70話 討伐作戦
「……じゃあ、改めて。状況を確認するわね」
中立貴族派との話が済んだ翌日。
早速、大司教派討伐作戦の詳細を詰めるべく、一同は大聖堂内の会議室に集められていた。
集まった全員を見渡し、会議を進行するのは、第二王女ライラ。彼女はどこか不機嫌そうながらも、しっかりとエルメスたちにやってもらう作戦の説明自体は行うべく口を開く。
「まず、今回倒すべき相手である大司教たちについて。……奴らは現在、大聖堂ではないもう一つの拠点に引きこもる形で集結しているわ」
「拠点、ですか」
「ええ。……ただ、勿論正式な拠点としては不完全よ。だからこそ大司教ヨハンが別の、しっかりと交通や補給のルートも整備された拠点を北部に作り上げようとしたのだしね」
そして、だからこそ──
「その目論見を、あなたたちが外してくれたおかげで。……大司教派は、現在追い詰められている」
彼らが生み出したあの勝利の、想定以上の価値を。ライラが語る。
「向こうは現状、手勢と共にその『拠点』に引きこもっている。でも、言った通り補給のルートはなく立地も最悪。既にほとんどの手勢を集め切っているし、既に私たちの勢力で包囲もかけているから、外部からの救援は望めないわ」
「……聞いている限りだと、それは僕たちが手を貸すまでもなく詰んでいるのでは?」
「その通りよ。補給がない以上、こっちは向こうが干からびるのを待つだけでいい。実のところ、このまま包囲を続けていれば大司教派は瓦解する──」
エルメスの率直な疑問を、ライラは肯定した上で。
端的に、それでも助力を求める理由を告げる。
「──時間が無限にあるなら、ね」
「……なるほど」
「へぇ、もう分かるの……話が早いのは助かるけど、面白くはないわね」
言わんとするところを、それでエルメスも完璧に理解した。
ライラはそんなエルメスの様子に、若干不機嫌さを増しつつ。それでも説明自体は端的に、要点をまとめて続けてくる。
「多分、そっちの思っている通り。仮に兵糧攻めをするとしても、物資も相応に貯蓄を持っているだろうから、向こうの息切れを待っていたら月単位の時間がかかるわ。そして──」
「──その間に。第一王子派……ひいては『組織』が、何をして来るか分からない」
「そういうこと」
二人の会話を聞いて、リリアーナたち他の一同も納得の頷きを見せた。
そう。自分たち……そして恐らくライラたちも、最終的な目標は王都奪還にある。そして当然、王都を占領している第一王子派がこの状況で何も手を打ってこないと考えるのはあまりに楽観が過ぎるだろう。
最悪の場合、その『拠点』とやらを包囲している側に攻撃をかけ、一時的に大司教派を解放して自分たちと潰し合わせる……くらいのことは目論んでくるかもしれない。そのリスクは、討伐作戦が長引けば長引くほど跳ね上がる。
結論を言うと──ここにいる人間は全員、『大司教だけに時間をかけてはいられない』のである。
故に望むのは短期決戦、というわけだ。
「厄介なことに、連中の『拠点』は立地こそ悪いものの拠点としての防御性能は極めて高いのよ。だから今までは、攻勢をかけようにも戦力が足りなかった。
──でも、今はあなたたちがいる」
そこまで聞けば、今回自分たちに何が求められているかは大凡見当がつく。
「つまり、僕たちがやるべきことは……」
「ええ」
エルメスの推測を肯定する様子で、ライラが頷いて。
その内容を、告げた。
「あなたたちに求めるのは、少数精鋭による拠点への侵入、および大司教たちの討伐。
要は──忍び込んで向こうの頭を全員潰して頂戴、ってこと」
……言うまでもなく。
危険度は間違いなく極大。向こうの拠点、向こうに極めて有利だろう向こうのホームで、立場上……そしてひょっとすると力量の上でもかのヨハンと同格かもしれない大司教を叩く。
だが、それができれば即座に大司教派を潰すことができ、その分早く王都奪還の作戦にリソースを割ける。
加えて、協力の見返り。今後手を組むべき中立貴族派の窓口であるクロノ──この会議にも出席している彼からも、かなり前向きな返答を貰っている。
つまり……協力に足る義理も、見返りも、十分にある。
できる、と言えるだけの自負も、今の自分たちにはある。
第三王女派の全員がその認識を共有するのを見計らって、ライラが続けた。
「討伐して欲しいのは、残る三人。大司教グレゴリオ、大司教ニコラ、大司教ヴァレン。
そのうち──一人は、中立貴族派が引き受けてくれることでいいのよね?」
「ええ。父の懐刀、精鋭の魔法使いを向かわせるそうです」
話を向けられたクロノは、変わらず穏やかな表情でそう語る。
「我々は、特定の王族には仕えないが『王家』には忠誠を誓う。大司教派は、既に王家を見限りました。である以上──国難として、我々も容赦はいたしません」
静かながら底知れぬ響きに一同が緊張するも……ともあれ、三人の大司教のうち一人は中立貴族派の精鋭──恐らくはクロノのように表に出てこなかった強力な魔法使いが引き受けてくれるという認識で良いだろう。
ということは……
「だから、第三王女派に引き受けてもらいたいのは残り二人」
エルメスの予想通り、ライラが語る。
第三王女派。エルメス、カティア、サラ、アルバート、ユルゲン、リリアーナ、ニィナ……あとは、近日北部連合軍も討伐作戦に参加する手筈になっているのでルキウスも含まれるか。リリアーナは怪しいが、それらの『個として強大な魔法使い』たちを残る二人の大司教にぶつける。
クロノも含めれば、大司教一人につき約四人。人数や向こうのホームであることを考えれば妥当な割合か。
加えて、各々の大司教は強大だが癖も強く、それ故に大司教同士で連携を取る、ということはまずないとのことだ。
向こうを混乱させること、一網打尽を防ぐ意味でも──それぞれの大司教攻略班は、別々の行動をすることでまとまった。
「班の割り振りについては、ここから決めるとして……現時点で、何か質問はある?」
そして、一通り話し終えたと思ったのか、ライラはそこで話を区切って問いかけてきた。
だが、エルメスは分かっている。
ライラがここまで、意図的に『とある情報』を伏せていたということを。
更に言えば、彼女の性格上──その伏せていた情報の中に、とびきりのものが含まれているということも。
恐らく、最後にそれを明かしてこちらを動揺させることが狙いなのだろう。
よって、それについて質問することを誘導されていると理解しつつ、エルメスは口を開く。それは、
「……向こうの『拠点』がどこの何か」
「ええ」
「ライラ殿下は、その情報だけ意図的に伏せましたね。どういうことか教えていただく──前に」
──だが。
向こうの思惑が通ったまま会議を進めるのもよろしくないので。
「その『拠点』について多少の推測が立ったので、お聞きいただいてもよろしいでしょうか」
「っ!」
恐らくライラが隠していただろうとびきりの情報を……話の中であらかじめエルメスは推理していた。
それを、ここで開示する。
「まず、その拠点は立地が極めて悪く、補給経路の確保が困難とのこと。つまり人里離れたところであると推測されます」
「……」
「加えて、それでいて『拠点としての防御性能は極めて高い』と仰りましたね。しかしこれはどうにもおかしい。そこまで人里離れた人通りも無い場所ならば、わざわざ手間をかけて堅固な砦を建築する意義が薄い。移動コストも馬鹿にはならないでしょうしね」
だが、ここで思い返す。
ライラはここまで一言も──『拠点』が砦であるとは言っていない。
加えて、彼女の妙な口ぶり。そして彼自身の経験から……正直思い至った今でも信じがたい、けれど辻褄は合う、一つの結論を導き出す。
「だから、殿下の仰る『拠点』の正体は──」
人里離れた場所にあり、かつ防御拠点としてうってつけなもの。
その条件に合致する建造物を、彼は……否、この国の全員がよく知っている。
それは。
「──『迷宮』なのではないですか?」
『──ッ!!』
その場のほぼ全員が、瞠目した。
だが、それならば条件に合う上に矛盾も無い。
何故なら、迷宮はどこからともなく現れる異形の建造物。
『魔物の拠点』としての印象が強いかも知れないが……そもそも『迷宮』と『魔物』に直接の相関はない。たまたま、迷宮の立地や構造が魔物の拠点として都合が良いため偶然魔物がそこに棲みつくことが多いだけ、なのである。
よって、そこに棲みつく魔物を駆逐して。他の魔物が入らないように気をつけていれば、迷宮を魔物以外の存在が拠点運用することは不可能ではない。
しかし、そうと理屈は分かっていても。有用だと理解はしていても。
魔物の巣窟と世間では信じられている迷宮を、あろうことか『人間の拠点』として使用する──しかも、そういう観念的な矛盾を何よりも嫌うだろう教会の人間が。
俄には、信じがたいことである。
……改めて、教会の闇とも言えるものを垣間見る中。
エルメスの推理を聞かされた第二王女ライラは──
「……あなた、本っ当に可愛くないわね」
どことなく忌々しそうに、まさしく思惑を外された顔でエルメスを見据えてくる。
その表情が何よりも、図星であることを物語っていた。
しばしそのままエルメスを睨みつけていたライラだったが……やがて、諦めたように肩をすくめると、気を取り直した表情で告げる。
「……はぁ。ま、いっか。
ご明察。大司教派が現在立てこもっている『拠点』は、迷宮の中にある──というより、改造した迷宮がそのまま拠点になっている、というべきかしら」
「……改造?」
「そうよ? ああ、言っておくけれどその拠点は即席のものではないわ……むしろ、教会の中でも随一の歴史を持つ建物と言って良いわね」
その情報には、さしものエルメスも驚きを隠せず。
「じゃあ、改めて。種明かしといきましょうか」
そんな一同を前に、薄笑みと共に。
「今回あなたたちが、大司教討伐のために向かって……『攻略』してもらうのは、迷宮が改造された建造物。教会の中でも限られた人間しか知らない、教会のあらゆる資料、魔道具、秘密物資を保管する教会最大の火薬箱」
「……」
「正式名称は、改造迷宮:秘匿聖堂。けれど口さがのないものは、こう呼ぶわ──」
ライラは、どこか自嘲気味に。その名前を口にした。
「──教会『裏本部』、とね」
その、言葉を皮切りにして。
想像以上に、教会の闇に触れることになるであろう。
大司教討伐作戦、かつ──迷宮攻略作戦が、始まろうとしていた。
次回より、絶対にやばいものがたくさん出てくる大司教討伐戦、開幕です。お楽しみに!
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