64話 教会の内情
──教会を滅ぼす、とは。
また、随分大仰な話だ。
しかし疑問もある。それを率直に、まずエルメスが口に出した。
「教会は、現在分裂しているんですよね? なのに『滅ぼす』とはどういうことでしょう?」
「あら、トラーキアから聞いてないの? ……面倒だけどまぁ丁度良いわ、説明しましょうか」
対してライラは、一瞬眉根を寄せたものの大人しく口を開き。
そこから、解説を始めてきた。──教会の、権力構造について。
「……まず、大前提としてこれは知っておきなさい。
教会は元々ね──教皇と大司教の仲がすごく悪いの」
ある種驚きの、始まりと共に。
「!」
「言っておくけれど、今代だけ、というわけではないわ。代々──これは適当ではないわね。
最初から……『教皇』という役職ができてからずっとよ」
「……できてから?」
またも、驚きの情報。ライラの言葉が意味するところは、つまり。
「教皇という役職は……元々は無かった、ということですか?」
「ええ、百年ほど前まではそうだった。教会のトップは元々は……四人の大司教だったのよ」
『教会』という組織の歴史は、恐ろしく古い。
国の創成期から、国の創成に関わった『血統魔法』を管理する組織として発足し。頂点である四人の大司教による合議制で運営されていた。
その歴史の分だけ、権力、権威も極めて高く。大司教の決定は国全土に響き渡るほどの凄まじいものであり。
──王族ですら、時にはそれに逆らえなかった。
故に、約百年前のある時。
教会による権威の増大により、王家とのパワーバランスが崩れかねないと危惧した当時の国王が、それを調整するべく大事業を開始した。
そうしてできたのが、『教皇』という役職だ。
立場は当然大司教よりも上。加えて任命権は教会ではなく王家が保持し、慣例と実益を兼ねて国王の親類縁者をその役職に据えた。当然、立場に相応しい決定権と拒否権も所持している。
──つまり、明確に。『王家の方が上』と立場を明らかにするための役職だ。
そんなもの、当時の大司教たちにとっては当然受け入れられないものだったはずだが……それでも通せてしまえるあたり、当時の国王は相当の傑物だったのだろう。
ともあれ、このようにして教皇の役職は誕生した。
そして勿論、そんな立場の人間に大司教たちが好感を抱く訳もなく。それ以降──ある代では教皇と大司教の間で小競り合いが起きたり、ある代では大司教が教皇を傀儡にしたり、ある代ではその逆であったり。
共通することは……仲良く手を取り合っていた期間は、そうでない期間よりも圧倒的に短いということだけだろう。
「……なるほど。それは確かに、仲が悪くないわけがないですね」
「でしょう?」
納得の頷きを、エルメスをはじめとした第三王女派の面々が返す。
加えて──その教会の権力構造を考慮に入れれば、その後の経緯も大まかな流れが見えてくる。
ライラが口を開いた。
「──そんな折に、今回の政権簒奪よ」
「……ええ」
そう。そのような経緯がある教会の大司教たちは……当然王家に良い印象は抱いていないだろう。
そんな折に、政権簒奪──王家のいざこざ、権力構造の揺らぎが起こってしまったとしたら。
──これに乗じて、教皇の廃絶……ひいては王国の完全支配のために。動いたとしても、おかしくはない。
「……そういう経緯でしたか」
ここまで言われれば、大体の状況は推測がつく。
「思っている通りよ。──王都の混乱の影響で、これまで辛うじて協力体制を維持できていた今代の教皇と大司教が完全に決別。本部はこっちが抑えたけど、影響力は向こうの方が上だから、教会の人員……特に有力者の多くは向こうに流れて」
大凡推測通りの流れを、第二王女ライラは告げた後。
一つ息をついてから──心持ち、声を強くして。
「結果。失った教会本部の代わりに、新たな土地としての拠点を作るべく──
──大司教ヨハンが、北部の完全支配に乗り出したのよ」
「……っ!」
……そこで、繋がるのか。
この情報には、第三王女派の多くも息を呑んだ。
そして。
結果的とはいえ、その情報を考慮に入れるならば……自分たちは大司教ヨハンの目論見……まず間違いなく大司教派の要の策を完璧に潰したことになり。
「大司教派は、今追い詰められているわ」
それにより、激変した状況をライラが語る。
「正直、現時点ではこちらが不利だったからとても助かった。……勿論、逆転の手は用意していたけれど──この好機を逃す手はない。だから」
そうして最後に、改めて。
「──手を、組みましょう。一緒に……どうあれ私たちにとって共通で邪魔になる、旧い教会の権化を。この機会に一掃しない?」
彼女の要望を、告げてきたのだった。
「…………」
第三王女派に、しばしの沈黙が満ちた後。
「……いくつか、確認させていただきたい。第二王女殿下」
「どうぞ」
流石に、ここは子供たちに任せるわけにはいかないと判断したか。
ユルゲンが問いかける。ライラが頷いたのを確認すると、彼が続けて。
「そちらの要望は分かりました。こちらにとっても目的上、『教会』はいずれ倒さなければならない相手なのも間違いない。──ですが」
高い叡智を宿す碧眼に……冷たさすら宿して問いかけた。
「……『そちらに協力する必要』は、今のところありませんね。
現状は、あなた方と大司教たちの共倒れを眺めている方がこちらには得だ」
「──!」
「ちょっと、ユルゲン──!」
あまりにも、冷徹な判断に。
思わずリリアーナが声を上げるが……すぐに黙り込む。
即座に彼女も気付いたのだろう。……ここは、身内の情を持ち込む場面ではないのだと。
リリアーナがそう理解してくれたことに対してか軽く笑みを返しつつ、ユルゲンはライラに向き直る。
「こちらの最終目的は、王都の奪還だ。あなた方が教会内で内輪揉めをしているということであればむしろ好都合。そちらを放って奪還のための戦力集めをする方が得で──」
「──じゃあ、その『戦力集め』も手伝って上げるとしたら?」
──しかし。
その反論も分かっているとばかりに、彼女は返し。
「……ほう?」
「知ってるわよ、私たちがそっちに協力して貰う立場だってことは。なら相応の手土産も用意するのが当然じゃない。
……あなた達が奪還の戦力として当てにしてるのは、中立貴族でしょう?」
最後の『条件』を、突きつけてきた。
「──その『中立貴族』も、この旧教会派討伐戦に参加するわ」
「え──」「!」
「……、なるほど」
リリアーナ達が驚く……が、ユルゲンは対照的に納得の表情を見せた。
どうやら、心当たりがあるようで。その反応の違いを見て取ったライラが告げる。
「トラーキアは分かったみたいね。そうよ、中立貴族……というよりそのまとめ役の家は、代々特定の王族に協力したことはまずなかった。
──でも、『王家』そのものには忠誠を誓っているし、貴族の責務として国難にはきちんと対応している。ただの日和見主義じゃないのよ、あの家は」
つまり、それは。
「彼らも、王家を公然と敵に回した大司教派を放ってはおかない。紛れもない『国難』だと判断して、討伐戦への協力を既にこちらが取り付けているわ」
……当然だが。
エルメス達がヨハンとやり合っていた期間は決して短くはない。その間、他陣営も今回の件に対して大きく動きを見せていたのだ。
それを理解した上で、ユルゲンが問いかける。
「……つまり」
「ええ。勿論協力してくれたらになるけれど……こちらで、中立貴族との渡りもつけてあげるわ」
「──」
「討伐戦後、私たちは敵同士になるけれど。それ以外には、手を出さないとも約束しましょう」
つまり……今回向こうが持ちかけてきた『取引』の内容をまとめると。
こちらが差し出すものは、大司教派討伐戦への協力。
向こうから引き受けるものは、その間は第二王女派と敵対しないことと、加えてこちらが欲する戦力への道の一つである『中立貴族』との道。
しばし、第三王女派の全員が考える。
そして──エルメスとユルゲンが、視線を交換。互いの考えが同じであることを確認して、リリアーナに目配せ。
その上で……リリアーナが。姉に向けた複雑な想いを見せつつも……それでも第三王女として、こう告げる。
「……考える時間を、くださいまし」
妥当な要請に、ライラはそれも予想通りとばかりに頷いて。
「すぐに決められることはないから、当然ね。でも、期限は明日まで。こっちも今急ピッチで総攻撃の用意を整えているところだから、それ以上は待てないわ。
……それと、その前に」
きっちりと期日は決めた後……最後に。
「もう一つの判断材料として、これから会ってもらうわ。
今代の『教皇』であり、現ユースティア王国の第二妃」
ここまでの話をした以上、当然の要望を。
しかし、もう一つの驚きと共に、告げてきたのだった。
「──つまり、私のお母様。
既に謁見の用意は整ってるから……ついてきなさい」
教皇の正体に、中立貴族。
続々と教会編キーキャラクターが揃いつつ、次回謁見です。お楽しみに!
創成魔法1巻、現在発売中です!
既に売り切れらしき店舗もあるみたいで大変ありがたいです……!
まだの方は、画面下部画像リンクから作品ページに飛べますので是非!
立ち読みも出来ますので!
本日で連続更新はいったん終了しますが、これからも毎週水、土曜更新は
続けていくつもりなので、是非この先も読んでいただけると嬉しいです!
それでは今後も『創成魔法の再現者』をよろしくお願い致します!




