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6話「悪の考えはやはり黒い」

 メリアがトレットのもとで穏やかな生活を手に入れていたちょうどその頃、女性三人での暮らしとなってしまったオフトレス一家はぎすぎすした空気になっていた。


 虐げる対象がいなくなったことで、家族内のバランスが崩れてしまったのである。


 おかげで姉妹は喧嘩ばかり。

 かつてのような仲良しさは消えて。

 いつも口喧嘩をしている。


「メリアのやつ! 抜け駆けしやがって!」

「さいってーですわね」

「てかさ、マガレット、威張ってたくせに雑魚かよ。メリアにさえ負けてやがんの」

「うっさいですわよ!! というより、お姉さまこそ、ちっとも相手にされていなかったじゃありませんの」

「ぐっ……うっぜぇクソ妹……」


 オフトレス家の平和はメリアがいなくなったために壊れてしまった。


「あんたたち、口喧嘩ばかりしていないで、早くメリアを陥れる作戦を考えなさいよ」


 口を挟むのは母。


 彼女はメリアが見初められたことを不愉快に思っている。そこで、何かして、メリアを陥れようと考えているのだ。一番可愛くない娘だけが地位を得て幸せになるなんて許せない、というのが、母の考えだった。


「ああー、だりぃー」


 ただ、ルリーナはあまりやる気がなかった。

 彼女の中ではやる気よりも面倒臭さが勝ってしまっている。

 たとえ母からの命令だとしても、だ。


「じゃ、お姉さま、わたくしがやっておきますわっ」


 それとは対照的に、マガレットはやる気になっている。


「いいの?」

「ええ。わたくしはまだ彼を諦めていませんもの」

「じゃあヨロシク」

「ええ! お任せあれ! ただし、成果をいただくのはわたくしですわよ。その点、お間違いなく」

「はいはい」


 マガレットはにやりと笑みを浮かべて「やってやりますわよ……!」と呟く――緑の長い髪を揺らしながら。



 ◆



「トレットさん、書類の整理、手伝いましょうか?」


 ここでの生活にももう慣れてきた。


 今ではすっかりこの家で落ち着いて。

 まるでここで生まれ育ったかのようだ。


「いいんですか? メリアさん」

「はい。少しは何かしたいので」

「あ、じゃあ、これを。よろしくお願いします」

「不要か必要かで分けますか?」

「はい。その感じでお願いします」


 作業をしていると、突然、訪問者の鐘が鳴る。


「ちょっと出てきます」

「ごめんなさーい」


 玄関まで走り「はーい」と返事をしながら扉を開けると。


「お久しぶり、メリア」


 そこには、かつていやというくらい見ていた顔があった。


「マガレット……」

「あらぁ、呼び捨てしないでくださる? 貴女はクズなんだから」

「何をしに来たのですか」

「あららぁ? 何だか強気じゃない? 人が変わったかのようね。でもそれは思い上がりに過ぎないわ――あんたたち!!」


 マガレットが言うと、どこからともなく現れる屈強そうな男たち。


「メリア! 借金返しなさい!」

「えええ!?」

「返せないなら! 別の方法で払わせるわよ!」


 男たちに拘束される。


「やめてください! 離してください!」

「無理よ」

「トレットさん! 助けて!」

「無駄ですわよ、助けを求めても。あんな坊ちゃんが彼らに勝てるはずがないですもの」


 だが。


「メリアちゃんに何をしているのよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 現れたのはトレットではなくトレットの母親だった。


「メリアちゃんから離れなさぁぁぁぁぁぁぁぁッいぃぃぃぃッ!!」


 トレットの母親は山のように大きく屈強な男たちを素手で次々倒してゆく――その強さはまさに鬼人のよう。


「ぐ、っほえ!」

「ぎゃ!」

「何だこれ話がち――ぐぼっぎゃ!」

「べふ!」

「っ、ごほぼぉっ」


 男たちは一分も経たずに全員倒れた。


「貴女が妹さんのマガレットさんね?」

「ええ、そうですわ」

「話は聞いているわよ……で、借金とはどういうことかしら?」

「事実ですわ!」

「誰に借りているのか、その記録はあるのか、どうかしら」

「っ……も、もういいですわっ……って、きゃ!?」


 トレットの母親はマガレットの腕を強く掴む。


「逃がさないわよ」


 その声は低くて恐ろしい。

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