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山田太郎の冒険  作者: ゆきつき
5/8

5話

「今日からここが、お前の家だ」

「……」

「なんだ?浮かない顔をしているな。心配するな問題ないだろう」


 僕の心境は、とても複雑だ。

 とても複雑なので、言葉で説明するのは難しい。

 だから、その複雑を紐解くためにも、鍛冶屋の一件を聞いてほしい。




_________






「簡単な話、そいつは貴族達の勢力争いの被害者だ。私と同類だ」

「なに?」

「この国の貴族が腐りきってる事なんて、今更話さなくても良いだろう」


 いや、よくはないだろ。どう考えたって、この国の貴族が腐ってるって事を知らない人間がここにいるのだから。

 確かに、ちょいと前にこの店の店主から、貴族が腐ってるという話を聞いた。だが、腐っているとだけ聞いた。


「そして既に、貴族は行動に出た。まあなにせ、勇者召喚で呼び出された人間が、自分達の下から離れたんだ。それはすなわち制御できない事を意味し、ある意味では勇者を敵に回したと同義だ。だからこそ、戦い方も知らぬ間に始末するのが一番だった。確かに説明すれば理に適っているが、まさかそんなすぐに殺しにかかるとは思ってもみなかったがな。城内で殺せば、それはもう貴族が殺したと言っても差し支えないが、ああ、城から出てすぐ殺すのも、不自然だからな。無いと思っていたが、万が一を想定し、見張っていてよかった」


 ……。既に、僕の頭はパンク寸前だ。勇者召喚だなんだかんだ言われて、3日は経ったが、それでもまだ3日しか経っていないんだ。普通に考えて、現状を正しく理解することなんてできやしない。

 のに。既に命を狙われている?やっぱり理解したくない。


「そして、その後の行動もよかった。ちょうどこの店に入るためには、一種の結界を通り抜ける必要があるからな。そしてその結界は、正しい順路を行かなければ辿りつけず、また間違った順路から行けば、正しい順路で行く人は見失う。結果、暗殺者から逃れられたという訳だ」


 ほ、ほう?

 この店は、なんだか特別な場所に、あるらしい。ちょっと理解できないが。


「だが勿論、連中はお前を狙うだろう。なにせ勇者として呼ばれ、勇者の実力がわからない以上、迂闊に手を出すのも躊躇われるが、お前を監視しない訳にもいかない」

「あの、僕、パラメータの確認、やった後なんですけど」

「……、断言はできないが、恐らく下剋上を狙う貴族にはバレていないだろう。どのような場で測定したかわからないが、」

「僕含め呼び出された3人と、あとメイドのパーラさんって人しかいなかった」

「じゃあ問題ない。あれは優秀すぎるほどに優秀だ。個人の情報を、他人にべらべらと喋ったりする事はない。まあ洗脳だとか自白剤だとかを使わされたら、どんなに口が堅い人間でも、喋る事にはなるだろうが、使えば使った痕跡も残る。流石に貴族もそのような馬鹿な真似はしないだろう。とにかく、例え本人が勇者じゃないだとか勇者をやらないだとか言ったところで、詳しい情報が無い限り、お前は勇者の実力を持ちながら、貴族や王の命令を聞かない危険人物認定される」

「ほう?だからと言って、無実の証明もできていない指名手配犯に預けろと?」

「そうだな。だが現にこうして、逃げ続けられている」

「それはあんたが強いからじゃないのか?」

「その質問は無駄だ。答える価値がない」


 ……。

 答える価値なら、この国の事をなにも知らない僕に教えるという、立派な価値があると思うのだが、果たしてそんな事を口走って良いのだろうか。いやダメだろ。この雰囲気的に、喋ったらダメな気がする。必要最低限の言葉以外、発したらだめな空気感がある。


「ああ、俺は別に構わないがな。そもそも交渉するべき相手は俺じゃなく、そっちの勇者崩れだ」

「あなたが無駄に警戒しなければ、もっと話はスムーズに進んだんですけどね」

「それは酷ってもんだろ。何も知らない人間に、いきなり犯罪者と会話、それも預けろだなんて今後の人生を左右されるかもしれないんだからな」

「なるほど、わかった。改めて、丁寧に説明していこう。先の質問の答えだが、私が強いのは間違いない。だが、私が強ければ強いほど、それだけ追っ手も強者になる。つまるところ、私が強い弱いはあまり関係ない。そして何より、巷で私に負けたと吹聴する人がいるか?いないだろう。なにせ彼等は、私と戦うどころか、どこに居るのかすら、未だに掴めていないからな。だからこそ、同じように命を狙われているそこの勇者見習いを匿うにはうってつけだと言っている」

「いいや、違う。確かに同じように命を狙われているのかもしれないが、片や貴族の都合で命を狙われているのに対して、あんたは指名手配犯だから命を狙われている。この差は大きいぞ」

「なら、そこから話すとしよう」


 もうね。僕抜きで話をしてくれた方が良いんじゃないかと、そう思い始めた。

 あと、僕の個人的な感想をいちいち挟むせいで、テンポが悪くなったりしてないだろうか。大丈夫だろうか。


「知っていると思うが、私がこんな事になったのは、騎士を殺したからだ。ああ、認めるとも。私は同胞を殺した。だが、あいつは裏切者だった。単純な話だ。誰にもバレないように家に放火し、大勢の人に姿を示しながらそれを鎮火すれば、彼は罪人ではなく英雄となる。彼はそれをしていた。実際には放火ではなく人攫いであり人殺し、鎮火ではなく子供の救出と言う形で英雄となっていたが。そして悲しい事に、私達が見回りの際、その光景を見てしまった。そして運の悪い事に、その光景を見た同胞は新人であり、罪人は小隊を率いるようなベテランだった。どう考えても、戦力差は明らか。私が到着した頃には、彼は虫の息だった。だが、彼は強い正義感があり、ずっと抵抗していた。おかげで逃さずに済んだとも言える。が、相手も強者。生け捕りは、できなかった。が、こんな美談も、王様の忠実な犬だと思われていた私を蹴落とすには良い話だと思った貴族の対応はものすごく速かった。私が件の誘拐犯へと仕立て上げ、ベテランも新人も容赦なく殺した事にされた。しかも腹が立つ事に、私が犯した罪を大きくしたかったのか、死体からは目はくり抜かれ、腕は細切れ、これ見よがしに舌まで斬られていたとも。例え大罪を犯したとは言え、元は同胞。同胞をそんな姿にされたにも関わらず、私には何もできなかった。何故か。貴族が事実を捻じ曲げ新聞社へと嘘の情報のリーク、挙句王様にまで嘘で塗り固められた悪口とセットでの告げ口。その結果がこれだ。わかってくれたか?私も、貴族の権力闘争の被害者だ」

「……、犯罪者の言う事なんて、信じられない」

「そうか。まあ、だろうな。ならダメ押しだ。件の罪人、女遊びが酷かった、ペドフだった訳だが。知っているだろう?」

「もちろん、あんたが殺した騎士の一人だからな」

「で、だ。その人攫いであり人殺しの犯人は、おおよそ見当がついていた。なにせ、亡くなった女性は皆、その日、ペドフに指名され接客し、営業外の営みを行うために、ペドフと一緒に店を出ていく姿を目撃されているそうだ。そして攫われた子供は皆、施設で過ごしている子供たちであり、ペドフからプレゼントがあると呼び出されている。つまるところ、おおよそは誰が犯人かわかっていたが、所詮そんなのは推理であり憶測。現行犯でもない限り、捕まえる事はできない。それに、こちらも同胞と言う事もあり、そんなはずはないと思い込んでしまっていた。だからこそのこの結果だがな」

「……。その話は本当か?」

「別にあなたが信じなくてもいい。私が交渉すべき相手はこっちだからな」

「僕?」

「そうだ」


 えっと。正直言って。頭の中は、今日どこで寝ようか悩んでいたところだ。言って城から解放されたのは12時ぐらいで、探索してたし、1時間は経ってて。なんだかんだでお喋りしてるから、今はだいたい2時とかになる。

 まあ普通に考えて、この時間ならまだ宿を取るには早いぐらいだろうけど、残念、僕には物価がわからず、無駄に高い店に入ってしまう可能性もないとは言えない。

 だからこそ、町にある食料を売ってる店とかを見て回り、大まかな物価を把握したい。

 だから、もう今日は宿では休めないかもとか、ホームレスするにしても流石に僕が持ってる荷物は結構多いし大切なものがあるから盗まれる訳にもいかず。とまあ色々と考えていて、ほとんどなにも聞いていなかった。

 けどこれは、僕に非はない。いやまあ話を聞いてない僕が悪いのは百も承知だが、あんな話いきなりされても、ねえ?だってあれよ?ゲームスタートして、ようやく町に出たと思ったら、いきなり物語の核心に迫るような話をしてるようなもんだよ?聞いても理解できないよ。だから右から左へと流れて行ってたんだよ。


「えーっと、あなたの目的って、僕を預かる、そうですよね?」

「まあ一つはそれだな」

「つまり、雨風凌げる家があると思って問題ないと?」

「そうだな」

「じゃあ良いです、ついていきます、はい」

「は!?ほんとにいいのかよ!?」

「いや、僕には誰が良い人で悪い人かわからないけど。やっぱり僕にはこの人が悪い人には見えないし、なにより渡りに船だ。僕は住む場所なんてもちろん無いし、なんなら貴族だとかの敵に回しちゃならん組織から命を狙われていて。そして都合よく同じような境遇の人がいて。ならいいかなって」

「まあ、お前さんが決めた事に、ぐいぐち口を出すのも筋違いだが」


 うん。僕としては、犯罪者とは一緒にいたくはないが、そんな事言ったら悪い意味で暗躍してる貴族と同じ空間で過ごすのも嫌になってくるし、うん。別にいいかなって。


「困ったらここに来いよ。してやれる事なんて限られてるが、悩みぐらいなら聞いてやれる」

「ありがとうございます」



_________





 とまあ、今に至るが。

 話の流れ的に、どう考えても僕が望んでここに来た風に思えるだろう。というか、その通りではあるのだが。

 問題はここからで、交渉の際に一言も出てこなかった言葉が、僕を連れ去っている時に出て来た。いや、その考えに至らなかった僕が悪いのかもしれないが、うん。やっぱり交渉の時はちゃんとデメリットも話すべきだと思う。その方がお互いの為になるはずだ。

 あ、何を言われたのか言って無かった。簡単に言えば、お前も強くなってもらう。まあそれだけだ。だが、この言葉は、何よりも僕に突き刺さる。

 なにせ、僕は勇者じゃないと、そう言って勇者の責務を放棄した訳で。そしてそれは強くなる事も放棄したはずなのに。その放棄した部分が帰ってきてしまったのだ。


「なに。勇者として呼ばれたんだ。私より強くなれるかもしれないぞ?」

「そういう事じゃないんだよなー」


 一般人に強さなんて言葉は交渉材料にならない。確かに、強くなれば問答無用でお金持ちになれるのなら、確かに強さを手に入れれるというのは魅力的な交渉材料に成り得る。

 だが人ってのは現金な生き物。そんな回り道をして大金を得るよりも、直接、普通にお金がもらえるならそっちの方が良い。


 あと僕は別に強さなんていらないから、平凡な生活を送りたい。


「じゃ、自己紹介と行こう。私の名前はベイル。しがない傭兵だ。あんたの名前は?」

「僕は、山田太郎。日本では学生してたけど、こっちじゃただの無職」

「そうか、タロー。立派な自己紹介をありがとう。で、こっちは、フルール。私の義妹だ」


 ……。思考が止まった。

 ようやくね。ようやく異世界ライフを描ける気がして、もうちょっとよくわからない話が続きそう。

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