表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山田太郎の冒険  作者: ゆきつき
1/8

1話 召喚

 ミンミンと、蝉が必死に存在をアピールしてくる。

 日差しは強く、外にいるだけで焼かれている気分になるほどの気温。そんな只中に、我等が高校の終業式は行われた。


 僕が通っている高校は、私立でもなければ、有名進学校でもなく、ごくごく平凡な、家の近所にある県立高校。まあ、近所と言っても、自転車で10分はかかる距離ではあるが、そもそも僕が住んでいる市内には、高校は10校程度であり、県全体でも、50もない。ならば自転車で10分程度で通えるというのはありがた話である。

 まあ、そんな近所の学校は、進学校ですらないただの公立高な為、勿論体育館にエアコンなんてハイテクなものはないし、絶妙に偏差値が低いおかげて、体育館に全校生徒が入るとなると、いくら体育館の窓を開けていようとも、一切風は通らないぐらいには生徒が多い。

 更に悲しい事に、僕は2年であり、A~Eまであるクラスのうち、Cと、丁度真ん中であり、体育館での座る位置は丁度真ん中になる。余計に風なんてあたらない。

おかげで、鍋で蒸さる気分を味わうことができた。どうもありがとう、我が校の校長。貴方の話が大変ありがたいお言葉の羅列だったおかげで、当初の予定より30分も余分に蒸される体験ができた。

 そして悲しい事に、制服は汗で色が変わってしまった。だがこれは、なにも僕だけではなく、クラスの人達は皆同じだった。

 汗によって服が肌に張り付くこの感じはとてもじゃないが我慢できない。それくらい嫌いだ。ってか好きだという人を見た事がない。

 だが、まあ。女子も同じように汗ばんでおり、胸元の布を持ってパタパタと扇いだり、スカートをパタパタと扇いだりする絶景を眺める事ができた為、校長のありがたい話は大変為になる時間だった。


 そして先生が何故か別れを惜しんだせいで、他のクラスよりもホームルームは10分も長くなった。

 けれど、別に教室にはエアコンが付いているため、苦ではなかった。あと先生の声があまりにもイケボなため、ずっと聞いていられた。まあしっかりと聞いていたのかと問われれば、答えはノーだ。聞き流していた。

 勿論だが、僕含め学生は待ちに待った夏休みがこれから始まるのだから、先生の話なんてのは誰も聞いていなかった。陽キャグループは海に行こうだとか川に行こうだとかプールに行こうだとかの計画を立てていた。何故全て水着になるイベントだったのかは、陽キャではない僕には計り知れない。


 そんなこんなで、遂に学校という場から解放され、ようやく下校できるタイミングだったのだが。

 タイミングが悪い。ちょうど、あと数分でMHヒストリーをクリアできるところだった。

 そのため、すぐには帰れず、教室でゲームをする事となった。

 が、教室には僕以外にも、午後から部活がある部活生達の飯を食う場所となっていた。

 そのため僕が居てもおかしい訳ではなかったが、まあ部活がある訳でもない僕が、部活を頑張っているイケイケ集団の中にいるのはおかしかった。





「山田氏。今日は調子が悪かったですね」

「うるさい、秋月。あと僕の調子が悪いじゃなくて、出てきた敵全て金冠だったのが悪い」

「言い訳は醜いですよ」

「だから文句は僕じゃなくて、六十谷に言えよ。全部金冠だったせいで、一番足を引っ張ったのは六十谷だろ。それのフォローをしてたんだから」

「いやー、面目ない。俺、丁度アイツらの金冠は登録されてなかったから、出てくる度に手が震えてな」

「六十谷氏が下手なのはいつもの事ではないですか」

「あーはいはい、僕が下手だったよ。僕のせいで針が15まで行ってしまいましたよ、わるうごさんした」


 とまあ、今は下校兼さっきのハントの反省会を行っている最中だ。

 あのあとは色々とあり、部活生を見送ってから帰る事となった。まあ家に帰ったところで、どうせ誰も居ないため、昼ごはんの心配はする必要はない。僕が家に帰ってから、カップ麺でも食べるだけだから。


「では、私はこちらなので、これにて失礼」

「はいよ」

「8月10日。忘れていませんよね?」

「バッチリさ!いやー、今年は楽しみだ。奏ちゃんや一歌ちゃんの同人誌があればいいけど」

「あー、忘れるとすると僕だな。ちょっと待ってよ。今スマホにメモを」


 ?   る???


「やっちまった」

「どうしたんです、山田氏」

「スマホ、教室に置いてきたっぽい」

「ハーハッハ!おま。現代人がスマホを忘れるなんて、(ง`▽´)╯ハッハッハ!!」


 煽られたのは無性にムカつくが、事実なのでなにも言い返せない。まあ僕は現代人の割には、スマホを触らないし、ソシャゲもあまりしていないせいで、スマホを忘れてた事を今の今まで気が付かなった。


「教室にあればいいけど」

「では、先に失礼しますね」

「ああ、また今度な」


 うーん、もし落としたのなら、面倒くさいな。ちゃんと道路も確認しながら教室まで行こう。





「すみません、2Cの教室の鍵を貸して欲しいんですけど」

「なんだ、山田か。もう忘れ物か?」

「恥ずかしい話ですけど、スマホを忘れたようでして」

「おいおい、現代人がスマホを忘れるなよ」

「返す言葉もごさいません」


 さっきも言われたが、そもそも現代人はスマホを持っていないといけないというルールでもあるのだろうか。


「で、鍵だけどな。まだ職員室に戻ってきてないんだ。まあラストの人が部活で急いでいたのかもしれないが、1学期最後の日なんだし、ちゃんとしてほしいが」

「そうですか」

「っと、山田の用事が終わったら、鍵を届けて欲しい。あと、忘れ物がないかの確認もしてくれ」

「それって先生の仕事じゃ」

「頼んだそ」


 ......

 僕は決して、成績はいい方ではない。というよりも、ザ.平均だ。

 評定も、びっくりするほど普通。何か悪い訳でもなければ、何か良い訳でもない。

 だから、先生からも目をつけられない。優等生ならば先生の目にとまり、問題児ならば先生の目にとまる。

 が、平凡な僕は、先生とはほとんど関わりと言うものがない。

 だから、先生からのなにか頼まれるなんて初の経験だ。


「なんで僕が見回りのような事をしないといけないんだ?」


 まあ、スマホを忘れたのがいけなかった。自分でもわかっている。

 スマホさえ忘れなければ、わざわざ学校に戻る事もなかったし、先生の仕事を押し付けれる事もなかった。

 まあ、ちゃんと忘れ物がないか確認しなくとも、しばらくは学校には先生達もいるし、教室を開ける事ができるから、忘れ物があっても回収できる。だからそこまでしっかり確認しなくてもいいだろう。だって、これは僕がやる必要のないことだし。


「……んだ」

「なに?」

「その、俺と、」


 ??……!!


「山田太郎……」


 教室には、おっきな忘れ物が3つあった。

 ひとつは徳川康希とくがわこうき。県内ではなかなか強いうちのサッカー部のレギュラーにしてエース。既にJ1のチームからお声が掛かっているとかいないとか噂のある、将来有望のイケメン。

 ひとつは伊織奏撫いおりかなで。薙刀部と茶道部を掛け持ちしており、薙刀の腕前は全国レベルだとかなんとか。茶道のほうはよく知らないが、とにかく伊織奏撫の悪い評判というのは一切聞かない、才色兼備な優等生。

 ひとつは、夏休み前に行っておくべき青春。


 まあ、その、なんだ。僕はあくまでもスマホを取りに来ただけだ。

 先生に忘れ物がないか確認するように言われていたが、問題ない。ここに僕が確認できる忘れ物はなかった。

 鍵はどうすればいいかわからないが、まあ僕が締める必要も無いだろう。お楽しみの前か後か知らないけど、まあここに居る二人に任せればいいだろう。


 別になにも悪いことをしてない。

 なにもしていないが、両手を目の前に出し、なにかをなだめるようなポーズを取りながら、僕の席まで移動する。

 今まで嫌だったが、なんと幸いな事か。自分の席が廊下側の1番前にあってくれて、これ程嬉しかった事はない。


「よかった、あった」


 どうやら、スマホは僕の机の中に入れたままにしていたらしい。

 特に理由はなかったが、スマホを持つ現代人の性と言うべきか。スマホを持ったなら、すぐに時間を確認した。

 陽キャならばLINEの確認やらInstagramの確認やらがあるだろうが、残念、僕はゲームやアニメが好きな人間だ。そんな陽キャ御用達のアプリは入っていない。入っていても、ゲームの公式の情報を調べたりするぐらいしか使い道がない。

 どうやら、現在時刻は13時34分らしい。ちゃんと確認した訳では無いが、既に野球部と陸上はグラウンドにてアップを始めている。声が聞こえてくるため、既に練習が始まったのだろう。それにまあ、時間帯も丁度いい時間だろう。昼ご飯を食べて、程よく時間が経過してる頃だろうし。

 部活生は今から部活だろうが、僕は部活生じゃない。家に帰って昼ごはんを食べなければならない。だから早急に家に帰らなければならない。


「……、ごゆっくり」


 気の利いた事なんて言えるはずもなく、なんかよくわからん事を言ってしまった。が、後悔はしていない。

 リア充がこの時間帯で二人きり。部活もあるだろうに、この時間に、教室で、二人きり。僕が邪魔をしなければ、今頃は大変な事になっていた事だろう。

 幸いと言うべきかなんというか。教室には先ほどまで行われていたお食事会の影響で、なんかいろんな食べ物のにおいが蔓延している。汗のにおいだとか、そういうのは感じられない。

 それにしても、サッカーの練習着と薙刀の道着。コスプレプレイが好きなのか知らないけど、ちょっとやかましくない?せめて制服同士のほうが、こう、スッキリしてない?


「ちょっ、誤解だよ」

「大丈夫。誰にも言わないし、カメラも回ってない。この事を僕が誰にも話さなければ、誰も知る由もない。逆にこの事が知られれば、僕が言いふらした事になる。大丈夫、僕にそんな度胸はない」


 徳川康希も伊織奏撫も、どっちも陽キャグループの人間だ。もしこんな事を言いふらしたりしたら、どんな事になるのか、想像がつかない。いや、想像はできるが、恐らくその想像を大いに超えてくるであろう悲惨な出来事が起きるという事が想像できる。


 僕は陽キャではない。かといって影なる者でもない。陰キャだが、何故か陽キャからしっかりと認知されている陰キャだ。おかげで、陽キャから虐められる事はない。

 けれども、もし今回の1件で陽キャ達が僕を本格的に敵認定したら。……おろそしい。

 だから、といっても徳川康希にも伊織奏撫にもわかってもらえないと思うが、僕が今回の事を言いふらすなんてことは決してない。


「……、ごゆるりと」

「待て、山田太郎」

「……」


 何か用でもあるのだろうか。……まさか、NTR好き?僕は純愛と言うか、幸せな愛し合いが良いと思うんだか。世の中広いな。やっぱりイケメンの考えることはわからん。やっぱりイケメンという生き物は理解できない。


「!?」

「!? 何をしたんだ、山田太郎!」

「え、僕!? 知らないよこんなこと僕にできるはずないだろ」


 何が起きたのか理解できないが、とりあえず今起こってる事を理解しようとしないと。

 えーーーーーーと、教室の中に、白の光が満ちている。太陽の日差しが差し込んでいるはずなのに、目が開けていられないほどの眩しさをしている。目を閉じているにも関わらず、それでも眩しいと思うほど眩しい。僕は勤勉な人間ではないので断言できないが、太陽より眩しいものなんてあるの?まあ今はそんな無駄な事は考えなくていいか。

 その他は、わからない。なにせ、目を開けたところで、教室全体が白の光で満ちているため、何が起きているのか見ることができない。


「山田くん、徳川くん、大丈夫!?」

「大丈夫だ」

「うん?」


 何をもって大丈夫と言うのか定かではないが、まあ自分の身が無事かどうかなら、YesでありNoだ。

 怪我はないが、目を開ける事ができない。目を開けれても、眩しさがカンストしていて、なにも見えない。つまるところ、視覚がまともに機能していない訳で。これは無事と言えるのだろうか。僕にはわからないな。


「ん……」


 急にと言うべきか、ようやくと言うべきか。目を閉じていても分かるほどの眩しさが無くなった。

 だから瞼をあげた。


 ……。

 さっきの眩しさのせいで、目が狂ったらしい。

 目を閉じて、軽くこすってみる。軽い眩暈なり疲れからくる幻覚なりなら、これで元に戻るはず。

 ……。

 教室が教室ではなく、目の前に時代錯誤の人間が二人もいる。

 うん、おかしい。目がやられたついでに、ゲームの世界のようなものを映し出している。

 現実とは小説より奇なりとかいうけど。これはファンタジーが過ぎないか?


 いや、現実逃避をしている場合ではない。今だけは現実をしっかりと確認しなければ。

 とりあえず、辺りを確認。

 少し離れた場所に、徳川康希と伊織奏撫がいる。が、その二人の近くにあった机や椅子はそこにはない。

 よくよく見ると、僕の辺りにあった机とかもない。どうも、人だけがここに呼ばれた(?)らしい。

 次。どうも、僕の目の前にいる二人以外にも、左右に剣を携えている人が二人ずつ、後ろには大きな扉の横に控えている人が二人と、合計で八人いることになる。


 あー。心細い。なんかよくわからんところに放り出されて、なんか動くことができないような異様な空気感がある。

 そして、すぐそこに知り合い二人がいるものの、動いたらダメみたいな空気感があるせいで、何故か見知らぬ地にて誰かに頼る事ができない。

 いやまあ、あの二人とはマジで知り合い程度の間柄であり、頼るような関係性ではない。けどあの二人は違うだろうが。


「よく来てくれた、勇者諸君」

「??」

「分からないことも多々あるだろう」


 分からないことが多々あるではなく、分からないことしかない。そもそもあなた様は誰でござんしょう?


「だが、それでも聞いてもらいたいことがある。我々は今、魔王と全面戦争中だ。人間が協力してもなお、魔王軍に勝てない。そのため、勇者召喚を行った。君たちには君たちの生活がある事は理解している。だが、この通りだ。是非とも、我等人間を助けて欲しい」

「陛下、頭をお上げください」

「何故だ。これは私達がお願いする立場なのだ。私の頭を下げるだけで、民達が救われるのなら、安いものだ」

「ですが…」

「この通りだ。頼む」


 何が起きているのか、全く理解できない。

 できないが、理解できない事なんて、日常から起きている。陽キャからの無茶ぶりだったり、陽キャからの山田太郎弄りだったり、とにかく陽キャに話しかけられれば、何が起きているのか理解できない。

 だから、まあ、理解できないなりに、頑張っている話を合わせ、会話をしようと試みる。


「申し訳ないですが、僕にそのような大役はできません。僕は勇者なんて柄じゃない。おそらく勇者であるそちらの二人の召喚に巻き込まれただけだ。だから僕には勇者なんて呼ばれるような人間じゃなければ、そんな実力があるはずもない。だから僕は、この話は引き受けられない」

「なっ、貴様、陛下が頭を下げたのに!」


 いや知らないよ。なんで見ず知らずの人間が頭を下げただけで、命を懸けてくれると思っているんだよ。

 こっちはごくごく平凡な学生なんだよ。戦争なんて言葉とは無縁の生活を送っていたんだよ。たった今、その平凡が消え去ったけどな!


「よい。先も言ったが、これは我々がお願いする立場なのだ。断られてもおかしなことでは無い」

「ですが」

「あの、質問なのですが」

「なんだ?答えられる事なら何でも答えよう」

「俺たちは、元の世界に帰れるのでしょうか?」


 どうも、会話を試みようとしたのは、僕だけではなかった。徳川康希も陛下と呼ばれる人間に話しかけた。


「済まないが、我々の所持している技術では、君達を元居た世界に戻す事は不可能だ」

「なッ!?」


 ……。

 さてこれからどうしようか。お金を稼ぐ方法を探さなければ。


「だが、そもそもこの召喚術は、魔王が造り出したもの。我らにはできずとも、魔王ならば君達を送り帰す技術をも持っているかもしれない」


 うーん。まあ、よくあるところのゲームだとかをイメージしよう。

 ここは異世界。魔王がいる。魔王と戦争中。勇者召喚なんてものも存在している。

 ならば、冒険者なる職業も存在している可能性が高いだろう。そこならば、恐らく学歴だとかも関係なく仕事はできるだろう。

 が。

 生憎と僕は今までぬくぬく温室育ちであり、自分の命を懸けるような真似はしたくない。だから冒険者は却下。


 でもそうなると、特技がないような人間が、碌な就職というか、バイトとかできないだろうしな。はて、どうするか。


「だが、それも確かではない」

「そんな…」


 うーん。なんでも屋でもやってみるか?いや、下手になんでもやる、みたいな事を言ったら、魔王退治をしろだとか言われても困るし、なんなら魔法使いを目指す僕としては、こんな序盤で魔法使いの資質を失う訳にもいかないし。


「今すぐ決めろというのも無理な話だな。3日、考えてくれ。そのあとでまた、答えを聞こう。それとそこの」

「……、僕?」

「君も、3日間はこちらで宿泊していくと良い。右も左もわからないだろう」


 まあ、そうなったのって、この場に呼び出されたからなんですけどね。


「そのため、一般常識程度を身に着けてから、好きにすると良い。本当ならば客人として受け入れなければならないが、これだけはわかってほしい。今、本当に支援が必要なのは、最前線で戦っている者達なのだ。君を受け入れる余裕は、残念ながら…」


 ふと気になって、もう一度周囲を確認した。

 明かに、剣を持つ人達の目が、歓迎ムードではない。

 いやまあ、僕だって馬鹿じゃない。今話しているのは陛下って呼ばれてた訳だから、王様なのでしょう。そんで剣を持って控えているって事は、彼等は王様を守る騎士みたいな存在なのだろう。

 そうなれば、そりゃあ当たり前だけど、王様が害されないように周囲の警戒を怠る訳にはいかない。

 が。

 僕はあくまでも勝手に呼びだされた被害者であり、立ち位置的に言えば、僕の方が優位にあるはずだ。

 だって王様がそんな勝手をしなければ僕はここに呼ばれていない訳で。例えるなら、そう。包丁を手に持って軽く脅されてるのに、周囲の目はその変人じゃなくこっちを疑ってるような状況。どう考えたっておかしい。

 けどまあ、世界が違うから、価値観も違ってくる。だからまあ、それだけで王様を守ってる騎士達が悪いとは言わない。ってか言えない。もしなにかのはずみで王様に危害を加えようとするのなら、すぐさま動けなければ意味がないからな。

 けど、周囲の目は、そんな優しい感じのものではない。ただ警戒してるって感じでもない。言葉にするのは難しいのだが、なんとも、こう、棘のある感じと言うか。僕にとって物凄く意地の悪い感じ。


 と。話を戻そう。

 僕は政治なんてものは欠片も知らない。しかもここは異世界とかいう日本の常識は通用しない。だから僕の知っている常識で語るのはおかしな話だが、仮にも一国の王様が、僕みたいな小市民一人受け入れられないほどの財政難って事は、あり得るのか?

 そりゃあ、僕があり得ないぐらいの贅沢を求めて、物凄い浪費癖がある人間だった場合、確かに困るだろう。だが、それでも一個人。使える金も、限られているだろ。

 なのに、なんで、受け入れられない?


 いやまあ、元々頼る予定はなかったけど。うん。いやまあ頼れるもんなら頼りたいけど、うん。僕はそこまで他人に依存する生き方はしてきていないつもりだ。まあ金銭面は色々と助けてもらえると助かるけど。


「そうだな。1年分の食糧費ならば渡せるだろう」

「陛下!」


 ん?誰だ?騎士の人か?少なくとも、隣に居た人が発した言葉ではなかった。声が違う。


「何をそんなに焦っている。彼等をここに呼んだのは我々だ。ならば、協力せずとも、彼等の面倒を見る責任があった。だが魔王との戦争での戦況が悪いおかげで、碌に対応することができない」

「そうです!我々には、時間も、人員も、資金もない!」

「それがどうした。我々は彼等の生活を狂わしたのだ。たった1年の資金を渡したところで、到底許されるような事ではない。でも、だからこそ、我々は誠意を示す必要があるだろう」

「ですが、これでは約束と」

「我々は人間だ。無差別に人を殺したりするような、人でなしではない。もしここで、この世界の事を何も知らない彼等に対する援助をしなければ、それはただの殺戮者と同じではないか?」

「しかし」

「しかしもなにもない。彼等がここに来たのは、我々の事情からだ。できる限りをする義務がある」


 なにかよくわからないが、とりあえずこの王様は良さそうな人で、どっからか乱入してきた人は悪そうな人だ。


「とにかく。わけも分からない話ばかりで疲れただろう。客室を用意している。そこで休んでくれ。そこでどうするか、判断してくれ」


 よくわからんが。うん。とにかく言える事は一つ。


 僕は異世界に行ってしまいました。

 これからもお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ