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170話 最大の因縁

 ユルゲン・フォン・トラーキア撃破。

 その影響は、その前のオルテシア撃破とは比べ物にならない。


 まず、現在王都全域を覆っていた死霊の群れ。

 それが──嘘のように消えた。


 襲われていた人間からも、抵抗していた人間からとしてもまさしく嘘としか思えない光景。

 死霊たちが、空気に溶けるように。最初からいなかったように。まるで今までの全てが悪い夢だったかのように。

 あまりにも非現実的に、非現実的な光景が消え失せたがために。多くの人間は、それを前にまずは困惑した。


 けれど……ごく一部の人間。第三王女派閥で『作戦』を共有していた人間は確信する。

 ──カティアが、やってくれたのだと。


 ……そして、同時に。



「──────、は?」


 王都の一角。

 中心部で待機していた灰色の男──ラプラスが。

 心の底からの、困惑の声を上げた。


 到底あり得ないと、思っていた。

 いや、実際あり得てはいないのだろう。創世魔法を用いて規格外に増幅された死霊を従えるユルゲンが。……もし仮に加護を受けられなかったとしても、直接戦って敗北することは確実にない。


 であれば……可能性は、一つ。


「……おい、おいおいおいおい」


 ユルゲンが(・・・・・)自ら魔法を(・・・・・)解除した(・・・・)

 正しい推測とともにそれを理解したラプラスの内側から……どろりと。


「はぁ? おい、そいつはラプラスさんも予想できなかったぞトラーキア。

 ……舐めてんのか?」


 黒い感情が。彼が唯一共感できる感情が。

 ユルゲンへの怒りを込めて、溢れ出す。


「あんたの憎悪は、そんな軽いもんだったのか? たかが娘に説得されたくらいで自ら解除するような? ……はッ、そんな程度のもんでこの王都を地獄に叩き込んだのかよ、冥府の魔法も随分安くなったもんだなぁ!」


 本当に、本当に珍しく。怒りを、覚える。


「オーケー理解した、あいつは後で殺す。俺の考えうる限りの悪趣味を凝らした上で殺してやる」


 とは言え、それに呑まれるような真似は犯さない。

 この瞬間、状況は限りなく悪くなった。……とは言え最悪ではない、代替のプランもちゃんと用意してある。そこまで自分たちの数十年は安くない。

 であればどうする、と。持ち前の頭脳でここからもう一度王都を破滅させる手段をおぬ内で構築し始めて──


 ──その瞬間だけは、失念していた。

 向こうは本気で、自分たちを止めにきている。

 であれば、ユルゲンを止めるだけの策も……そして同時に、止めた後のプラン(・・・・・・・・)も向こうだって用意しているということであり。


 ラプラスの感覚が、強大な魔力が近づいてくるのを捉えた。

 ……同時に、理解する。


「……ああ、そっか。そうだよなぁ」


 そう。

 死者の行軍を崩したということは……これまで死霊の対処に割いていた人員がフリーになるということであり。

 であれば、完全に自分たちを滅ぼすべく。ラプラスの元にはとびきりの……心情的にも能力的にも相手をするに相応しい、因縁深い敵がやってくるということであり。


 凄まじい勢いで接近し、最早視認ができるほどに近づいた。

 空からやってくる白い少年が、ラプラスを睥睨し。

 息を吸い、唄う。



「──【相待せよ 傾聴せよ 是より語るは十二の秘奥】」



 それを聞いたラプラスは、即座に理解した。


「……ハッ」


 なるほど、そのつもりか。やろうとすることは分かる。それが自分に有効だとも。

 合わせて即座に頭を回し、戦略的な自らの立ち回りを確認。

 ……それが、今自分のやりたいことと矛盾しないことを把握。

 であれば、もう迷う必要はない。



「【其は真実にして不偽 確実にして真正 タブラ・スマラグディナの名の下に】」



 奴は、紛れもなく脅威だ。

 故にボスの、クロノの元へと行かせるわけには行かない。放置しておいて良い戦力でもない。誰かが止める必要がある。

 ならばそれは、自分をおいて他にはいないだろう。


「……いいぜ」


 それを再確認したラプラスは、溢れ出す様々な感情のまま獰猛に笑って。


「丁度死ぬほどムカついてたとこだったんだ。

 憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ──エルメス!!」


 息を吸い、合わせて、唄う。



「【太陽は父 月は母 風は鵠鳥 大地は乳母】」

「【(かた)れ (かた)れ 八九の虚無 始まりの海に主は無し 終わりの穽にも詩は無し】!」



 最初の対峙は、王国魔法学園にて。

 学園を襲った大事件の黒幕だったラプラスをエルメスが感知、そこで二人は初の戦闘を行い、結果は痛み分け。



「【此方(こなた)に得るは万象の栄光 彼方に払うは一切の無明 流転と円環を言祝(ことほ)ごう】」

「【異郷の帷は狂いの扉 黒塗りの虹に泥の楼閣】!」



 二回目の対峙は、王位簒奪(クーデター)が起こった王都にて。

 炎に包まれる王都の中、脱出前のエルメスとラプラスが対決。結果はエルメスが一撃を返した後の戦闘中断による引き分け。



「【生まれるは全てを凌ぐ力 あらゆる精妙に勝るもの 遍く堅固を砕くもの】」

「【砕け 穿て 妖夢の玉座 星と深月と願いを(なら)し 恵の指輪は隠世(かくりよ)に】!」



 三回目の対峙は、教会秘匿聖堂にて。

 あまりにも強力な負の想いでラプラスの魔法を発動してしまったエルメスの前にラプラスが現れ、同じ魔法で激突。結果はラプラスの圧勝。



「【観照 分離 統合 適応 夢幻の果てに完成を()り (しか)して残るは数多の願い】」

「【斯くて全ての偶像は亡び 真鍮の器は開かれた 欺瞞の王国(くに)(はじ)めよう】!」



 エルメスは、ここまで同じ相手と対峙したことがなかった。

 ラプラスも、ここまで同じ敵手を倒しきれなかったことがなかった。


 今までにいくつもの対峙と敵対、対決を繰り返し。

 そして今──お互いの手の内は既に出し切り、故に最早最初から手加減はない。互いの奥義を最初から撃ち放つ以外にやることはなく。



「【()くて世界は創造された 無謬の真理を此処に記す

  天上天下に区別無く 其は唯一の奇跡のために】」

「【(ソラ)の光は彼方に堕ち 大地の花は藻屑に()

  慈愛は(あら)ず (かむり)は絶える 築き壊れる無灯(むとう)の世界】!」



 かくして、お互いの詠唱が全く同じタイミングで発動する。


 始まった時は絶望でしかないと思われた、創世魔法を用いた悪夢の具現。死者の王国。

 それは、最大の弱所を突くことで崩した。最早始まりの魔法の加護はなく、残る敵手はただ二人、されど残らず至上の難敵。


 その一人、組織最高幹部ラプラス。

 凄まじい魔法の才と血統魔法を操り、真っ当な王国貴族として活動していたならば間違いなく歴史に名を残しただろう傑物。

 そんな彼と、今まさに王国に名を残そうとしている少年が本気で対峙する。

 その始まりの合図として──二人、同時に。




「『原初の碑文エメラルド・タブレット』──魔銘解放(リベラシオン)

「『悪神の篝幕(ゴエティア)』──魔銘解放(リベラシオン)!」




 魔銘解放(リベラシオン)同士の激突という、規格外の対決にて。

 絡まった因縁の最大の激突が、今ここで始まった。

いよいよ、エルメス対ラプラスの開幕。初っ端から魔銘解放をぶつけあう二人を皮切りに、ここから更に最終決戦は加速していきます。

次回、もう一つの大きなバトル勃発。ぜひ読んでいただけると!

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