転生
平凡な毎日を送っている女子大生が事故って死んで異世界のお貴族様に転生したら・・・
「おはようございますご主人様、朝餉はいかがなさいますか?」
メガネをかけた知的なメイドが問いかけてくる
彼女の背後にいるもう一人、赤髪のメイドがカーテン、窓を開けながら語りかけてきた
「今日は白パンにジャムにサラダ、ポトフですね」
ふぅん、どうしたものか
「ん、じゃあちょっとだけ貰おうかな」
「畏まりました」
ニコっと笑いながら彼女は部屋を後にする、柔らかな髪がフワっと動く度に爽やかな柑橘の様な残り香を漂わせながら
いつの間にかそばに立っていた知的なメイドに助けられながら服を着替え部屋を後にする
「新聞と報告は普段の通りで?」
「あぁうん、構わないよ」
「それでは領主様、本日の歩まれる軌跡に栄光がありますように」
そこまでやって目が覚めた
「あぁ…うん、今日も1限か…」
現実に目を覚ました私は中堅私大に通うしがない女子大学生だ
3食出てくるし家事もしなくていい実家大好きな大学生だが残念ながら親に「一度は一人暮らしをして親にありがたみを感じろ!」と言われ今はアパートに一人暮らしをしている
「あー、朝からこれを見なきゃいけんの辛いな」
ハンダゴテを床に落としてフローリングマットの床に開けた派手な焦げ穴を見ながら冷蔵庫を漁り朝飯を取り出すと、次に給湯器に手を伸ばす
白パンにジャム、サラダにポトフねぇ、朝からコンビニのおにぎりとインスタントの味噌汁よりはマシか
おにぎりと味噌汁を数分で平らげてしまった
「6時47分…1限は9時か…8時半までは寝てても間に合うな」
そう呟くと再び布団に潜り意識を手放した
〜〜〜
ヤバイヤバイヤバイヤバイやばいやばいやばいやばやばい
完全に寝過ごした、現在時刻9時18分、急いでチャリ漕いで運が良ければギリギリ30分までには着けるか?30分までは遅刻にならないのが救いぃい!?
「ファッ!?!?」
鏡のない十字路から幼稚園児が飛び出してきた
何故この時間に幼稚園児?え?
咄嗟にハンドルを切りなんとか衝突を避けるが大きくふらつく
「わっっとっえ」
バランスを崩し勢いよく倒れ込んだ後頭部の向かう先はレンガの壁の角
「…あ」
大きな衝撃と共に意識が途切れる
閉じた瞼の裏に光の点が収束する様な錯覚を覚えた刹那、意識を完全に失った
〜〜〜
あ…なんだ…
どれくらい寝ていただろう、意識を取り戻したが妙な感覚に襲われている
全身を布か何かで包まれている様な感覚、だが決して硬い感触ではなく柔らかい優しい感触だ
救急車!?こう言う時どうすれば…あ、意識がることをアピールした方がいいか!?
口を開けて必死に言葉を紡ごうとするが
「あ…ぅぉああうぇえええええええあああああ」
言葉にならない
あんれぇえええええ!?おかしくない!?言葉にならないぞ!それに歯の感触もない!!
抜けた!?レンガに後頭部ぶつけて衝撃で「スポーン!!」って行ったのか!?な訳あるか!!
「奥様、元気な女の子です!!」
一人で考えていると年老いた女性の声でそう言ったのが聞こえた
え?産婦人科?ここ救急車じゃないの?
すると直ぐに
「あぁ…私の可愛い娘…名前は決めてあるわ、あなたはミトラ…私の故郷の言葉で“偉大なる光”と言う意味よ」
ミトラ?いやいや私はそんな痛々しい名前じゃないけど、成行ってかいて「なゆき」よ!?
由来を聞かなくてもなんとなく察せる嫌な名前だけどそっちのベクトルで嫌な名前じゃあない
でも
私をのぞき込むそのおきれいな顔が安堵に彩られているのを見るとそんなことはどうでもよくなってきた
なんか・・・すごい眠い・・・?
~~~
はい、そんな気はしてましたがまさか当たるとは思いませんでした
そりゃ、この手足を見ればまぁ何となく察するってもんよ
私のすらりと伸びた大根のようなむっちむちの太ももと腕が縮んで大福のようなしろふわボディに代わってしまっているではありませんか
あの体にいくらかけたと思ってんだ!!!
そう叫ぼうにも
「あうあうあうあーーー!!!!」
と、赤子のからだではままならない
これってやっぱ、転生してるよなぁ・・・
時間もたってだんだんと理解が追いついてくるけど、やっぱりいわゆる異世界転生ってやつか
時々メイドが私に母乳を与えに来るけどその時に魔法とか使ってたし
まぁ普通に考えて異世界だよね
前の世界に未練がないというわけじゃない
でも、
この世界最高に楽しそう!!
というのが今の本音、まぁ面倒な就活とか色々の前にあの世界をリタイアできたのは幸運かな
等と考えていると
コンコン と扉が叩かれ誰かが入ってくる
赤子相手に礼儀を正した行動してくれるのか と毎回小さく驚いている
「お嬢様、ご飯のお時間です」
メイドの声が響く
うーん、毎回思うんだけどこの声どうにも聞き覚えがあるんだよな・・・そう、あのメイドに起こしてもらう夢の中に出てきたあの声に
でもなんだか・・・
ドンッ
「はぁ・・・面倒くさいわね」
夢で見た時よりずいぶんと冷たいっていうか
「仕事だからやるけど、他人の子にお乳をあげるのって気乗りしないわね」
うーん、正直クールなお姉さんに嫌な顔されながら授乳してもらうのは悪くない、いや正直毎日の楽しみと言えるだろう
ただ
「まだ飲むんですか・・・気持ち悪い」
罵声はちょっと押さえられんものかね・・・
ふぅ、メイドの機嫌も悪いし今回はこのくらいいにしておくかな
「お腹いっぱいになりましたか?あなたは食べて寝るのが仕事です、遠慮はいりません」
前言撤回
「まだ飲みますか・・・今度こそお腹いっぱいになるまで飲むんですよ、お乳は体を作る基本になりますから」
どうやらこのメガネのクールメイドは冷たいだけで仕事はしてくれるらしい
ちょっと見直した
「サレン?入っていいかしら」
扉の方からもう一人女性の声がした、この声は確か
「はい、丁度ひと段落したところです」
「ミトラ、今日もおなか一杯?ごめんね、お母さんがお乳を出せたらよかったんだけど・・・」
こっちの世界での母だ、どうやら母は母乳が出にくい体質らしくメイドに母乳を頼っているらしい
「いいよ、役得だし」
「あらそう?じゃあ・・・え?」
「えぇえええええええ!?!?」
「サレン?今のきいた?」
「は、はい、役得だと・・・」
私の心の声がどういうわけか漏れ出てしまった
次話はいつにしよう