カカカッと撃ち出された弾丸が
カカカッと撃ち出された弾丸が、不可視の防御壁を潜り抜け胸元に当たる。
火炎トカゲは痛みに身体をよじりながらも、反撃とばかりに火を吐いた。
しかし、苦し紛れの攻撃だ。
男はバックステップで射程外まで離れると、ここぞとばかりに引き金を引く。
バリヤーを張っているのは火炎トカゲ、生物である。
タフな魔獣といっても、そのスタミナは有限。
ダメージを受ければ、防御力は下がる。しかも大技を使えば尚更だ。
十発を超える弾丸が命中した。ひとつひとつの威力は小さい。
数センチ肉を抉る程度だ。
だが、傷が累積していくと。
胸元に次々と炸裂した弾丸によって、拳ほどの肉が吹き飛んだ。
それだけではない。手足や腹にも、幾つもの弾痕ができている。
正に満身創痍だ。
「教官、もういいじゃないですか」
リーダーが目を背けつつ訴えるが。
「何言ってんの。生きてる的なんて、滅多にないのよ。
資源は有効活用しないと、もったいないじゃん」
「でも、でも、こんなの酷いですよ。可愛そうですよ」
「変な感情移入しないの。
こっちの世界は弱肉強食よ。恨むなら自分の弱さ。
まあ、運のないところには同情するけどね。ま、それももう終わりよ」
既に火炎トカゲに防御壁を張る力はないようだ。
弾は次々と肉を削いでいく。
「もう、余裕ですよ。コツもバッチリ掴めました。これなら」
弾丸が宙で弾けた。
三人が思わず声を失う。
後ろで守られていた小さな個体が、飛び出してきたからだ。
力なく崩れ落ちる一匹を庇うように、五十センチにも満たない身体を精一杯大きく見せて吠える。
教官の女性は指示を求める三人の視線を感じつつ。
「こういうのはマジやりにくいね」
大仰に溜め息をついてから。
「フォワード、排除して」
「俺っすか?」
「ただし、一発で仕留めないとクビだから」
「待ってください! あんな小さい子なのに!」
「復唱!」
「了解っす。やります」
カタナを上段に構え、ジリジリと距離を詰めた。
* * *
「ふたり共、よくやったわ。ミッションクリア、加点しておくわね」
できるだけ明るく告げた。
ふたりの返事に潜む重さを無視して、あくまで気楽に続ける。
「元素結晶も十五万にはなるわね」
鶏卵大の結晶がひとつに、ビー玉ほどのが五つ。
あとは指先くらいの破片が十数個。大物に比べると、貧相なものだが。
「じゃあ、もうひとつの大切なこと、教えておくわね」
スーツの腹部に備え付けられた収納ポケットから、結晶回収用の巾着袋を取り出しながら。
「さっきみたいな小型の個体は、正式な獲物として認められない。
だから、そこから得られた結晶は会社に納める必要はないってことよね」
意味が理解できず、三人が視線を交わし合う。
「じゃあ、その結晶は?」
尋ねるフォローの男に。
「誰の物でもないんだから、もらっちゃえばいいの」
事もなげに言い切った。
「みんなで分けたら、三万五千くらいね。いいお小遣いでしょ」
思わぬ発言に男ふたりは「をを」と、喜びの声を漏らすが。
「待ってください! それって横領じゃないですか!」
「バレなきゃ問題ないの」
リーダーの反応は想定内だったのだろう。実に落ち着いた様子で続ける。
「薄々気付いてたんでしょ。何かカラクリがあるって」
「そ、それは、でも、ちゃんとした手当があるのかと」