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174話 終局の予感

 王都中心部地下が、揺れる。


「──」

「ぐ、ぅ──!」


 クロノ・フォン・フェイブラッドの放つ不可視の魔法。『白夜の天命(アイン・ソフ・オウル)』による力場が多数多方向からルキウスに襲いかかる。

 その速度、加えて硬度は凄まじいの一言。『魔法を斬る』という異能により基本的に直接攻撃系統の魔法には極めて強いルキウスでも、捌くのが精一杯。


 流石は、この王国で数十年に渡って暗躍し続けた『組織』の頂点。凡庸な魔法使いでは到底あり得ない。

 創世魔法の反動があってなおこの実力。ローズに匹敵する可能性がある、との評も十二分に頷ける強さだ。


 だが──ルキウスとて凡夫ではなく。加えて、今の彼は一人ではない。


「っ、サラ嬢!」

「はいっ!」


 ルキウスの掛け声に合わせて、サラが『精霊の帳(テウル・ギア)』による結界を展開。絶え間ない猛攻に息をつく間を挟み、そこから『星の花冠(アルス・パウリナ)』によってルキウスの疲労を回復。

 サラの真骨頂、他者と組んだ時にこそ発揮される本領。味方の防御力と継戦能力を大幅に上げる彼女の凶悪さは、単騎最強の一角であるルキウスと組むことによって存分に発揮されていた。

 クロノの方も、だからと言ってサラから狙うわけにはいかない。彼女は常時自身を強力な結界で守っており、その突破に手間取っている間にルキウスに背後から一刀両断されることは自明の理だ。


 故に、クロノもこの布陣を突破する手段はなく。自身の血統魔法一本で、真正面からルキウスたちをねじ伏せるしかない。

 とは言え、ルキウスたちの方もクロノの猛攻を凌ぐので手一杯。現状は膠着状態ではある──が。


 エルメスの時と違って、今回は膠着状態はルキウスたちに有利に働く。

 何故なら、クロノたちと違ってこちらは単騎戦闘に耐え得る魔法使いが多く居る。故に、やられないことに徹して時間を稼げば──



「良く耐えた、お前ら」



 最高戦力、空の魔女のご登場だ。

 オルテシアとの戦闘で負った傷を回復させたローズが、いよいよ復活し地下にやって来た。

 彼女は自分たちほど積極的にクロノたちを倒すつもりはないものの、自身がフリーであれば見過ごすほどの意味もない。

 そして、彼女は戦いとなれば容赦しない。


 故に──彼女が復活した時点で、勝利は揺るぎない。

 王手をかけたことをルキウスたちは確信し、その確信通りにローズが息を吸い──




「させるわけねぇだろ、空の魔女」




 その、横合いから。

 凄まじい速度で飛び込んできたラプラスが、勢いのままローズに殴りかかった。


「!?」


 ローズとて襲撃は予期していた。

 けれど、ラプラスが……秘匿聖堂で一戦してある程度実力を把握していたはずのラプラスが、ここまでの速度を出せていること。

 からくりとしては、エルメスとの対決を経て尋常ではない勢いで進化していった結果の今まで以上のラプラスの速度。その落差に虚を突かれ──


 一撃を、受ける。

 ガードは間に合ったが空中では踏ん張ることもできず、弾き飛ばされる。

 その一瞬を逃さず、ラプラスは即座に方向転換。クロノの隣へと着地し、


「ボス! しゃあねぇ、空の魔女まで来たなら限界だ」

「ああ、やりたくはなかったが仕方ない──!」


 端的な一言だけで、即座に合意。

 そして──二人、息を合わせて。



「──『悪神の篝幕(ゴエティア)』」

「『◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎(アルス・マグナ)』」



 銘を、同時に告げる。

 その意味が分からないものはここに居らず……だからこそ驚愕した。


「なっ──」


 使え、たのか。

 死霊の魔法を超強化しただけでも信じられないのに、その反動からもう回復するなど。


 先に倒しておくべきだったか、いやしかしこれ以上の戦力はクロノには割かせられず、仮に倒すつもりだったとしてもできなかった可能性が高い。

 結論、分かっていてもどうしようもなかった。そこまでの思考が一瞬でルキウスの中で巡り……そして、結論を理解したとしても最早魔法を止める手段はなく。


 魔法が、融合し。

 ──瞬間、空間が変わった。


 即座に理解する、これは『悪神の篝幕(ゴエティア)』の魔銘解放(リベラシオン)と同等の弱体化領域だ、しかも効果範囲が以前秘匿聖堂で見せたものと比べて規格外。


 まさかの、創世魔法特化による血統魔法の脅威復活。

 創世魔法によって強化された拒絶の領域。範囲だけでなく効果まで、あの『救世の冥界(ソテイラ・トリウィア)』と同レベルに強化されているのだとしたら。

 それはもう、勝ち目は──


「落ち着け!」


 思わぬ状況にさしものルキウスも混乱に陥りかけたが、それを引き留めるようにローズの一喝が響く。

 そのまま、ローズは続けて。


「あいつらが言ってただろう、やりたくはなかった奥の手だと! 創世魔法の連続発動なんて相当の無茶だ、平然とできることじゃねぇ。あいつらも相当無茶してる!」

「っ!」

「そんだけ追い詰められてるってことだ、確実にあれが最後の手段だと思っていい! 後一歩だお前ら、じきにエルたちもここに来る、そこまで叩き続けろ!」


 ここが、最終局面だと。

 ローズの言葉なら問答無用で信用できる。それを理解した二人は、ローズの光の雨に合わせて、襲い来る弱体化の魔力に耐えながら攻撃を再開した。




 そしてローズの読み通り。

 ラプラスを追う形でエルメスも、ほとんど同時に地下へと辿り着いていた。

 ローズの声も聞こえてきて、大凡の状況を把握した。即座に加勢に向かうべく足を踏み出そうとしたが──そこで。


「!?」


 驚くべきものを発見した。

 流石に無視するわけにもいかなかったので、軽く方向転換。その『驚くべきもの』である二人──


「何故ここに?」

「師匠!」

「エル君、無事だったんだ!」


 ニィナと、彼女に抱えられて移動していたリリアーナの横に立つ。

 そのまま並走して地下に向かいつつ、事情を問う。


「……なるほど」

「も、申し訳ございません師匠。何もできないことは分かっているのですが……!」

「いえ、構いません」


 エルメスの結論も、それだった。


「他の方ならばともかく、あの二人は……戦いに入ってこない人間を積極的に狙うような方とは思えません。無理に参加しなければ大丈夫かと」


 本気の戦いの最中に甘いと思われるかもしれないが……何故か、これまでの戦いである程度彼らのことを知ったからだろうか。不思議と、そこだけは確信できた。


「万一狙われたとしても、リリィ様ならば逃げに徹すれば大丈夫でしょう。そこからはニィナ様に守っていただければ。ニィナ様には申し訳ないのですが──」

「うん、大丈夫。ちゃんと守るよ」


 頼もしい返事をもらって、それでエルメスも安心する。


「では、僕は加勢に向かいます。……見守っていてください。この国の行く末を、決める戦いを」

「は、はいっ!」


 リリアーナの返事を聞き届けて、これで憂いは無くなって。

 いよいよ、エルメスは最後の戦いへと向かう。


「──あ……」


 そんなエルメスを、ニィナが引き留めようとする。

 原因は、ニィナが今抱いている違和感。リリアーナをこちらに行かせると決めた時にも感じた、なんとも言いようのない感覚。

 知らないうちに何かをずらされたような……もっと直接的に、何かを(・・・)忘れて(・・・)しまって(・・・・)いるような(・・・・・)


 そんな感覚を伝えようとしたが……伝えるにはあまりに曖昧すぎて、またその曖昧さも含めて伝えるには今はあまりに時間が足りなさすぎる。

 故に、先刻と同じく。気のせい、もしそうじゃなかったとしても自分が対応する。その判断をして、ニィナも笑顔でエルメスを見送る。


 更には、この数分後。

 一足先に目を覚ましたカティアが、ユルゲンを駆けつけた兵士に任せて。多少回復したアルバートとも合流し、彼女らも戦いの行く末を見届けるべく地下に集うことになる。



 そうして。第三王女派と、組織。

 その現在戦える強力な魔法使いが全て、王都中心部地下に一堂に会し。

 いよいよ、王国の未来を決定づける戦いが、最終盤に突入する。


 ──様々な予感を、抱えたまま。

第三章ラストエピソード、いよいよクライマックスが近づいてまいりました。

ただもちろん、一筋縄ではいきません。この先のお話も、見守って頂けると嬉しいです!


次回、戦場が激変する予定。ぜひ読んでいただけると!



そして、読者の皆様にお知らせです!

別サイトの方で、また新作始めさせていただいてます!


『超絶格好良くて可愛い隣のイケメン美少女天瀬さんは、実は俺が昔格好つけて助けた幼馴染らしい。〜俺の前でだけ乙女になる彼女が、幼馴染バレしてから猛攻を始めてきた〜』


イケメン美少女幼馴染との、何かを全力で頑張る青春恋愛もの。

以前の作品を改めて、ラブコメ要素を強化しつつ今度こそ一章終わりまで駆け抜けられるよう仕上げました。

とにかくヒロインのほたるが以前にもまして格好良くて可愛いです。イケメン美少女は良いぞ!!

自信作なので、ぜひ読んでいただけると!

画面下部のリンクから飛べるようになっているので、創成魔法と合わせて

こちらも読んでいただけると、またブクマ評価等もいただけるととても嬉しいです……!

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