4話 訪問
色々あったが、遂にお城から出立する日がやってきた。(追い出された)
僕には理解できないが、あの二人は勇者としてやっていくそうだ。ま、僕には関係のない話だ。
「困った事があったら連絡してくれ」
「そうだな。勇者様に助けてもらえるなんて光栄だな」
「遠慮せずに、連絡してくれよ。俺達は友達だろ」
……。陽キャの言う友達って、ちょっと言葉を交わせばなれるものなのだろうか。ならそうなのだろう。
「元気でね」
「今生の別れって訳じゃないんだ。そんなに悲しむ事でもないだろ?」
「でも、」
「じゃ、またな」
まあ、うん。別に仲が良い訳でも無いし、そこまで悲しい事はない。
だって、ねぇ?誰しもが卒業式に泣き崩れる訳ではない。ましてや、僕たちは2年になって同じクラスになっただけであり、更に言えば言葉を交わしたのはつい3日前と言っても過言ではない。悲しい事はない。
「うん、またね」
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さて。服は、まだ大衆の普段を見ていないので判断しかねるが、それらしい服になった。
荷物はすべて、僕の鞄に入れた。けどこの鞄は、僕が日本から持ち込めた品であり、恐らくこの世界で馴染むようなものではない。
お金も貰って、そのお金も鞄に入っている。
あ、わかっていると思うが、この鞄は通学用のものであり、リュックサックである。
武器も貰った。まあ武器の使い方なんて知らないし、ただの飾りだが。
「困ったなあ」
お金の価値も、一応教えてもらった。まあそれは、日本円で言うところの、1万円は100円玉100枚分、100円は10円10枚分、みたいな感じだ。物価を知っている訳ではない。
だから、寝泊まりする場所の確保が、ガチでヤバい。
食料は、一応貰っている。今日食べる分のサンドウィッチと、保存が効く肉とかも貰った。だから、1週間程度ならば、食料はなんとかなる。
けど、やっぱり寝泊まりする場所問題はヤバい。
そりゃあ、ね?お金は貰ったとも。貰ったが、無駄遣いなんてしたくないじゃないか。だから相場の金額を払えば済めばいいが、どーせ田舎者なんてカモられるだけなんだよ。
「ん?」
カラン、と言った音とともに、なにかが僕の後ろの方で落ちる音がした。
他の人は、そもそもここには人がいない。別に裏路地だとかの訳ではないが、人が来るような場所でもないのだろう。僕ぐらいしか、この路地にはいない。
じゃあ、僕が落としたのか?でもそんな、金属音ちっくな音が出るような持ち物なんて持ってないんだけどな。お金も、ちゃんと鞄の中に仕舞っているはずだから、落ちるはずないけど、まさか、気が付かないうちに開けられ、お金をすられた?
あり得るな。日本じゃ考えられないが、外国ではそういった事件がある、みたいな話も聞いたことがある。
「……。ある」
別に開けられてない。持ち物も、何も盗られてない。
「そもそも、落としたものを見た方が早いか」
僕の物じゃなくても、確認ぐらいならしても問題ないだろう。
そんな、落ちた物を見ただけで、色々言われる事もないだろうし、なんならここには物を盗っても見ている人もいないんだし。
「なんだ、これ」
簡単に言えば、ナイフだ。短刀と言うべきかは、武器について無知な僕にはわかりやしないが、とにかく小さい刃物。
その刃物は、どういう訳か、刃の部分から柄の部分まで真っ黒だった。明らかに染めたって感じに真っ黒だった。
が、そんな問題などどうでもよくなるぐらい、このナイフには違和感があった。
いや、違和感の正体はわかっている。ナイフの中心部に、直径3㎝ぐらいの、針(?)が刺さっている。
「なんだ、これ?」
違和感が、余計に謎になった。
一体このナイフが何に使うのか知らないが、少なくともナイフとして使うのならば、中心部のこの針は必要ないはずだ。
そして、もしこの針も刺さってしかるべきものなのならば、どうしてこの針は普通に鉄の色をしているのだろうか。
「持ち主、は、いないよな」
現状、この通路にいるのは僕だけだ。もし仮に人が居たのだとすれば、一体全体こんなナイフを何に使うつもりだったのだろうか。
「ま、こういうのは専門家に聞くのが一番だな」
お金は、掛かるだろうなぁ。じゃあ別に聞かなくても良いか。
けどまあ、こんなものを持っていても仕方ないし、やっぱどっかに持っていくべきではあるか。
ま、どっちにしろ。イイ感じの宿屋を探す必要もあるし。どっか行く必要があるよな。
食べ物はあるし、このナイフを預けに行くべきか。さてその預けるってのは、どこに預けるべきか。鍛冶屋か?とりあえず行ってみるか。
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大通りにあった鍛冶屋は、人が結構多く、店主もちょっと忙しそうだったので、別の鍛冶屋にした。
そして見つけた、大通りから結構離れた場所にある、なんかどう見ても人のいなさそうな場所にあった鍛冶屋。自分が言うのもあれだけど、こんな場所にあったら、来る途中に盗人だとかヤンキーだとかに絡まれて、有り金失ったりしそうなもんだ。
「すみません」
「なんだ?うちはすべて一点もの、決して安い値段じゃねえぞ。ガキに買えるようなものはねえぞ」
う、うわぁ。チョイスミスったかな。人が少ないような場所にある店なら、客に優しくしてくれるかなーとか思ってたけど、うん、そうじゃないらしい。
「ん、漆黒の髪に、光すら吸い尽くしそうな黒い瞳。あんた、最近噂の、召喚された勇者って奴か?」
「召喚されたってのは間違いないけど、勇者じゃない。僕にはそんな務めは務まらない。なんなら、ほら、これを見ればわかるだろ」
「おっと、悪い事は言わねえが、信用できる人間以外に、ステータスカードは渡さない方が良い。見せるにしても、自分でしっかりと持っておくべきだ」
「そ、そうなのか。どうもありがとう」
僕には、この世界の常識が欠片もない。まあ教えてもらったが、それはあれだ。人は殺すな、法律は守れ、みたいな感じの、常識しか教えてもらえなかった。いやそんなのは知ってんだよ。もっとこう、色々と。重要な事を。
「で、そんな勇者崩れが何しにきたんだ?」
「そうそう、城から出て行って、ちょっとした辺りで、こんなのが落ちてたんです。僕にはこんなものいらないんで、なら有効に使えそうな鍛冶屋に持ち込んだって訳で」
「ちょっと見せてみろ」
この、若干の鑑定の時間がとても気まずい。
「知ってるか?」
「何が?」
「鍛冶師ってのはな。物凄いエゴイストだ。まあ他人を蹴落とそうとはしないが、自分の功績が残るのなら、基本なんでもする。だから勿論、自分が作った武器ってのは、自分の銘を打つもんだ。こんな言い方もあれだが、騎士や冒険者が死んだ時、その武器が壊れていたら、そいつが死んだのは俺達鍛冶師の責任だ。逆に最後までその武器が壊れていなかったのなら、そいつが死んだのはそいつの腕が無かったからだ。武器が壊れれば俺達は責められ、武器が生き残れば名声を得られる。そんな職業だ。わかるか?鍛冶師ってのは騎士や冒険者よりも名声が大切になってくる。だからこそ、自分の作ったものには銘を打つ。が、これにはそれがない。何故だかわかるか?」
「……、何故?」
「答えは簡単。その武器を造った人間が割り出されたら困るからだ。つまるところ、これは暗器であり、そう簡単に落ちているものなんかじゃあない」
なんとなく、分かってきた気がするが、分かりたくないな。自分がどんどん悲しい人間になってくる。
「誰かさんがお前の命を狙った。そして幸運な事に、誰かはお前を守ろうとした。その結果がこの中心にある針だろうさ。正直、こんな曲芸のような事をできる人間なんて、俺の知り得る限りでは一人しかいないな。が、そいつも残念ながら指名手配犯。お前さん、一体何をやらかした?」
「やらかしでの思い当たりは、勇者をしなかった件しかないですけど」
「ああ、それだろうな。王様以外の貴族は腐ってるからな。理由はハッキリした。が、どうにも解せんな。それなら何故指名手配犯に守られる?そいつから命を狙われていて、自分の獲物だから自分以外には狩らせないぞ、とでも言われたか?」
「正直、なにも知りません。城の中に居ても、関りがあったのはパーラさんってメイドだけだし。そして悲しい事に、図書室だとかに移動しようとすれば、貴族らしい人間からずっと睨まれてたけど、それ以外の事はなにも知らない」
「でだ。本題に戻るが。この暗器はな。貴族御用達の武器だ。しかも王家に近い貴族のな」
やっぱ、そうなんだろうな。うーん、貴族様様だな。
「ま、お前さんが聞きたいのは、こんな陰湿な話じゃないな。俺がこいつを有効に使えるかどうか。答えはイエスでありノー。ただの鉄に戻せば、それなりに有効に使えるだろう。けどこれを商品にすることはできない。なんたって暗器だからな」
「そうですか」
「まあ勿論引き取るがな。若者にこんなものは必要ないだろ」
「どうも」
確かに、僕にはこんなの必要ない。ってか腰に携えている武器すら、僕には扱いきれない。
「失礼する」
「誰だ?今接客で忙し、あんた、何しに来た?」
「ちょっとばかし、そこの小僧を預かりたくてね」
「預ける?ふざけているのか?指名手配犯だろ、あんたは」
「ああ、濡れ衣だが、誰も信じちゃくれないだろ」
「ああ、犯罪者だからな」
「僕には何がなんだかわからないんですが、僕には彼女が悪い人には見えないんですが。とりあえず、話だけでも聞いてみません?ま攻撃されちゃ抵抗なんてできやしないんですが」
「おい正気か?ついさっき命を狙われたばかりだろ、お前さん」
「だからこそ、私の話を聞いてほしいものだね。なに、実力だけは折り紙付きだろ?」
「……、わかった。だが怪しい真似はするなよ?ミスベイル、元騎士団団長様?」
一瞬で勇者たちと別れを済ませました。勇者はまたいつか、出番が来るでしょう。