イベントにて
笠嶺市の花火大会は、学生の頃にも一度だけ同好会の仲間たちと来たことがあったけど、撮るのは初めて。
寛ちゃんのアドバイスを受けながら、三脚や撮影モードのセッティングをする。
ファインダー越しでは物足りないほどの光と音を浴びながら、シャッターを切って画を写しとっていくうちに、目の端でスマホを構えた寛ちゃんに気づいて。
「寛ちゃん、今、撮った?」
「ちょっとだけ練習というか、試作に付き合って」
「良いけど……暗くない? 顔、写る?」
フラッシュを焚くわけにはいかないこの状況で、何を試作するのか訊ねる。
「生徒から、夜にスマホで撮った写真のことで、相談されててさ。俺にとって、夏休みの宿題なんだよ」
友達と記念撮影したのが、イマイチだったとか。
「あ、香奈さんは、気にせず花火を撮ってて」
そんなことを言っているうちに、夜空に連続して華が咲く。今夜のクライマックスかもしれない。
彼が撮った“夏休みの宿題”は、ホテルに戻ってから見せてもらうことにしよう。練習台としての報酬は……。
翌日のイベントは、あいにくの曇り空だったけど、巨大な倉庫か体育館のような広さの会場の中は、生温いとはいっても適度に風も通る、まずまずの環境で。
「絵美莉、はい差し入れ」
真っ先の目的地、“笑織”のスペースへとお邪魔して、個包装の焼き菓子を差し入れると
「ありがとう、二人とも」
サイダーを思わせる水色と白をベースカラーにしたワンピース姿の絵美莉が微笑む。
「今日のも、いい色だねぇ。涼しそうで」
「でしょ? バレッタも作ってみたんだよ」
身体を捻るようにして、ハーフアップにした後頭部を見せた絵美莉が、
「香奈ちゃんも、着てくれば良かったのに」
と、残念そうな顔をするけど。
「昨日は、花火を見に行ったから。ジーンズの方が動きやすいし、荷物にもなるじゃない」
手織りの柔らかさは、嵩張るのよね。さらに、こういった場所で着ていると、高確率で絵美莉とまちがえられるし。
「で、どう? 調子は?」
本日の客足へと、話を変える。
「朝一番で、香奈ちゃんのモモンガコートが売れたわ」
「リネンのあれ? 売れたんだ!」
去年、エアコン対策のつもりで作ったモノの、色違いとか、ポケット付きとか。今年は少しアレンジを加えたのを三枚ほど作っていた。
寛ちゃんと付き合い始めてから、外出することが増えてはいるものの、基本的にお互いの休みが合わないわけで。絵美莉の作品を仕立てるための時間は、さほど減ってはいないけど。
絵美莉が借りているスペースは壁を背にした少し広目の区画で、通路沿いに設置した長机の上には、色とりどりの小物たちが並べてある。さらにシンプルなハンガーラックに衣類が掛けられていて、私が作った数少ないコートは、探さないと見つけられない。
そんな中で、気に入ってくれた人がいたことに、控えめにバンザイをしていると、
「アルバム、見せてもらっても?」
寛ちゃんの手が、机上のアルバムへと伸ばされる。
「どうぞ、どうぞ。じゃぁ、岩根さんがアルバムを見ている間くらい……かな? 香奈ちゃん、しばらく店番をお願いしてもいい?」
「うん。いいよ」
パイプ椅子に座っていた絵美莉と交代して、簡単に店番の注意事項を確認。過去のイベントでも絵美莉が買い物や友人のスペース訪問で席を外す間、店番をしたことはあるから大丈夫。
今回も、彼女と同じように出店している友人たちへの挨拶回りらしい。
「じゃあ、よろしくー。行ってきまーす」
と言いながら通路へと出て行く後ろ姿を、寛ちゃんと見送った。
寛ちゃんが広げたアルバムには、この一年間で私たちが撮った写真が纏められていた。今回持って来ていない作品たちをメインに、”笑織”の実店舗をプロモーションする作りになっている。それと合わせて、『興味を持ってくれた人に渡しておいて』と言われているショップカードも机の上で出番を待っていて。
イベントへの参加は、絵美莉にとって販売の場であると同時に、仕事をアピールする場でもある。
「さっき、絵美莉さんが言ってたモモンガ? のコートって、このアルバムにも在る?」
「うーん。どうだろう。私は、撮ってないんだけど」
絵美莉が出かけた、ほんの数分後には最初の客が来て。小物を真剣に見ている様子を、チラチラ見ながら寛ちゃんの問いに答える。
お金が絡むから、よそ見は禁物。アルバムを見るのは、また後で。
素気ない返事で、彼も客の存在に気づいたらしい。邪魔にならないようにそっと、ハンガーラックと机の間から回り込んできて、後ろの壁と私の間に立つ。
そこから、ヒソヒソと言葉が落ちてきた。
「じゃあ。在るとすれば、俺の撮った方なんだ? コートなら冬だよね?」
『それぞれが自由に撮ってほしい』との絵美莉からの依頼で、お互いに撮ったモノを確認したりはしていないけど。
「コートってウールじゃないよ。冷房対策の夏仕様だから、作ったのは文化祭より後……だね」
例年、絵美莉がリネンの生地を織り始めるのがゴールデンウィークあたり。寛ちゃんと休みの重ならない火曜日の定休日を仕立てに費やしながら、頭の中では転職への迷いをひたすら捏ね回していたっけ。
緑色のティッシュケースとオレンジ色のポーチを買った客からは、やっぱり絵美莉と間違えられたりはしたけど。
無事に一人目の接客を終える。ショップカードを渡すのも忘れていないし。
緊張していた背中をほぐしがてら立ち上がって、ハンガーラックから私の作品を選び出す。
「ほら、これがモモンガ」
「なるほど。脇の下が……」
『皮膜だよー』と、羽織って見せると、隣のスペースの人から声をかけられて。
その場でさらに一枚、売れた。
絵美莉が戻ってくるまでの小一時間の間に、もう数点が売れて
「二人とも留守番、ありがとう。はい、これ一個ずつどうぞ」
彼女が買ってきたベーグルを、紙の手提げ袋ごと差し出された。
「絵美莉の昼食じゃないの?」
「私の分も入っているから、好きなのを選んで。留守番代、よ」
きれいにウインクして見せる絵美莉に、『香奈ちゃんに食べさせたいのは、私の勝手』といつだったか言われたことを思い出して、ありがたく受け取る。チョコとヨモギの二種類を選んで寛ちゃんと分け合うことにした。
「俺たちは飲食スペースで食べようか」
ベーグルなら作品を汚すことはなさそうだけど、スペース内は三人も座り込むには狭いし、なによりも飲み物が欲しい。
「じゃぁ絵美莉。頑張ってね。帰る前には、また寄るから」
「うん。来てくれてありがとうね」
スペースから数歩離れた辺りで、軽く振り返って手を振る。向こうから来た人とぶつかりそうになって、寛ちゃんに庇ってもらう。
テーブルの向こうで紅茶のペットボトルを手にした絵美莉が、苦笑を浮かべたのが見えた。
屋外のテントに設置された飲食スペースへと向かう道すがら、並んでいる店たちを眺める。
過去に訪れた時には、『実用性がなぁ……』と思ってしまって、一歩引いて見てたけど。
アクセサリーに絵画、ガラス細工や革製品が並ぶ色とりどりのスペースを、見ているだけで楽しくなるのは、私の中で何か……写真を撮るようになって、身の回りの見え方が変わった……せいかもしれない。
「文化祭の時に、ホタルさんが言ってたことが、改めて分かったような気がする」
「うん? 何だったっけ?」
「ほら、『夢中になって楽しんでいる姿に憧れる子どもは、絶対に居る』って」
高校生だけじゃなくって、全力で楽しんでいる大人の姿も良いものだよね。
ほら、あそこのテーブルで、フェルトマスコットが形になって行く様を瞬きも忘れたように見ている男の子。
やってみたい、って、針を持つ日がいつか来るかもしれない。
だけど、
「ホタルの言い分も、わからなくはないけどさ。学校側には生徒を守る責任もあるんだよな」
考えつつ……の彼の口調は、理想と現実のギャップを私に見せる。
「夢中で楽しんでいるヤツほど、壊してやりたくなるって捻くれてしまった人間がいると……なぁ」
「他校生とのトラブル?」
「それが、一番のハードルなんだよなぁ」
『一足跳びには、進まないよ』と言った寛ちゃんの左手は、顎の下。
勉強を教えるだけが教師じゃないと、改めて思う。と同時に、この二ヶ月間、モヤモヤと抱えていた悩みが胸の内に燻る。
彼の勧めに乗って、転職を考えるべきか、否か。
でも、せっかく二人で訪れたイベントなんだから、燻るモヤモヤにはひとまず蓋をして。簡単な腹拵えの後は、会場内をゆっくりと見て回る。
絵美莉に貰った美味しいベーグルを明日の朝食用にも買ったり、ワークショップスペースでストラップを作ってみたり。
手触りが気に入って買った革のペンケースは、寛ちゃんと色違い。
二十区画ほどを一つのブロックとして区分けされた会場内を、入口側と奥側で折り返すようにして見ていくうちに、スペース同士の間がパーテーションで区切られているブロックにたどり着いた。
絵美莉の所よりも更に広く感じるのは、壁面にも作品が飾られている“高さ”のせいだろうか?
そんなことを話しながら、木彫作品が展示されているパーテーションの向こうを覗く。
壁に隠れていたスペースでは、スチールフレームで額装された写真に迎えられた。
「あ、この写真……」
見たことがある、と思ったのは、夕陽に照らされた天文台の写真で、春に行った鵜宮市の作品展に出品されていた記憶がある。
あの時の撮影者は、私にとって高校の後輩にあたる……
「後藤さん、だな」
「はい?」
寛ちゃんの呟きに、返事があって。
机の上で絵葉書を並べ直していた男性が顔を上げた。
「後藤ですけど……どこかでお会いしましたっけ?」
「何度か、サークルの作品展を見せていただきました。蔵塚の写真サークルのメンバーです」
「ああ、藤島さんのところの……」
と、彼らが挨拶を交わしているのを、半歩離れたところで見守っていると、後藤くんがこちらを向いて。
「こちらの方も、サークルメンバーですか?」
「いえ、私は別に……」
理由のわからない後ろめたさに、もう半歩、後ろへ下がる。
「香奈さん、なんでそんなに離れるの」
「いや、なんとなく?」
怪訝な顔の寛ちゃんに指摘されて、テーブルに近づくと、
「違っていたら、申し訳ないですが……北浦先生?」
後藤くんにじっと見つめられて、また半歩、後退る。
「蔵塚の舞郷高校に、教育実習に来られてませんでしたか? 十年ほど前に」
「あ……」
まさか、覚えているなんて。
驚きのあまり、反射的に頷く。思わず、隣の寛ちゃんを見上げる。
「ご無沙汰してます。舞郷高三十六期生で写真部にいました。後藤と申します」
その声に呼ばれて後藤くんに向き直ると、慣れた手つきで名刺を差し出される。
受け取った名刺には、シンプルに名前とメールアドレスだけが印刷されていた。
寛ちゃんと後藤くんの間でも、名刺交換をしたあと、
「まさか、こんな所で北浦先生とお会いできるなんて……」
と、再会を喜んでいた後藤くんは、
「私、授業……しましたっけ?」
「いいえ。理系だったので、化学は……田中先生でしたから」
私の質問に、残念そうな口調で指導担当とは違う先生の名前を挙げて。
「俺、中学生の頃に北浦先生の作品を見て、カメラを始めたんで、顧問の吉沢先生と一緒に部活に参加された時は、もう嬉しくて嬉しくて」
さらに、恥ずかしくなるような事を言い出したから、
「それは後藤くん自身のことじゃないですか。現在の舞郷の部員には、あなたに憧れている後輩がいますよ」
寛ちゃんの教え子、白井くんの話題を引っ張り出してみる。
「今は先生が顧問を?」
「顧問は、こちらの彼が……」
腕を両手で緩く握るようにして、隣の寛ちゃんを話に巻き込むと、巻き込まれた彼は
「後藤さんが影響されたと言う北浦先生の作品……は、市役所ギャラリーの?」
再び、私の話に戻してきたうえに、『北浦先生』だなんて……何のつもり?
「そうです。岩根さんも、見られました?」
「いや、話にだけ聞いたことが」
「俺の在学中は、確か……部室に置いてあったはずですよ」
「へぇ。じゃぁ、探してみないと」
宝探しをする冒険者みたいな顔が、こちらに視線を寄越して、にっと笑う。
残念。それは、実習の最終日に持って帰りました。
後藤くんは鵜宮市で会社員をしながら、地道に撮影を続けているらしい。
「小さなコンテストなんかで、賞をいただいたりはしてますが」
プロになるつもりはなく、サークルでの作品展をメインに、今回みたいにイベントでの販売もしているとか。
「春の作品展で芳名帳に書かれた先生の名前に気づいた時には、もう帰られた後だったので、今日はお会いできて良かったです」
「名前もですけど、顔を覚えていたんですか?」
「カンニングです。作品展の後で、実家のアルバムを探したので」
実習中に、部員たちと記念撮影をしたな。そういえば。
私も、吉沢先生から送られてきた写真を見た覚えがある。
思い出話もほどほどに、販売している作品を見せてもらう。壁面に飾られている額装された写真そのもののほかにも、コースターやマウスパッドなどに加工した雑貨が並べらている。
「風景写真は、ポストカードにすると映えるよなぁ」
「栞って高校生でも使うだろうから、白井くんが喜びそうだよね」
参考書や問題集に使ったら、勉強のモチベーションが上がりそうではあるけど、一生徒に土産を買っていくような依怙贔屓はダメだろう。
「あ、これ、仕事の連絡メモとかに使いたいな……」
味わいのある洋館が薄くプリントされたメモパッドを手に取ると、横から覗いた寛ちゃんが
「これは、どこで撮ったものですか?」
接客の合間を見計らって、後藤くんに訊ねる。
「ああ、それは小樽で撮ってきました」
と答えが返ってきて、
「北海道、かぁ。一度行きたいんだよなぁ」
くぅーと、羨ましそうな唸り声が聞こえる。
確かに、好きそうな建物だよね。
寛ちゃんがクリアファイル、私がメモパッドと数枚のポストカードを買って
「北浦先生、一度ゆっくり写真のこととか話しましょうよ」
お釣りを差し出す後藤くんに誘われた。
「私、長いことカメラからは離れていたので……」
「だったら、なおさら……どうですか? 先生のご都合のいい日を名刺のアドレスに連絡いただけたら、休みくらい合わせますよ」
畳みかけるように言葉を重ねた彼に、机の上に置いてあったサークルのものらしきチラシも渡されてしまった。
端まで一通り見終えて、買い物もさらにいくつか増やして。
絵美莉のスペースへ顔を出してから、帰途に就く。日曜日の明日は遅出なので、少しゆっくり寝ていようかな、なんて考えて快速電車に揺られていると、
「香奈さん、さっきの後藤さんの誘い。乗るの?」
隣の席で、寛ちゃんが心配そうな顔をしていた。
「うーん。正直に言って、あまり……。彼のセンス、っていうか才能? に圧倒されて、写真を辞めた過去があるから」
「そうなの?」
「さっき言っていた、実習の時の部活動で作品を見ちゃったから『あ、負けたわ。これは』って。足掻くのも無駄なほどの差を感じたのよね」
白井くんが憧れるのも、賞をとるのもすごくわかる、と思ってしまうほどの才能が。
「まさか、私がきっかけで写真を始めたとか、思ってなかったし」
「それ、なんだよなぁ」
そう言って、黙り込んだ彼の左手が、そっと顎に触れる。親指の先が顎を擦る。
後藤くんの話題から、今日のイベントに参加していた人々の姿を思い浮かべる。
絵美莉のようにハンドクラフトを本業にしている人だけではなく、後藤くんのように会社勤めの傍で作品を作っている人たちも、たくさん居ただろう。
そして、普段目にすることのないような品物が置いてある“店”に、目を輝かせていた子どもたち。
きっと夢中で楽しんでいる姿には、作品を“作る人”も“楽しむ人”も関係なくて、お互いの心に見えない影響を与えているに違いない。
そして、社会人がプライベートの時間に趣味を楽しむように、子どもたちだって、課外の活動を楽しめば良い。
そのためには学習の効率化が……と、考えて。
ホタルさんや寛ちゃんの生徒たちが、私のことを『教えるのがうまい』と言ってくれていることに思い至った。
これは、ちょっと。今までに考えなかった視点かもしれない。
電車に乗った直後から降り始めた雨が、車窓を濡らす。増えては風に飛んでいく、水滴を眺めながらの考え事の最中、
「香奈さん、香奈さん」
「うん? 何?」
寛ちゃんに呼ばれて、我に返ったけど。
「今借りてる部屋の更新って、いつ?」
「更新? 部屋? え?」
あまりにも脈絡のない質問に、頭が付いていかない。
「だから、最近、マンションの契約更新ってした?」
「二年契約だから、この春にしたところだよ」
「うーん。そうか。なるほど」
そこから再び、長考に入ってしまった。
そんな彼の姿を眺めるともなく眺めて。私もさっき見えた考え事の糸口を掴み直す。
後藤くんと出会った十年前の教育実習で、それまでの私が身につけたモノなんて、所詮、小手先の受験テクニックだと気づいた。おそらく教職についていたとしても、寛ちゃんのように生徒の生活まで考慮するだけの器はない。
でも本当に、私に分かりやすく教えるような技術があるのなら。
たとえ自習室での質問に答える程度のことでも、受験テクニックを活用した、学習の効率化を助けるようなことができるかもしれない。
さらに視野を広げると、生徒の人気を集めている学生バイトだって、リアルタイムで受験を乗り切った成功者なわけで。彼らと受験生とを取り持つ意味で、勤め先の存在意義が見えたような気がする。
本質的な学問を教える学校とは異なる立場から、生徒たちの学習にアプローチすることで、限られた放課後の時間を有効活用できるなら。
私にも彼らが一生懸命、何かに取り組む手助けができるんじゃないだろうか。
私はこのまま、転職はしない。
勉強にしろ趣味にしろ。夢中で進んで行く子供たちの背中を支える、一部になれるならそれで充分だ。
私が一つの結論に辿りついてからも、しばらく無言のまま電車の振動に身を委ねる。
再び彼が口を開いたのは、電車が笠嶺市から蔵塚市へと入ってしばらくしたころだった。春に二人で行った水族館の最寄り駅がそろそろ近いはず。
「あのさ。俺と一緒に住まない?」
「……いきなりだね?」
「うん。まあ。いきなりなのは、否定はしないけど」
少し電車のスピードが落ちて、駅を通過するのが見える。
チラリと見えた駅名は、次の停車駅まで二駅だと告げていた。
「俺としては、香奈さんといずれ結婚したいと思っていて」
「ちょっと、寛ちゃん。ちょっとだけ待って」
さらに未来の話をされても、頭も気持ちも追い付けないし。
「電車の中でするような話でもないから、次の駅で一度降りよう? それで、どこかの店で落ち着いて話そうよ」
それまでに一度、私も落ち着くから。




