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71話 突入

 改造迷宮:秘匿聖堂。

 通称、教会裏本部。


 その所在地は、教会本部より東に進んだとある山地にあった。

 三方を山に、そして残る一方も深い森に閉ざされた場所──なるほど、確かにこれは補給物資を送るのも一苦労だと納得できる土地。

 そこに、ぽっかりと偶然できた空き地。当の迷宮はその端、南の山地に接する形で発生していた。


「……なるほど。これは確かに、何かを『秘匿』するにはうってつけですね」


 その全容を見やって、エルメスは呟いた。



 第二王女ライラから、大司教討伐作戦を行う場所が明かされた数日後。

 諸々の準備を終えたエルメスたちは満を持して、秘匿聖堂へと足を運んでいた。


 現在彼らが居るのは、南の山地の中腹。丁度迷宮の全貌を小さいながらも見下ろせる場所だ。

 どうしてそんな場所に居るかと言われれば、答えは単純。


 ──ここから(・・・・)乗り込むからだ(・・・・・・・)


 何故なら、既に眼下の平地。秘匿聖堂の『本当の入り口』の周辺土地にはぎっしりと教会兵──大司教派の教会兵たちが密集しており、そこを包囲する教皇派の教会兵たちと小競り合いを続けている。

 当初の予定ではそこを強引に中央突破する予定だったのだが……あそこの突破はどう考えても多少の損耗は避けられない。故にエルメスが急遽『正面ではない場所』からの突入を提案し、今に至る。


「……本当にできるの?」


 現在いる人間は、いつもの第三王女派の面々に加えて、ライラ、ルキウス、そしてクロノを加えた精鋭の魔法使い合計十人。

 その中で、当初の作戦を打ち立てていた人間。第二王女ライラが訝しげな目で問いかけた。


「あなたがとんでもない魔法使いだってことは知ってる。でも──ここから突入って、そりゃできればありがたいけど一体どうするつもりなのよ。どれだけここから裏教会まで距離があると思ってんの。

 ……まさか、空でも飛んで行くって馬鹿げたことを言うんじゃないでしょうね?」

「……いやいや、まさかそんな」


 ──本当はできますけど。

 という言葉はもちろん口に出さず、エルメスはにこやかに返す。


 ライラの言う通り、『無縫の大鷲(フレースヴェルグ)』を用いての突入も最初は考えたが、すぐに自身で却下している。

 理由は、まず単純にエルメスの魔力では流石に十人を一気に運ぶことは不可能だったことと……


 ……そしてもう一つ。ユルゲンが強く反対を述べたからだ。曰く、


『エルメス君。ここにおいては、『無縫の大鷲(フレースヴェルグ)』と『流星の玉座(フリズスキャルヴ)』──ローズに(・・・・)関連する(・・・・)魔法(・・)の使用は避けた方が良い。ヨハンとの戦いではそれ以外無かったから仕方ないが、他の魔法で代用できる場面では極力使わない方向でお願いできるかな』


 とのこと。

 過去、ローズが教会と一悶着あったことは想像に難くない。恐らくその辺りが関係しているのだろうとエルメスは当たりをつけた。

 大司教ヨハンとの戦いにおいても、実は使ったのは危なかったらしい……ということは、あの後目撃者に緘口令を敷いたことも含めて聞いている。


 ならば従うべきだろう。それに、今回に限っては特別問題はない。

 元々潜入する場所が迷宮ならば、『流星の玉座(フリズスキャルヴ)』を使う機会はないだろうし、今回も大丈夫だ。

 使えないなら、別の魔法で代用するまで。今の彼に──『彼ら』になら、それができる。


(……さて)


 始めよう。

 実のところ、あまり余裕も無い。既にこちらの存在に遠目から気付いた大司教派の兵士たちが向かってきている。割と急いでここまで来たし、説明する時間もなかったのはそのためだ。

 そういうわけで、まずエルメスは告げる。


「アルバート様。『二日前の魔法鍛錬』の件で、お願いします」

「お前……なるほど、そういうことか」

「サラ様もその場に居合わせたのでお分かりですね? 防御方面はお任せします」

「え……? あ、は、はい!」


 エルメスたち第三王女派閥は、リリアーナを筆頭にここまでも魔法の修練を続けてきた。時にはエルメスに教えを乞い、時にはエルメス自身も誰かから学び。

 それ故に、簡単な言葉で意図は伝わる。残る面々は大凡のやろうとしていることを察し、部外者である残り三人は──


「?」「な、何する気よ」「……ほう?」


 ルキウスはまるで分からん、と首を傾げ、ライラは若干引き気味に。クロノはどこか興味深げに目を細め。

 三者三様の反応を前に──まずは、エルメスとアルバートが息を吸い、詠唱し。


「血統魔法──」「術式再演──」


 彼らの魔法を、告げる。



「「──『天魔の四風(アイオロス)』」」



 瞬間、二人分の魔力によって引き起こされた莫大な風量が渦を巻き、各々の手腕でコントロールされ。

 やがて、するりと。十人を二手に分けて包み込む風の膜と化した。

 同時に風圧によって全員がふわりと浮き上がる。丁度、風でできた球体の中に全員が入っているような認識だ。


 そして。

 ここで、やろうとしていることを大まかに察したライラが問いかける。


「ちょ……まさか、このまま空中を運ぶ気(・・・・・・・・・・)? その風の血統魔法で?

 ……いや無理でしょ、血統魔法はそんなに万能じゃない、いくらあなたたちでも──」


 彼女の言うことは正しい。

 強力な風の血統魔法とは言え、できることには限界がある。風を用いた飛行はその最たるもので、だからこそ『無縫の大鷲(フレースヴェルグ)』が強力無比なのだ。

 いくら『天魔の四風(アイオロス)』と言えど、風の血統魔法だけでは十人分の質量を長時間空中に浮かべるだけでもほぼ無理、ましてや運ぶことなど到底不可能。


 ──風の血統魔法『だけ』ならば。


 故に。

 エルメスは、今の自分の全力で。もう一つの血統魔法を『解放』する。



「──【弾けろ(ミストール・ティナ)】」



 保持(ストック)しておいた、『魔弾の射手(ミストール・ティナ)』を解放。

 彼の最も慣れ親しんだ血統魔法を、最大出力(・・・・)で発生させ。

 それを、『魔弾の射手(ミストール・ティナ)』最大の特徴。『付与』を以て運用する。

 すなわち。



「──強化付与(エンチャント)推進(スラスタ)



『風の球体そのもの』に、魔弾を付与。

 結果、何が起こるかはこの魔法を知るものならば誰もが分かるだろう。

 ……ライラの言っていることは、あながち間違ってもいなかったのである。


「ライラ殿下、ルキウス様、クロノ様。手短に忠告を」

「……待って、まさか」


 故に、いち早く悟ったライラに詳しく説明している時間もないので。

 エルメスは『魔弾の射手(ミストール・ティナ)』の特性を詳しくは知らない人間に向けて。


 恐らくこういう状況では、定番となっているだろうこの言葉を……まさか自分が言うことになるとは、と謎の感慨を覚えつつ告げるのだった。



「──喋らないでください。舌を噛みます」



 瞬間。

 魔弾の持つ圧倒的な推進力が、十人を包み込んだ風の球体に作用し。

 一挙に、劇的に、凄まじい勢いで──


 ──すっ飛んで行った。




「~~~~~~ッ!!?」


 つまるところ、エルメスがよく行う『魔弾の射手(ミストール・ティナ)』を用いた機動強化、それを本人ではなく魔法に適用したものだ。

 そうして生まれた、まさしく空を飛ぶ──ならぬ、空を()んで移動する荒技。

 全身を襲う反対方向の圧力に、ライラが声にならない悲鳴を上げる。


「──はっはぁ! これは面白い、まさか自分が砲弾の真似事をすることになるとは!」

「……いやはや、これはまた」


 一方のルキウスは若干精神年齢が下がった様子で子供のように興奮し、クロノは苦笑いを浮かべて空中を高速で移動する自分たちの様子を若干の呆れと共に見やる。


 そして当然、行き先は秘匿聖堂である以上。

 その様子は、眼下の兵士たち──特に大司教派の兵士たちに見つからないはずもなく。


「な……っ、なんだあれは!?」

「第二王女が居るぞ! つまり教皇派の刺客──くっ、なんて悪魔たちだ! 空を飛ぶなど神をも恐れぬ、まさしくかの魔女と同じ所業、許してはならない!」

「ああ! 遠距離魔法持ち、撃ち落とせぇ!!」


 あまりの移動方法に泡を食うものの、即座に判断を下して撃ち落としにかかってきた。

 多種多様な魔法が地上から襲い来る。その多くは高速移動する彼らにかすりもしないが、それでも数の暴力で何発かは直撃コースを通ってくる。

 そして現状、エルメスはアルバートと共に『天魔の四風(アイオロス)』を用いた軌道制御に手一杯。防ぐ手段はない──が。


「サラ様」

「は、はいっ! 『精霊の帳(テウル・ギア)』……!」


 そこは、サラが圧力に体勢を崩しながらも結界の魔法を発動。流れ弾程度なら容易に防ぎ切る。

 万全を期すならば、同じ魔法を持っているライラにも防御に加わってほしいが……まぁあの様子からすると難しいだろう。現状防ぎきれているしそこも問題はない。


 そして。

 いよいよ、エルメスたちは秘匿聖堂上空に到達。ここまでくると地上からの魔法もほぼ射線がなく、攻撃が収まってくる。

 それを確認すると、エルメスはアルバートと頷き合い。

 そこで──固まっていた十人が、空中でぱっと二つに分かれる。アルバートを含めた四人と、エルメスを含めた六人の二グループに。


 これは、当初の予定通り。エルメスたちで、大司教二人を討伐するためのグループ分け、二手に分かれての迷宮攻略だ。

 迷宮は隘路が予想されている以上、必要以上に固まりすぎるのは逆に危険と判断しての分進。そのプランに従い、エルメスたちはアルバートたちとは逆側、秘匿聖堂の西側へと着地するのだった。



「あなた、覚えてなさいよ……!」


 そうして、一応は予定通り秘匿聖堂にほぼ無傷で到着したエルメスたち。

 そこまでに唯一犠牲になった、第二王女ライラ──の平衡感覚。その後遺症に悩まされる様子でこめかみを抑えながら、ライラが開口一番エルメスに噛み付いた。


「……手段自体に文句はないわ、裏教会正面の守りが予想より固かった以上、別の侵入手段は試す必要があったし、気取られる前にさっさとやっちゃいたかったことも理解できる」

「……」

「……でもねぇ! その前にもう少し声のかけようがあったでしょう! 最低限ここまで高速で移動できるってわかってればまだ心の準備もできたのに!」

「それは、大変申し訳ございません」


 もっともな指摘をするライラに、エルメスは慇懃な謝罪を返す。

 ……その『慇懃』の後に『無礼』をつけても違和感がない態度に見えるのは、気のせいではないだろう。

 それを理解したライラが、半眼でエルメスを睨みつつ告げる。


「……あなた、まさかわざと?」

「はい?」

「私が、あなたの身内に厳しいからわざとそんな態度をとってるんじゃないでしょうね」

「…………いやいや、まさかそんな」


 突入前と寸分違わぬ台詞と、寸分違わぬイントネーションで返すエルメスを見てライラは確信した。──こいつ、わざとだ、と。

 それを見たリリアーナは若干驚き、サラとニィナは納得した。……そう言えばしばらく見なくて忘れていたが、エルメスは身内以外には割とこんな感じだった。


「まぁまぁ」


 そして、謎の緊張感に包まれる一同をまとめるように、もう一人の同行者──クロノが手を叩く。


「ともあれ、秘匿聖堂到着の第一目標は果たした。……割り振りも、問題ないだろう」

「クロノ様──はい、そうですね」


 指摘に、エルメスは頷き。改めて一同を見回す。


 エルメスに同行しているのは、サラ、ニィナ、リリアーナ、ライラ、クロノ。合計六人。

 残る四人であるカティア、アルバート、ユルゲン、ルキウスは向こう側。

 この二グループが、大司教二人を撃破する上での分割である。


 恐らく、初見では色々な点で首を傾げる分割だろう。

 まず、何故五人ずつではなく六体四なのか。戦力分け的にもどうなのか。

 何より……何故、『リリアーナ』が同行しているのか。


 彼女は魔法の特性上、どちらかといえば個人戦力よりも団体戦力──それこそ表を攻めている教皇派の軍隊を強化した方が能力を十全に発揮できるのに、何故かここにいる。その辺りも、違和感を覚える要因だろう。


 順に説明する。

 まず、このような分割になった最大の要因は……端的に言えば、『抑止力』である。


 前提を述べると。

 エルメスたちとライラたちは、厳密には味方ではない。どころか、大司教派を倒したのちはほぼ完全な敵対関係に戻ると言って良い。


 ならば、その前提に加えて。仮にリリアーナがいなかったとして。

 この面子、つまり第三王女派七人に、ライラとクロノという面子で攻略作戦を主導し、もし成功、首尾よく大司教を全員打倒したとしたら。

 その瞬間。迷宮内という、助けの来ない閉鎖空間で。



 ──敵七人の前に(・・・・・・)ライラが単独で(・・・・・・・)放り出される(・・・・・・)のである。



 教皇派は、それを恐れたそうだ。曲がりなりにも教皇派の重要人物であるライラにそこまでの危険は侵させられない。端的に言えば、『討伐が終わった瞬間エルメスたちがライラに危害を加える』ことを恐れたのだ。

 無論、エルメスたちはそんな真似をするつもりはない。とはいえ、その危惧があること自体は理解できる。

 かと言って、ライラを外すことはできない。ライラは教会の内情を深く知る者として、この秘匿聖堂を案内するという唯一無二の役割が存在する。


 ──だからこその、リリアーナだ。

 紛れもなく、第三王女派の最重要人物も同行させることで。加えてクロノも見ている中で、自分たちの心臓を抱えている状態では下手な真似はできないだろうと踏んだため、彼女の同行も条件として突きつけてきたのだ。


 その思惑がある以上、ライラとリリアーナが同じグループになることは確定。加えて現時点では中立のクロノも両陣営が下手な真似をしないように見張る役割があるのでここも確定。

 そして、第三王女派閥としてもリリアーナのいる側に最大戦力を置くのは当然なのでエルメスが確定。あとはリリアーナの護衛に適した人材として、サラとニィナが選ばれたという経緯だ。

 人数比が偏っているのも、こちら側にこういう思惑が働いた故のことである。


 ……当然、そういうしがらみ無しであればもっと適した人員の割り振りはあっただろう。

 だが、実際はそうはならなかった。その辺り、陣営やパワーバランスといったものの難しさを改めて感じる。

 ──でも。


(……関係ない)


 エルメスは、思考を打ち切るようにそう呟く。

 全てが理想的な形でいかないことは、これまで何度も経験してきた。それに……


「大丈夫だよー、エル君。ちゃーんと王女様のナイト役は果たすからさ。まぁ無いとは思うけど、キミがピンチになったとしてもボクがなんとかしてあげる。

 ……だから、安心して前だけ向いててよ」

「は、はいっ! その……背中は、お任せください……!」

「師匠……」


 ニィナは彼女らしく、サラは必死に。

 そしてリリアーナは申し訳なさの中にも、確かな信頼を滲ませて彼を見据えてくる。


 その様子に。エルメスの中にあった微かな不安も吹っ切れて。


「……行きましょうか」


 改めて。前を向いて、そう告げる。

 眼前には、迷宮の入り口。通常の迷宮のような禍々しい魔力は感じないが……その代わりとばかりに、恐ろしく得体の知れない静寂が漂ってくる。



 秘匿聖堂。

 教会の、闇の闇。かつてユルゲンが言っていたように、途轍もないものが隠されている可能性も、それがエルメスたちの前に現れることもあるだろう。


 鬼が出るか、蛇が出るか。

 分からないが──それでも、その全てを打倒するだけだと確かな自負を持ち。

 エルメスは、敵と味方と、謎の人物を伴って。

 波乱の予兆を含んだ一団が、波乱必死の迷宮攻略作戦に向けて。今回の敵の本拠地へと、足を踏み入れたのだった。

次回から、いよいよ討伐戦開始です。どんどん話を動かしていくのでお楽しみに!


引き続き、2巻に関する告知です!

「創成魔法」書籍2巻発売の3月25日、いよいよ明後日です。

早い所ではもう並んでいるみたいですね……!

そして今回は活動報告にて、2巻の挿絵一点公開、及び立ち読みと加筆内容について触れております。

web読者さんも満足できる加筆にさせて頂いたので、是非見て&お買い求め頂きますと嬉しいです!

それでは引き続き、「創成魔法の再現者」をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鬼も蛇もたくさんでてきそう⋯。
[良い点] 味方が頼もしくなってきましたね [気になる点] お兄さん… [一言] 身内に厳しい人には厳しい× 身内以外には興味が薄い○
[一言] 自らを人間砲弾にして飛び込むとはよもやよもやだ
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