段でたむろっている生徒に聞いても、知らないと言った。
全校生徒のアルバムを見ても沙耶という生徒は載っていなかった。
沙耶という少女はこの学校にいるはずがないのにいたのだ。
もしかしたらと、思い過去のアルバムも調べてみる。
10冊目を見終え、流石にもういいだろうと思った11冊目に沙耶はいた。
沙耶の姿が載っていたのは3枚、最初の集合写真、5月の修学旅行、6月のクラス写真それ以降彼女の写るものは無かった。
7月の学校祭にも、8月の体育大会にも、3月の卒業写真にも沙耶の姿はどこにも見当たらなかった。
どのクラスを見ても沙耶が撮られているページは無かった。
気になった僕は校長にこの時代の帳簿を借りた。
そこに沙耶の名は確かにあった。
名前の下には行方不明とサインされている。
時は36年前、山に3人に女子中学生が入ったが、帰ってきたのは2人だった。
2人の少女はもう1人の行方を知らないという。
先に帰ったと思ったと少女たちは言った。
山狩りをしても少女は見つからなかった。
天狗様に見初められたんだろうということで、それっきり少女が探されることはなかった。
その少女の名は『霧沢沙耶』という。
帳簿を見終えたとき、背筋を一つ汗が伝った。
何かに見られてる。
視線を感じた方を見ても誰もいない。ロッカーがあるだけだ。
心臓の鼓動が速くなる。
ロッカーは若干開いてある、人一人覗ける程の隙間が。
物音を立てないように静かにロッカーに歩を進める。
荒い呼吸音が近付くにつれ、大きく聞こえる。
その隙間から人のような影が見える。
魔女。
生徒に何度となく言われたからか、いるはずがない沙耶に出会ったからか、その言葉が頭をよぎる。
恐怖が体を縛るが、教え子かも知れないので開けなければいけない気がする。
何よりも知らないことが怖い。
見つめる何かの正体がわからないことが怖い。
ロッカーに恐る恐る手を伸ばす。
ガンッ!
重い金属音と共にロッカーの一部が丸く突起した。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!!!
ビクッと思わず後退りする。
人がそこから出ようと、人がそこから助けを呼ぼうと、人がそこにいることを気付かせようと何度も何度も何度も叩かれ、拳の跡が残る。
ロッカーの扉は一面、拳痕が犇めく。
静寂がまた戻る。
この静寂さえも五月蝿く感じる。
もう一度腕を伸ばす。
ゴクッと口の中で溜まった汗が喉を落ちる。
「先生ってビビりなんだね」
声で誰がいるのかわかった。
勢いよく振り返る。
想像していた通り、沙耶だった。
だがそれよりも不安が心の中で湧く。
ロッカーの中にいるのは沙耶だと思っていた。
それがロッカーの外に沙耶はいる。
じゃあこの中には誰が、いや何がいるのか。
沙耶がここにいるせいなのか、ロッカーからもう何の気配も感じない。
ゆっくりと扉を開けたが、何も入っていない。
入っていると言えるのはせいぜいうっさらと積もる埃くらいだ。
「君は霧沢沙耶なのかい?」
沙耶はにっこりと笑った。
喜びと歓びが混ざった笑み。
初めて知っている人に出会ったような笑み。
そして子どもらしくない妖しく艶のある笑み。
沙耶はクスクス笑いながら、僕の問いに答えず、教室から出て行った。
後を追うが当然、沙耶の姿を見つけることが出来なかった。
これが僕と魔女かもしれぬ少女、沙耶との二度目の出会いであった。




