1話「家での扱いは悪かった」
幼い頃から、家での扱いは悪かった。
私が生まれた家は緑髪が受け継がれている家柄で、それは、我が家がこの地に伝わる伝説の女神の血を引くことの証明だそう。
けれども三姉妹の真ん中である私だけは緑髪を受け継いでおらず。
なぜか分からないが灰色の頭だった。
「あんたは恥さらしよ」
母はいつも私を見てそう言った。
それが口癖だった。
「メリア、あんたが緑髪で生まれてこなかったせいであたしがお義母さんたちから何て言われてきたか分かる? 縁起の悪い嫁! そう言われてきたの。あたし、どれだけ辛かったか……全部あんたのせいだわ! だからあんたには一生あたしのために奉仕してもらうの」
幼い子どもが母から生まれてきたことを責められる、それがどんなに辛いことか。
経験しなければきっと分からないだろう。
でもそれは、胸を抉られるくらい、とてつもない痛みを伴うことだ。
幼い頃は名誉を傷つけられ愛を得られず。
ある程度育てば家事全般を押し付けられ。
そんな風にして育った私――メリア・オフトレスは、オフトレス家の娘でありながら、一人、女中のように扱われてきた。
「メリアってほーんと出来損ないよね。髪色は変だし、うじうじしてるし、家事も遅いし。あー、あんたみたいに生まれなくて良かったー」
家の前をほうきではいていた私にそう言ってきたのは姉・ルリーナ。
「お姉さまの言う通りですわ! メリアってほんとどうしようもない女!」
その隣にいて嫌みを吐いてくるのは妹・マガレット。
優しさの欠片もない人たちと共に、私は今日も一日を過ごす。
まともな居場所なんてない。
あるのは傷つけられながら雑用をこなすという残念としか言い様のない席だけ。
ここから抜けることはできず。
しかし彼女らに馴染むこともできず。
どうしようもない。
「メリア、あたしたちを見たら頭を下げなさいよ!」
「きちんと掃除しておくんですのよ!」
神様はどうして私にこんな試練を与えたのだろう。
あまりに心ない。
◆
その日も私は家の雑用をこなしていた。
すると母から声をかけられる。
「メリア、ちょっといい?」
家事中の私に母が落ち着いた様子で声をかけてくるのは珍しいことだ。
いつもは大抵怒ったような声掛け。
でも今日は少しいつもと違った様子で。
「は、はい。お母様。何でしょう」
「明日、この家に領主の息子さんがいらっしゃるわ」
「領主の……」
「婚約者とする女性を探しているのだそうよ」
「で、では、掃除を……?」
「その時、あんたも出てちょうだい」
「えっ!?」
意外な話の流れに思わず口がぽかんと空いてしまう。
「あんたは出さないつもりだったの。でも、未婚の娘さんは全員出すようにって話でね。あんたみたいなのでも出さないでおくことはできそうにないのよ」
隠すつもりだったのか……。
いや、そんなことだろうとは思うが、でもやはり少し切ない。
娘を出す時に出さないなんて。
いやいや、もちろん、私みたいな人間が人前に出してもらえるなんてそんなことを思っていたわけではないけれども。
「そう、ですか」
「だからあんたも出なさい」
「は、はい!」
「ただし! ……ルリーナやマガレットより目立っては駄目よ、いいわね? 服も地味なものを用意するから」
きっと二人は素敵なドレスをまとうのだろう。そして私は地味なものを。でも、だとしても嬉しかった。娘だと認められたみたいで。向こうに言われたから仕方なく、かもしれない。が、それでも姉や妹と一緒に人前に出られるのは嬉しい。
見初められたい、なんて贅沢は言わない。
そんなこともあって、その日はずっとご機嫌だった。
嫌な仕事もさくさく進められる。
まるで長い雨がやんだかのよう。