全ての始まり
負の感情は、時に人を狂わせる。
_憎い_
_何で私ばっかり_
_あいつより俺のほうが優秀なのに_
_なんの努力もしてないくせに生意気_
_誰も認めてくれない_
_あの子さえいなくなれば_
_憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い_
…咲いた。
薄気味悪い森の中心にある、美しい泉の傍に“アメシスト”のような薔薇が咲いた。
鬱蒼とした辺りとは対照的に、開けたその場所はスポットライトを浴びたステージのよう。
四方八方から飛んでくる深紫の光を吸い込み、小さな薔薇は月光に一層輝いた。
そして…泉の水が一滴、強い風に吹かれて薔薇の花弁に吸い込まれた瞬間、にわかには信じられないようなことが起こった。
茎の部分が膨張を始めたのだ。
“身体”が膨らめば膨らむ程、薔薇はその花弁を閉じてゆき、膨張が終わる頃には蕾になってしまった。
そうして、すっかり“人型”になった茎。
その色彩は、先程と同じ植物だとは思えない程に白く、所々に紅が差してあった。
…それからは、ただ雲が流れてゆく時間が続き…
静かに輝く月が空を昇り切った瞬間、頭に小さな蕾をつけた美しい“少女”は怪しく光る瞳を開いた。
そして、黒く彼女を縛り付ける大地から体を抜き出し、何者かに導かれるようにして傍にあった大樹へ向かっていった。
「…お前は何者だ?」
大樹は問いかける。
しかし少女は答えない。答えられない。
「…言葉を知らない“呪われた”薔薇よ。この森で共に生きよう。」
少女は小さく頷いたようだった。