浅里は土掘るへいへいほー
あさりんの絵 描きたい
犯罪を犯すものは、2つに限られる。
犯さざるをえない者と、気がついたら犯していた者。
私は、後者。
――
「〜〜♪」
鼻歌を歌いながら穴を掘る男、浅里貝徒。を、倒木に腰掛けながら眺めてるのは今回の二番目の被害者の私。
一番は誰かって? アイツの隣にいる黒のビニール袋に包まれたやつさ。
「なあ、そいつ誰なんだよ」
「ん?知らね。」
浅里は掘る手を休めずに答えた。
考えなしに行動する癖に、意外と物事を考えてる奴なんだが、今回ばかりは意図を汲み取ることができない。
私はきっと事故の被害者とばかり考えているが、ビニール袋から挨拶してる片腕が『チガウヨ』とばかりに主張してくる。
....手のひら、指ないよなアレ。
「親戚の叔父さんがさあ、必要悪的な組織の人でさ。
『揉み消してくれる代わりにこのスーパーキュートな袋をここに埋めろ』ってさ。ツいてたわ。」
「俺は世界一ツいてないよ。」
絡みたくない要因が増えちまった。
完全に悪側の人間になっちまった。
コイツがニッコニコな理由に納得がいった。
若い衆の誰かが身代わりになったんだろうな....
なんて考えてると、浅里はビニール袋を抱えながら俺の前に来た。
「さーて、スペシャルクールな俺がお前の疑問になんでも答えてやろう。なんでも聞けよ〜?」
「....なんで俺なんだよ。他にもいたろ? 適したやつ。」
「理由1、お前しかいなかった。他にも適した奴は居た。だが、信用はできない。お前は俺の中で最も信用でき、付き合ってくれる確信があった。」
余計な信用を獲得してたせいだった。
何やってんだ過去の私。
「理由2、これが最も重要だ。」
「おー言ってみろ。つまんねー理由だったら俺もひとつ死体を埋めなきゃいけなくなる」
「ブラックジョークが上手いなお前がっはっは」
こっちは笑い事じゃないんだが。
明日からお天道様に顔向けできないようなこと協力させてんだろ。
真っ当な理由が欲しい。
「今日の晩飯が鯖の味噌煮だったから」
俺はスコップを手に取った。
何事も挑戦だろう。
「待て待て待てごめん冗談冗談」
....わかっていた。こういうやつだ。
再び木に腰掛ける。
「んー....星が見たかったから?」
「なんで疑問形なんだよ。」
「あー高三の頃、夜中抜け出して愚痴聞いてもらったことあったろ?あん時のこと思い出してさ。最終的に他愛もない話をしながら煙草を吸って、星を見た。そのこと思い出してさ。」
....コイツは、社会的には悪いやつだ。
でも私はコイツのことを嫌いになれない。
その理由を、今なんとなく改めて理解した。
――
そんなこんなで俺たちはコンビニにいる。
連れ回した詫びらしい。
「ほらよ」
浅里は炭酸飲料を手渡す。
互いの詫びの気持ちはいつも150円で肩が付く。
今回ばかりはもっといいもん渡してもいいと思うぞ浅里。
「さて、これからどーすっかー」
勝手な埋葬を済ませた浅里はそんなことを口走る。
ノープランなのかよ....
私としてはすぐにでも解散したい。
ソシャゲのデイリー済ましてないんだ。
「....俺さ〜、叔父ちゃんにお小遣い貰ったんだよね。手間賃ってやつ?」
....これ長引くやつだ。
「まあなんだ、ラーメン食いに行くか。タコ唐あるとこ」
正直これ以上付き合う義理はない。
見ていただけとはいえ、犯罪者の仲間入りだ。
俺としてはさっさと忘れたい。
でもまあ懐かしさもあり、俺としてはラーメンぐらいなら....いや........
「........なあ浅里」
「んぁ?どうした?」
「カラオケオールも付き合えよ」
今日は行けるとこまで行く。
振り回された礼は振り回して返してやる。
これはお互いの、口には出さないお約束だ。
「最高だぜお前! まかせろ、俺の喉でMR. BIGの夢を見させてやる」
「でも眠たいからバラードぐらいにしといてくれよ」
「おいおい! お前から誘ったんだろ!」
今夜は眠れそうにない。
名も知らぬビニール袋の肉塊の追悼とかつての悪友との友情に乾杯でもしようじゃないか。
なんだかんだでデイリークエストは間に合わなかった。