ギャルは私の名を
モヤモヤとした胸の内を曝け出した後、私は近所の公園で黄昏ている。
何か考えても話は進まない。
話は何者かの介入によって進行するのだ。
木造のベンチ フル汚いトイレ 錆びたゴミ箱
井戸端会議中の母親集団
砂場でう○このオブジェ作るガキ
とても平和だ。やはり休日はこうでないと。
昼を過ぎ、日光の刺さない木陰のベンチはエアコンには勝らずとも最高の快楽だ。
色褪せた表紙の漫画を顔に被せ、惰眠を貪ろうと肩の力を抜いたその瞬間、横から声をかけられた。
「おじさん、なにしてんの?」
「ぐか〜」
きっと2時間前に聞いたギャルの声のそっくりさんだ。
知らない人ってやつさ。
俺は寝るんだ。
アデュー、知らない人。
「ちょっと〜 ムシですか〜?起きてくださいよ〜?」
彼女は私の顔の本を手に取り、閉じながら語りかける。
強い日差しを跳ね返す金髪が綺麗だ。
「あ゛〜なんだ ギャー子ちゃん...だっけ?
俺は老け顔だが22歳だ。それとなんで俺がわかった?
本で顔隠れてたろ」
「強いて言うなら おでんの放電 なんて書いてあるシャツ着てるの、今日あった貴方しか知らないから」
なんてダサいシャツ着てるんだろう....
気だるい体を起こし体勢を立て直す。
俺は気になったことを口にした。
「....それでなんの用? そよ風誘う木漏れ日でうたた寝しようとしたお兄さんを起こしたんだ。高くつくぜ」
「鼻につく言い方するねおじさん、別に何もないよ。
強いて言うなら激カワJKが木陰で腐りかけてる可哀想な人に声をかけて善行を積んでるの」
どうやら彼女には私がやさぐれてる人にでも見えてるらしい。
遠巻きで見てる主婦方の視線からそん気はしてたが目を逸らさない現実を指摘されてしまったようだ。
「こんなとこで油売ってるぐらいなら行くよ、ほら」
「行くってどこに」
「強いて言うなら、デート」
そう言うと彼女は真っ直ぐに公園の出口に歩いていく。
美人局やパパ活だなんて野暮ったい考えを振り払い、予定もないので彼女に着いて行くことにした。
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「おじさん名前なんて言うの?」
「松本」
「嘘っぽ〜」
もちろん嘘だが。
「まあ微妙に嘘でもないんでしょ?顔見たらわかる」
名に松は入る。でも本名は今日あったこいつに話したくなかった。だから松本なんてありきたりな名前を使ったがなにをどう洞察すればそんな風に見分けられるのだろうか。
「顔に書いてるよ?この怪しい女はなんなんだ〜って」
「おおそうか。なら顔をよく見てくれ。俺の気になってることも書いてあるぞ」
ギャー子は俺の正面に立ち、足を止めてまっすぐ見てくる。
照れるから早くしてほしい。
「ん〜ファミレスで会った時と話し方が違うのは何故、でしょ?」
思わず一歩引いてしまい動揺を隠せない。
「まず一つめ、アタシはただのJK。二つめ、特殊な環境で育ったから顔色で考えを推察する癖がついた、考えが読めるくらいにね」
女の子の口から発せられる特殊な環境、というやつには男が察するに有り余るほどの苦労があるのだろう。
思うところはあるが俺は言葉を飲み込んだ。
「そんなエスパーみたいな美少女JKがこんな冴えないおにーさん捕まえてどうしたいんだ?金はないぞ?」
「お金なんてパパに頼めば沢山くれるからいい」
現代JKらしい発言を聞き流し、着いた先はさっき解散した財布の味方のファミレス店。
受付に名前を書き、空いてる待合の席に腰掛ける。
「あんな話、こんなファミレスでするもんじゃないよ〜」
「じゃあなんでまたここに来た?」
「そんなもの決まってるでしょ?」
松本様〜と、私の偽名に反応し奥の席に通され彼女は私に語りかける。
「話、もっかい聞かせてよ 本名 松風さん」
私の動揺と恐怖とは裏腹に、彼女の顔は素直な笑顔だった。