表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

どう、見えた?

「どう、見えた?」


 教官の問いに、「はい。なんとなくですが」

「見えたような、気がしないでも」

「俺にはよく解らないっす」、リーダー、フォロー、フォワードがそれぞれ答えた。

「気がするじゃダメよ。フォローってのは見えて当然だからね。はい」

 小銃を返して。


「やってみて。できなかったらクビよ」

「クビって、そんな。アレですよね」


 銃を受け取りながら、探りを入れてみるが。


 何の反応もないのに意思を悟ったらしい。

 銃を構えて、慎重に狙いを付ける。

 一呼吸落ち着けてからの射撃。三発の弾丸は、しかし宙で弾けてしまう。


「なんでだよ!」 

 先程の弾道を寸分違わずなぞったはずだった。


「バリヤーは動く、当たり前じゃん。

 あんただって、殴られそうになったら、ガードするでしょ」

「でも、それじゃあ」

「ただ、素早くは動かせない。

 感覚的には凄い重い板を、振り回すようなもんらしいの。だから」

「隙間が見つかったら、何発かは当たる」

「そういうこと。じゃあ、十分以内に仕留めて。できなかったら」

「解ってます。やります」


 教官が軽く頷く。


(さて、スイッチ入ったかな。できなきゃマジでクビだけどね)

 このまま落ちこぼれていくよりは、別の人生を歩く方が絶対にいい。


(ずるずるいくのは惨めだからね)


 先輩、同僚、後輩。そういう連中を山ほど見てきた。

 自分自身、それほど優秀ではないが……。


「教官、待ってください。仕留めるというのは、どういう意味でしょうか?」

 強張った声でリーダーの女性が聞いてきた。


「その質問に答える意義ある? 解ってるんでしょ」

「教官、成体の七割未満である個体への殺傷行動は」

「非常時を除いて禁止されている、でしょ。はい、手を止めない。クビにするよ」

 銃を下ろそうとしたフォローへの注意を挟んでから。


「確かに法律ではね。で、違反者への罰則は?」

「罰則は……。罰則はありません」

「だよね。じゃあ、ただの努力目標ってことでしょ。そんなの真面目にやってどうすんのよ」

「でも、あ、ですが」

「そもそも、その法律自体が古いでしょ。

 元素生物も普通に成長していくはず、って前提だった頃のじゃない。

 さっきも言ったけど、個体の成長は確認されてない。

 つまり保護する根拠はない」


 明確な反論に二の句が継げなかった。


「しかも元素生物の個体数は年々増加傾向にあるらしいしね。

 ま、ここで私達が見逃しても、誰かが狩るだけよ」

 それは暗黙の了解になっていた。


 俯くリーダーの肩に優しく手を置いて。

 

「ぶっちゃけ、モラルとか道徳とかなら、あんたが正解よ。私が間違ってる。

 ただ全員が間違っている中で、不利な正解を頑なに貫くってのが、どういうことなのか。

 考えてみなさい。もう学生じゃないんだから。

 大人として汚い部分も許容していけないと、人生ハードモードになるだけよ」

「でも」


 綺麗事を好む性格で、損をした事なんて数え切れない。

 それでも潔癖な性分は変えられない。


「今回は教官である私の命令よ。あんたは上官の命令に反抗するの?」


 リーダーは息を飲む。それは明確な違反だ。

 慌てて踵を合わせ敬礼。


「ノー、マム。失礼しました」

「誰がマムだっての。こちとら華の独身、魅力溢れる二十五の乙女よ」


 最後に冗談を付加して、会話を畳んだ。

 今は逃げ道を作っておけばいい。

 いずれは自分で折り合いを付けるだろう。


「さて、こっちの補習は終わりとして」

 フォローに注意を戻す。僅か数分の間に状況は大きく変化していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ