どう、見えた?
「どう、見えた?」
教官の問いに、「はい。なんとなくですが」
「見えたような、気がしないでも」
「俺にはよく解らないっす」、リーダー、フォロー、フォワードがそれぞれ答えた。
「気がするじゃダメよ。フォローってのは見えて当然だからね。はい」
小銃を返して。
「やってみて。できなかったらクビよ」
「クビって、そんな。アレですよね」
銃を受け取りながら、探りを入れてみるが。
何の反応もないのに意思を悟ったらしい。
銃を構えて、慎重に狙いを付ける。
一呼吸落ち着けてからの射撃。三発の弾丸は、しかし宙で弾けてしまう。
「なんでだよ!」
先程の弾道を寸分違わずなぞったはずだった。
「バリヤーは動く、当たり前じゃん。
あんただって、殴られそうになったら、ガードするでしょ」
「でも、それじゃあ」
「ただ、素早くは動かせない。
感覚的には凄い重い板を、振り回すようなもんらしいの。だから」
「隙間が見つかったら、何発かは当たる」
「そういうこと。じゃあ、十分以内に仕留めて。できなかったら」
「解ってます。やります」
教官が軽く頷く。
(さて、スイッチ入ったかな。できなきゃマジでクビだけどね)
このまま落ちこぼれていくよりは、別の人生を歩く方が絶対にいい。
(ずるずるいくのは惨めだからね)
先輩、同僚、後輩。そういう連中を山ほど見てきた。
自分自身、それほど優秀ではないが……。
「教官、待ってください。仕留めるというのは、どういう意味でしょうか?」
強張った声でリーダーの女性が聞いてきた。
「その質問に答える意義ある? 解ってるんでしょ」
「教官、成体の七割未満である個体への殺傷行動は」
「非常時を除いて禁止されている、でしょ。はい、手を止めない。クビにするよ」
銃を下ろそうとしたフォローへの注意を挟んでから。
「確かに法律ではね。で、違反者への罰則は?」
「罰則は……。罰則はありません」
「だよね。じゃあ、ただの努力目標ってことでしょ。そんなの真面目にやってどうすんのよ」
「でも、あ、ですが」
「そもそも、その法律自体が古いでしょ。
元素生物も普通に成長していくはず、って前提だった頃のじゃない。
さっきも言ったけど、個体の成長は確認されてない。
つまり保護する根拠はない」
明確な反論に二の句が継げなかった。
「しかも元素生物の個体数は年々増加傾向にあるらしいしね。
ま、ここで私達が見逃しても、誰かが狩るだけよ」
それは暗黙の了解になっていた。
俯くリーダーの肩に優しく手を置いて。
「ぶっちゃけ、モラルとか道徳とかなら、あんたが正解よ。私が間違ってる。
ただ全員が間違っている中で、不利な正解を頑なに貫くってのが、どういうことなのか。
考えてみなさい。もう学生じゃないんだから。
大人として汚い部分も許容していけないと、人生ハードモードになるだけよ」
「でも」
綺麗事を好む性格で、損をした事なんて数え切れない。
それでも潔癖な性分は変えられない。
「今回は教官である私の命令よ。あんたは上官の命令に反抗するの?」
リーダーは息を飲む。それは明確な違反だ。
慌てて踵を合わせ敬礼。
「ノー、マム。失礼しました」
「誰がマムだっての。こちとら華の独身、魅力溢れる二十五の乙女よ」
最後に冗談を付加して、会話を畳んだ。
今は逃げ道を作っておけばいい。
いずれは自分で折り合いを付けるだろう。
「さて、こっちの補習は終わりとして」
フォローに注意を戻す。僅か数分の間に状況は大きく変化していた。




