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山田太郎の冒険  作者: ゆきつき
3/8

3話 客間で過ごそう

 パラメータで、僕がやっぱり平凡な人間であり、勇者の召喚に巻き込まれた一般人と言う事が証明された。

 そのため、気持ち的にちょっと楽になった。

 散々僕は巻き込まれただけだとかほざいていたが、性能がちゃんと勇者してたら、その逃げ道は通用しなくなったし。ま、僕は例え勇者と言われるような強さがあるとしても、誰かの為に戦えるほど素晴らしい人間ではない。


「にしても、すごいな」


 今は、部屋をもう一度探索しているところだ。

 まあどちらかと言えば、部屋の探索と言うより、部屋にある装飾だったり、現代風に言えばライト(LED)だったりと、そういったものを見て回っていた。


「どう見ても、電気で動いているような感じじゃないんだが」


 電気、あ、分かりづらいから、ライトって言い方の方がよいね。ライトも、そこに人が居ると感知すれば光り、人が居なくなればライトが消える。

 まあ、これだけならば別に現代日本にもある。

 問題はこっから。

 水道。蛇口をひねれば水がでてくるあれ。

 けど、その水が出てくるはずの水道管がない。なんなら水を流していくための排水口の先もない。うーん、一体全体どうなっているのだろうか。

 あとは、冷蔵庫っぽいなにか。いや、機能だけを考えるのなら、これはもう冷蔵庫。だがその冷蔵庫を動かす為の電力供給がない。コンセントがない。

 そう。この部屋には、コンセントが一つもない。まあ流石にこの部屋にだけない、って事は無いだろうし、この世界にはないのだろう。

 はてさて。ゲームの充電はどうしたものか。


「失礼します」


 どうやら、またまた誰かがやって来た。というか、この声はついさっき聞いたばかりだ。パーラさんだろう。


「どうしたんです?」

「シャワーを浴びたあと、こちらをお使いください」

「ありがとうございます」


 僕達を代表して、徳川がやり取りをしてくれている。やっぱこういう時は陽キャは頼れる。


「あと、これから着る衣服の準備をするため、採寸をします」

「え?」


 どうやら、シャワー後に使えって言ったのは、バスローブらしい。……、僕は庶民です。バスローブの使い方なんて知らないのだが。

 とても勝手なイメージではあるのだが。海外の映画で、特に事後っぽい描写で着ているのを見る気がするのだが、それは気のせいなのだろうか。


「まずはトクガワ コウキ様から」

「康希でいいよ、パーラさん。俺はそんな、偉大な人じゃないからな」

「……、コウキ様、採寸しますので、服をお脱ぎください」


 徳川はどうやら、康希と呼んでもらえたが、敬称は外されなかった。

 ま、しゃーないよ、うん。勇者として呼ばれ、勇者の素質を見せつけられたら、それはもう礼儀を尽くすだろうね。うん。僕には他人の顔色を窺うなんて器用な真似はできないのだが。


「では、採寸しますね」


 僕は男だし、この空間にいても良いだろう。隣にいる伊織は、果たして居ても良いのだろうか。あいや、既にそういう間柄だし、今更上半身裸になっただけだったら、全然問題ないよな、うん。


「やっぱサッカー部でエースしてる人は、体付きが違うな」


 ちなみにだが、パンツは穿いてるけど、ズボンも脱いでいる。まあしっかりとした採寸をするためなんだろうけど、順番ってのがある気がするけど。まあおかげで、期待のサッカー部エースの体を眺める事ができている。


 そして見た感想だけど。なんというか、男でも惚れ惚れする感じの体付きをしてる。こう、全体的にごつくは無いんだけど、ちゃんと筋肉がついている。

 そしてふとももの筋肉が凄い。筋肉だるまって言葉は若干違うだろうけど、こう、膝の上あたりにでっかい塊が付いている。

 そしてふくらはぎも、こう、四角い。

 やっぱサッカー部ってだけあって、足の筋肉は凄いんだな。うん。


 あ、もちろんだけど。徳川はシックスパックと呼ばれる、お腹が6つに割れている。


「はい、ありがとうございます」


 ってか、僕はこれでも徳川と同じクラスだったはずなんだけど、徳川の腹筋とか初めて見たわ。同じクラスなんだから、体育の時とかの着替えで見てもおかしくないのに。


「では、次はヤマダ タロー様」

「僕は勇者じゃないんだ。様なんて付ける必要は無いし、普通に太郎って呼んでくれればいい」

「……、タロー様」


 やっぱりダメらしい。

 まあ、勇者じゃないと言っても、客人って立場は変わりないしね。敬称をしっかりしてないとダメなんだろうな。


「では、服を脱いでください」

「はいはい」


 ……。

 ヤダなー。徳川が脱いだ後に脱ぐ必要があるなんて、これは軽い拷問なのでは?僕に辱めを与える拷問なのでは?


「山田太郎、お前帰宅部じゃなかったのか?」

「失礼な事言うなよ。僕には文芸部と言う、立派な部活に入っている」

「……。俺の記憶違いかもしれないけど、お前、部活に顔を出した事あるのか?」

「失礼な事言うなよ。1年の頃、3回も顔を出した」

「……。帰宅部だよな?」

「文化部だって言っているだろう」

「そうか、文化部か。じゃあそういう事で良いが、お前本当に文化部なのか?文化部でその体はおかしいだろ」

「おかしくはないだろ」

「いや、何を持って普通にするのかわからないけど、その体付きは普通じゃないだろ。少なくとも、そんな引き締まってる体をしている人が文化部は、ちょっと通じないだろ」

「……、そういうもん?」

「わ、私?私に聞かれても、ちょっと。女子ってほら、体型を気にするから、細いのは当たり前というか」

「ほらぁ」

「いや、男で体を気にするなんて少数だろ」

「あんた、それ、持って生まれた恵まれた体があるから言えるんだぞ。こちとらモテるために頑張らないといけないんだぞ。男の筋肉は女のおっぱいと同等なんだぞ、努力なんて怠る訳ないだろ。あとしょーもない理由で体を壊してゲームできなくなったらどうするんだよ」


 僕は年内に2回も入院するという、アチーブメントを獲得している。あと、半年以内に2回入院するというアチーブメントもまた、同時に獲得している。

 だからこそ、自分の体の事には人一倍気を遣っているつもりだ。週に2回ぐらい、運動する時間を設けている。丈夫な体を作るには、やはり日頃の習慣で大きく関わってくる。だからしっかりと運動の時間を作った。


「いや、男の筋肉と、女性の胸は同等ではないだろ」

「いいや、一緒だね。まあ男の筋肉はどれだけ盛ろうが自然物であり、女のおっぱいはどれだけ大きかろうが加工物の可能性もあるけど。男だって筋肉モリモリにするのには並々ならぬ努力が必要で、女が望むような完璧なシックスパックってのは、そもそも人によって筋肉の付き方が違うせいで、若干ではあるが左右非対称になるんだぞ。でもそんな不細工なのは女の求めてる腹筋じゃなんだろ。じゃあ結局男が求めるおっぱいと女の求める筋肉ってのは理想なんだよ、そんなものありはしないんだよ。そんなものしか見てない人間なんて、理想しか見れない残念な人間なんだよ。人は見た目で判断なんてしちゃいけないんだよ、性格が重要なんだよ」

「お、終わりました」

「あ、すみません。変な話してしまいまして」

「い、いえ。男の子ですから」


 とりあえず、僕の採寸は終わったようだ。


「次はイオリ カナデ様」

「私もみんなと同じように呼んでよ」

「カナデ様、でよろしいでしょうか?」

「お願いね、パーラさん」


 そしてトリは伊織である。

 が、勿論男である僕達は、女子の採寸なんていう場面に居合わせる事は許されていない。

 そのため、寝室へと追いやられた。

 が、本当に伊織の事、そして僕達の事を考えるのなら、寝室ではなく、この客室から追い出して欲しかった。


「あっ、ちょ、」


 ここではあえて、喘ぎ声と言っておこう。

 それがかなりの確率で聞こえてくる。

 いやね。これは、刺激が強すぎると思うんだよね。


「山田太郎は」

「いつまでフルで呼ぶわけ?」

「太郎は好きな人はいるのか?」


 あ、いきなり太郎よびなんだ。別に良いけど。距離感一気に縮めて来たな、びっくりだよ。

 そして、え?好きな人がいるか、だって?そりゃあクラスメイトだった訳だから、顔見知りではあるけど。え?友人とは呼べない間柄なのに、いきなり恋バナですか?てか男同士の恋バナなんて面白くないだろ。それこそ、誰が可愛いのかって話し合いの末、自分の性癖暴露大会になるだけじゃないの?


「生憎だけど、僕は現実の人を好きにはならないし、なりたくない」

「どういう事だ?」

「別になにかトラウマがあるって訳じゃない。ただ、まあ、ネットが普及した影響だろうさ。ネットに匿名で色々と書き込みができるようになって、男女ともに色々な愚痴だったり悪口だったりが書き込まれるようになった。結果的に、男女ともに価値が下がった。まあネットの見過ぎだとか言われたら、その通り過ぎて何も言えなくなる話だけど。僕が好きになった人が二股をしてたりだとか、そんな事されたら立ち直れない程度には精神が弱いからな。だから好きになりたくない」

「お前本当に学生か?考え方がおじさんみたいな感じだけど」

「はっ。言ったろ。ネット依存の末の思考だ。ただの廃人で、オタクの妄想話だよ」


 僕は卑屈で、自分勝手な人間だから。自分が傷つかない為に、他人が傷ついても良い、みたいな考え方をするような人間だから。人を好きになっても、どうせ愛想を尽かされるのがオチだろうし。

 だから僕は人を愛さない。誰も僕を愛さない。


「で。徳川はどうなの?」

「俺は、伊織が好きだ」

「ほー」

「だから、そう、告白しようとした。まあ、誰かがやってきてうやむやになり、更に訳の分からない事が起きたせいで、もうそんな事を言ってられない状況になったが」

「へー。……、ん?」


 え、こ、告白。え?青春をエンジョイしてたんじゃないの?


「そ、そうか。どうやら誤解してたっぽい」

「ん?」

「いや、気にしないでくれ」


 これでも僕は思春期男児ですからね。思考もすべてと言って良いほど下ネタに結びつけてしまう悪い癖がある。直さなければ。


「まあ、そうだな。僕なんて恋愛とは程遠い生活してるけど、うん。くっつけるよう祈っておこう。まあこの世界に祈って叶えてくれるような神様がいるのかわからないけど」

「ははっ、言えてるな」


 まあ、僕は応援することしかできない。女心を理解できないどころじゃない。他人の気持ちを理解できないから、いわゆるところの恋のキューピットになる事もできない。


「終わりました、出て来て大丈夫ですよ」


 どうやら採寸は終わったらしい。


「明日までには、服は仕立てられると思います。ですが、今日の寝間着は間に合いそうにないので、申し訳ないですが、我々使用人のものを着てもらえるでしょうか」

「ああ、問題ない。だろ?」

「僕はなんでもいい」


 潔癖症とかじゃないし。


「うん、大丈夫だよ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます。では、準備してまいります」

「よろしくお願いします」


 ……。今更ではあるが。彼等の衣装は、サッカーの練習着と、なぎなたの道着。

 まあ練習着だし、長時間着る事は問題ないだろうけど、どうにもこっちが落ち着けない。なんたって、僕だけが制服(汗だく・乾いている)でいる。まあ全員服が違うから、今更気にしても意味がないだろうが。


「そう言えばさ。山田くんの鞄の中って何が入ってるの?」

「ん?興味がそそられるようなものなんて入ってないと思うけど」

「そうかもだけど、ほら。こんな世界で、何が使えるかわからないでしょ?だから、なにか使えるものがないか確認を」

「あー」


 確かに、僕は荷物は持ってこれたが、彼等は違う。告白する時に、荷物なんて持ってるはずもない。だから、使えるものを持ってるとすると、僕しかない。

 ま、僕の鞄にそんな優れたものなんて入ってないけど。


「見たいならお好きにどうぞ」

「ありがと」


 感謝されるような事ではない。ただオタクの鞄を見ようとしているだけだ。面白味の欠片もないだろう。


「体操服。くしゃくしゃ」

「いや、男なんてみんなそんなもんだろ」


 基本は、脱ぎ捨てて、適当に畳んだらもう鞄に押し込む。だからその過程でくしゃくしゃになったのだろう。


「俺か?俺は、一応は気にしてる」

「あらそう」


 どうやら男なんて、という男ってのは、この場には僕しかいないようだ。


「タブレット。え、学校にこんなの持ってくるの?」

「いや、漫画を読むために」


 休憩時間とか、暇な時間に、漫画読みたくなるじゃん。そして気分によって読みたくなる漫画って変わるじゃん。だからタブレットを持ってくる。


「げ、ゲーム機。それも3つ」

「PSvitaに3DSにSwitch。どれも別物だ」


 vitaは主に、ギャルゲーをやるために。3DSは、まあ、Switchではできないゲームをするために。Switchは色々なゲームをするために。それぞれ必要なゲーム機だ。


「えっと、学校に、勉強しに来てるん、だよね?」

「まあ、部活をしない以上、そうなると思う」

「……、漫画、5冊」


 それらは、万が一タブレットの充電が切れた時用の、愛読書である。ちなみに漫画ではない。物語シリーズである。ライトではないライトノベルである。


「……、これなに?」

「ん?ああ、入れたままだった」


 いやぁ。秋月に頼まれて買って、実物を渡そうとしたタイミングで、やっぱいらねと言われたものだ。

 あの野郎、描くからには実物を見ながら描いた方がリアリティが云々言ってたのに、ネット見ながら描いたらそれでいけたとかほざきやがって。

 僕の2000円弱を返して欲しい。僕だってこんなの使わないってのに。僕は女じゃないんだ。こんなものを使って発電する趣味もなければ、新たな可能性を見出そうとするつもりもない。


「これ、なに?」

「いや、うん。肩こりがね」


 電動マッサージ機が出て来た。

 これもまた、エロ絵作成が趣味な秋月に頼まれて買ったものである。こっちはさっきとは違い、観察しながらスケッチとかしてた。

 で、僕は僕でゲームのやりすぎで、かなりの肩こりを患っていたりする。そのため普通にマッサージ機として使われる事が多々あった。

 ちなみに電池で動く。


「充電、器。なにこの数」

「スマホとタブレット、Switchは同じType-cで、3DSはそれ専用の、PSvitaは、うん、それ。あとは色々と便利だからモバイルバッテリー数種類。便利だよ」

「学校に何しに来てるの?」

「まあ、学校に来てる」


 学校に行くのが目的になってる。正直、あまり真面目に授業を受けてないし。まあ不真面目でもないけど。


「ようやく財布、がま口」

「いいっしょ。手作りなんだよ、それ」


 これは僕の手芸人生で一番を争う上出来な品だ。丁度正面に、カエルの顔がきてる。


「なんというか、太郎、お前、授業を受けるような荷物じゃなくないか?」

「いやだって、終業式だぞ?体育はあったけど、国語は担任が遊びをしてくれたおかげで、ほとんど必要なものなんてなかったじゃん。それに普段家に誰もいないんだ。もし強盗に入られたりして、これらを盗まれた困る」


 というか、荷物の確認をする予定だったんだろ?なんで僕が責められる感じになっているんだろうか。僕はただ、荷物を公開しただけなのに。


「失礼します。寝間着の準備ができました」

「ありがとうございます」

「ですが、やはり我々のものですので、サイズが合わないかもしれません」

「問題ないです。それより、こうして服を借りれるだけでもありがたいので」

「そう言って貰えると助かります」


 寝間着が到着した。


「じゃあ、誰からシャワー浴びる?」

「お先どうぞ。僕は体操服洗いたいし」

「じゃあ、伊織が先に浴びると良い。俺はいつでも良い」

「でも、いいの?」

「問題ない。こっちは練習前の服だし。汗もほとんど掻いてないから」

「じゃあ、お先に頂きます」


 頂きますて。風呂じゃないんだから、あんまり気にする必要はない気がする。


「じゃ、服脱げ」

「は?」

「は?じゃないよ。服を洗うんだよ。一緒の方が勝手が良いだろ」

「いや、でも、これはほとんど汚れてないし」

「確かに汚れてないかもしれないが、自分自身はあのバカ暑い体育館に籠っていたせいで汗だくだった訳だし、そんな状態で着た服なんて、けっして綺麗なんて言えないだろ?ならさっさと洗うに限る」

「じゃあ、頼む」


 洗濯物なんて、まあとても面倒くさいが、やり方さえ覚えてしまえば、所詮は作業。無心でやればそれなりに苦痛なくできる。

 けど、そんな僕でも、今だに下着の洗濯だけは苦手というか、やりたくない。自分のパンツなら、まあ雑にやろうが問題ないのだが。母さんは無駄にブランドものを買って来たせいで、神経を削る事になった。

 ……。


「なあ、あの人って、あくまでもパジャマの用意をしてくれただけなんだよな?」

「そうじゃないのか?」

「僕たち、下着の替え、なくない?」

「……。同じのを、」

「いや流石に無しだろ、それは。それこそ、その練習着は着替えた後の服だからまだしも、パンツの方なんて、あの暑い体育館を一緒に生き残った衣類だろ?絶対に汚い」

「つまり?」

「一日は、ノーパン確定。そもそもこの世界がどれほど進んでるのか知らんが、パンツという概念がない可能性もある、けど、まあ僕たちが採寸の時にパンツを穿いていても疑問を感じているような感じじゃなかったし、まあパンツ自体はあるのかもしれない。けど、結局今日は無しだ」

「マジか」


 ああ。ノーパン生活は嫌だね。嫌だけど、正直男のノーパンなんて優しいものだろう。

 こればかりは、女の方が問題になってくる。まあ詳しい話は知らないが、女性は寝る時はブラをするだとかしないだとかで意見が分かれているそうだが。まあだからと言って、今回問題になってるのは、ノーパン問題。ブラの話ではない。

 男ならあまり気になる問題ではないが、女なら、こう、生理だとかなんかだとかで、パンツって必要になったりしないのだろうか。服を汚さないためにも。まあ男には知りえない悩みではあるのだが。


「ま、今は気にするだけ無駄だな。ほれ、洗うから、さっさと服を脱げ。あと勿論だけど、ここには洗濯機が無いから、自分で洗濯できるように、手洗いの方法も覚えておくべきだ。まあ客室に洗濯機が無いだけかもしれないが」


 まあそんな考察はいらない。現に、この部屋には洗濯機はない。ならば手で洗う他ない。

 しかも、洗剤もないため、水洗いになる。まあそれは良いか。洗えるだけマシと言うものだ。


「というか、当たり前のように手洗いをしているが。お前、洗濯で手洗いの経験なんてあるのか?」

「当たり前だろ。最近じゃ基本は洗濯機で事済むが、女性用下着なんて今も手洗いが主流だぞ」

「……、その下着は、」

「何を考えているのか大抵はわかるが、残念ながら母さんが無駄にお高い下着を購入するせいで、適当に洗濯機に放り込む事もできず、あれよこれよと手洗いも身に着ける事になっただけだ」


 ほんと、おばさんなんだから、下着なんてこだわらなくて良いだろうに。誰かに見られる訳でもあるまいし。もちろん水商売なんかじゃないから、下着をこだわる理由がわからないが。

 まあ今時は下着もおしゃれの一環になってるらしいし。しょうがない事なのかもしれない。


「さてさて。カッターシャツはまだしも、ズボンなんて洗った事ないからな」


 てかこんな堅苦しい感じのズボンなんて二度と穿かないだろ。

 いやでもな。穿かないからこそ、綺麗な状態にしておきたいよな。

 まあ適当で良いか。うん。何事も適当が一番だ。よく言うだろ、為せば成る、為さなくてもなるようにはなる、って。


「お湯が出てくれれば助かるが、どうだ?」


 普段洗濯機すら触らないような人間には理解できないだろうが、洗濯はぬるま湯を使うのが一番いい。高温はダメだ。生地を傷める事になる。低温は、知らん。だが、40℃ぐらいが丁度良い。まあ調べた事が無いから、何が良いのか知らないが。

 それに、そのぬるま湯ぐらいの温度が良いと聞いたのも、結局は洗剤ありきの洗濯の話。ただの水洗いで、果たしてどこまで効果を発揮するのか。


 いや、別に洗濯に石鹸を使っても、いいのか?良いか。別に問題ないか。おかしなものが入ってる訳でもないだろうしな。


「そういえば、太郎。お前、スマホ、持ってるか?」

「ああ、残念な事に、スマホを取りに教室に戻ったからな」

「それは、すまない」

「別に責めたい訳じゃないさ。まだ判断するには早いけど、日本より面白い事が起こる予感があるし」

「そう言ってくれるのなら助かるが、じゃなくてだ。お前、誰かと連絡が取れたりしたか?」

「いや、無理だろ。現実的に考えて、この世界に電波があったとしても、日本と繋がってるはずないだろ」

「まあ、物は試しと思って、やってみてはいるが。案の定、一切繋がらない」

「だろうな」


 てか、もし向こうと繋がったとしての話。僕たちの現状をどう伝える?なんか召喚さえて、勇者をやれと言われた、って言うのか?そんな話、誰が信じるんだって話だ。


「けど、まだ試していない事がある」

「へー」

「お前、どこにスマホを置いている?」

「そこらへん」


 ズボンを洗うために、ポケットに入っていたスマホをそこらへんに置いた。どこかは、まあ洗濯をしている近くだ。


「借りるぞ。パスワードは?」

「ない」

「は?」

「どうせそのスマホには重要な事はほとんど入ってないし。見られて困るようなもんはないから、パスワードなんてない」

「そ、そうか」


 どっちかと言えば、タブレットの方が厳重なロックがある。アプリごとにパスがあるほどには、厳重だ。


「お前、LINEの友達、少なくないか?」

「余計なお世話だ。あと余計な繋がりがない分、僕だけの時間が長くなる。友達が多い事と幸せであることは必ずしも=ではない」

「ま、いいや。……」


 僕のLINEは、母さんとのやり取りと、通称トライアングルとかいうクソださグループしか使われていない。

 他にも友達はいるが、基本なんのやりとりもしない。あけおめことよろすらしない。ただ、友達という枠にある文字だ。


「繋がった!」

「なんの話してるんだ?」

「電話だよ!どういう訳か、俺達は電話ができる!」

「へー、そりゃよかった」

「なんだよ、反応が薄くないか?」

「だって、どうせ電話なんてしないだろ」

「何言ってるんだ。お前は勇者を辞退するんだろ?そしてここから追い出される。なら俺達の通信手段は絶たれるが、これがあればいつでも連絡を取り合う事ができる」

「まあ、あんまり過信しない事だな。どこまで繋がるか検証もできてないんだろ?ならそれは信じるに値しない」

「でも、繋がるとわかっただけでも進歩だ!」


 まあ、確かに。この世界において、こっちの技術が使えるとわかったのはありがたい話だろう。


「あがった、よ」

「「……」」


 この場合、なんと言葉にするのが正しいだろうか。

 見惚れる。まあおおよそはこれで良いのだろうが、どうもこれで良い気がしない。確かに心を奪われてるが、やはりちょっと違う気がする。

 釘付け。いやこれも違うか?なにせ釘付けになってる理由は、結局のところ、目の前にいる人に見惚れているからだ。

 目が離せない。これも結局のところ、見惚れると一緒か。


 まあ言葉にするのならば、見惚れるが一番近い気がする。が、でもやっぱり若干ちがくて。

 いやもう面倒だ。ハッキリさせておこう。


 目の前の人は、伊織は、煽情的な衣装をしていた。

 パジャマと言えばパジャマ。だがその中でも、ネグリジェと呼ばれる種類のパジャマ。これがまた、特別露出が高い訳ではないのだが、こう、腕や足などは透けていて、しかも鎖骨は見える程度には襟がね。とにかく、ちょっと一般思春期男児には、ただでさえ刺激が強めの衣装である。

 まあそもそもの話、陰キャが女子のパジャマ姿を見るというだけで、もはや興奮するが。


 が、問題はそこだけじゃない。やはり問題となる部分はただ一つだ。ブラがね。うん。ノーブラなんだろうね。見ようとしている訳ではないが、視線がどうしてもそこへ吸いつけられて。


「俺が先に入る、良いか?」

「へ?いや流石にちょっと待てよ」

「先失礼するぞ。あと洗濯しとけよ」


 ……。

 僕がシャワーを使う時、イカっぽいにおいがしない事を願っている。


「……、見ないでね?」


 新手の拷問かな?

 太郎は一般思春期男児です。恋愛は興味ないとは言え、リアルの女性の体には興味があります。が、素晴らしい事に根性無しなので手を出す事は決してありません。

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