遥とみゆき
高校卒業を機に、一人暮らしを始めた私は、安普請のアパートへと帰宅する。
「ただいまー」
錆だらけの薄い扉を開け、私だけの不可侵空間へ入る。
「おかえり」なんて言ってくる存在なんていないのに、ついつい「ただいま」を言ってしまうのははぜだろう?
三階建てのアパートの、二階の真ん中が私の部屋だ。
築三十年らしいこのアパートの家賃は、とても安い。
とくに私の部屋は、月五千円の家賃だった。
瑕疵物件らしく、いわくつきだったみたいだけど、高校卒業と同時に親が離婚し、家から追い出された私には天の助けかと思い飛びついた。
「おかえり」
断言しよう。
この部屋には私しか住んでいない。
「疲れたでしょ? ご飯にする?」
住む場所を確保して人心地がついた私は、なんとなく事故物件サイトでこのアパートを検索した。
思いっきり、生々しい殺人事件が記載されていた。
目の前には、半分透けている可愛らしい女子高生がいる。
「遥ちゃん、頑張り屋さんだから、心配だよぉ」
「みゆきちゃん、お気遣いありがとう……」
「ううん! えへへ、幽霊だからご飯作れなくてごめんね」
照れたようにはにかむ幽霊のみゆきちゃんを可愛いと思ってしまった私は、重症なのだろうか。
慣れって怖い。
最初、みゆきちゃんと部屋で遭遇した時、めちゃくちゃ怖くて深夜なのに絶叫していた頃が懐かしい。
引っ越し初日、金縛りにあって、目を開けたらみゆきちゃんがいたんだよね。
初めて、みゆきちゃんと出会った日のエピソードだ。
なんだこれ。