第1話「ニチジョウガクズレル」
久しぶりの投稿は新作になります!
(と、言っても、エモーション:Rより早く作り始めた作品ではあるんですけどねw)
それでは、この作品も最後までお付き合い頂けるとありがたいです!
──おはよう───
あいつのその言葉がやけに懐かしく感じる。
何故だろうか、
どうして俺達の日常は……
◇◆◇◆◇
─紅く染まった秋の空に、
大きな雨雲がかかる。
窓の外を見つめて黙ること刹那、
降り出した雨は水はけの悪い
グラウンドに水溜まりを作っていった。
「早く雨止まねぇかな…
ずっと見てると頭痛くなりそうだぜ…」
そうやって中学3年生という大切な時期を
学生の本分すら忘れて過ごしている
俺、紫音は、回らない頭を回す為に、
一度ぐっ…と背伸びをした。
「また勉強もせずに窓ばっかり見て!
おい!この窓際族!さっさと勉強しろ!!」
背後から話しかけてきた
よく馴染みのある声の主、茜は、
呆けている俺の耳を勢いよく引っ張る。
「痛った!痛い!!耳引っ張んな!!」
目が覚めるのはありがたいが、痛みが伴うので、
これが本当のありがた迷惑ってな。
小学校からずっと同じクラスだったからか、
茜のお節介には慣れている。
でも、クラスの男子たちの言う
こいつの「可愛さ」が分からない。
「ま、確かにこれがなけりゃ可愛いんだけどな…」
思わずそう口を零した。
すると、それを聞いていたのか、
茜はものすごい表情で睨みつけてくる。
まぁ、いつもの事だし、
ある意味わざと、
"ここまでがテンプレ"ってやつだ。
………おい、誰だ?天ぷらって言ったやつ。
怒らないから出てこい。
─なんてな。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
とにかく、俺は一刻も早くこの場から離れたかった。
そう思いつつ辺りを見回すと、
もう少しで始業だと言うのに、
鞄を置いたまま双子の弟、
海斗がどこかへ行っていることに気がついた。
「おい、あいつどこ行った?」
知っている前提、というような口調で茜に聞くと、
「どうせまた屋上で寝転んでるんでしょ…
いつもの事なんだから私に聞かないでよ、あんた達の行動パターンなんか把握してないっての……」
と、不機嫌そうに答えてきたから、
冗談交じりの声で、
「なんだ、把握してたらストーカーって言ってやったのに。」
と言ってやった。
その後、茜が何か言っているがもう気にしない。
「じゃ、行ってくるわ。」
とだけ言ってその場を後にする。
実際、海斗が屋上に居ることなんて分かりきっている。
昔から海斗は、気持ちの整理をつけるために空気にあたりに行くことが多い。
それに、うちの学校の授業にはペアの活動が多い。
コミュニケーションが苦手な海斗にとっては、その環境が苦痛でもあった。
屋上には屋根があるため、雨でも気軽に出ることができる。
つまり、定期的にサボるにはうってつけ、ということもある。
─今回もきっと、ただそれだけだ。
「ったくあのサボり魔め…
先生に呼びに行けだのなんだの言われるのが
面倒だから毎回先回りして来るんだけどよ……
まじでダルい……」
独り言をブツブツと言いながら屋上への扉を開く。
「さっむ……」
相変わらず屋上の空気は寒い。
雨が降っているともなれば相当だ。
「おはよう海斗」
そろそろ始業だから教室に戻るぞ…
そう言いかけた瞬間、
─俺は目の前の異変に気づいた。
「なんだよ…こいつ……海斗はどこだ!?」
─そこに居たのは海斗ではない。
その人の形をしたような黒い影は、
両目を緑に光らせ、
何か空を見上げていた。
「なんなんだよ!
あの黒い怪物チックなやつは!!」
俺はその光景を目にした瞬間、即座に踵を返し、階段を駆け下りていた。
その途中、
「きゃー!」や「うわー!!」
などと悲鳴が聞こえているような気もした。
迷わず自分の教室まで駆けつけると、
そこには先程までの騒がしい教室とは打って変わって、恐ろしい状態が広がっていた。
「血の…海じゃねぇかよ………」
茜…海斗…クラスメイト……
色々思うところはあった。
しかし、そんなことを気にしていても仕方がない。
横からは先程の怪物に似た何かが迫り来ていた。
─瞬時、怪物がいる方と逆を向く。
向こうの階段は怪物から逃げているであろう生徒でごった返していた。
このまま逃げようとすれば巻き込んでしまうと判断した俺は、
怪物の下にくぐれるスペースがあったことを思い出し、
怪物に向かって全力で走り出す。
「元野球部…舐めんな!!」
と、摩擦の少ない廊下と勢いを利用して部活で培った力を存分に発揮する。
制服のままでのスライディングはヒヤッとしたが、
なんとかくぐり抜けられた。
─まじでよかった…体操服じゃなくて…
まだ追ってきてはいるが、幸い
下の階には、万が一に備えた避難用の特殊シェルター加工の教室がある。
なんでも、かなり費用を費やしているらしく、ありえない強さの地震にも耐えうるんだとか。
下の階に駆け下りその教室に向かうと、既にさっき見ていた階段のごった返しはなく、
もうみんな避難し終えたように思えた。
何故か、さっきの怪物ももう追ってこない。
安心してその教室に入り、ロックを閉めた。
─しかし、
「は…?なんでだよ………!?」
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(2話に続く)