よし、これで研修は終了
「よし、これで研修は終了だけど、今からふたつ教えておいてあげる。
教科書には載ってないけど、心豊かに生活するためには大切なことだから」
宣言に三人が視線を交換し合う。
その戸惑いを無視して。
「元素結晶の量はランクで大体決まるってのは、教えたわね。
でも、時々想定より多い個体が存在するの」
「今回のようにでしょうか?」
「そう。そういう個体にはオマケがあるの。銃貸して」
フォローの男性から小銃を受け取ると、近くの岩に発砲する。
最小限まで威力を絞った弾丸が、岩肌に跳ねて氷の粒を飛ばした。
直ぐ様、横の岩を狙う。同じく氷片が爆ぜた。
教官は視界内の岩を次々と撃っていく。
真意が測れず、三人が首を傾げた時だ。
弾を受けた岩のひとつが、小さく震えた。
直後、岩が赤に変わる。火炎トカゲだ。
丸めていた身体を大きく伸ばし、威嚇の唸りを上げた。
先程屠った個体に比べると、半分にも満たない。体高八十センチ弱。
それでも怯む事なく、四人を睨み付ける。
その闘志の理由は直ぐに解った。
背後。まるで庇うように、ふた回り小さな一匹がいる。
「はい、見ての通り。小型の個体を同伴しているってわけ」
「親子連れ?」
「さあ? 元素生物ってのは、どうやって増えてるのか、どうやって成長するのか。
謎に包まれているからね」
元素世界は過酷な死の世界だ。
魔法の守りがなければ、人間なんてあっという間に絶命する。
今の彼らも魔法で保護されているから、こうして行動できているのだ。
そう、彼らのスーツ内は水と風の元素力で満たされ、高温と酸欠を防いでいた。
しかし、それも万全無比な守りではない。
二十時間を超える着用は、大きな負担となり、最悪命の危険がある。
また、元素生物の多くは、自分達の属する元素世界以外からの物体を攻撃する習性を持つ。
その為、元素生物の生態については、調査研究は進んでいない。殆ど不明だ。
「個体の大きさは不変って説もあるからね。さてと」
フォローの男に視線を移した。
「ちょいと補習ね。あんたは銃の使い方がなっちゃいない」
いきなりのダメ出しに男は面食らう。
「自信過剰に粋がるのもいいけど。そんな腕じゃ、数年でクビだね」
「そ、そんな。でも、俺は」
「元素生物は魔法に対するバリアーを持ってる。
それを超えないとダメージは与えられない。じゃあ、どうすればいい?」
「それは……。威力と数です。
より強い魔法で威力を上げた弾丸と、数を集中して」
「そりゃ正解だね。
で、あんたは火炎トカゲ一匹仕留めるのに、どんだけコストを掛ける気なの?」
ぐうの音も出なかった。
黙り込んだ男に置いて、銃を構えた。
威力は同じく最低、モードを三点射撃に切り替える。
ワントリガーで、三発の弾丸が飛ぶ設定だ。
火炎トカゲに向かって引き金を引いた。
弾丸は不可視の壁に阻まれて氷の粒を散らす。
更に撃つ。
一回、二回、三回。威力も数も全く不足。
無意味としか思えない攻撃に、見ている三人が訝しがり掛けるが。
弾丸が左の後ろ足に当たったのだ。
豆粒ほどではあるが肉が抉れ、赤い蒸気が上がった。
火炎トカゲが呻きながら身動ぎする。
次の射撃は二発当たった。今度は首元に傷を作る。
「見ての通り。威力も数もいらない」
息を飲んでいる三人を振り返った。
「こいつらのバリアーは空中に板きれが浮いてるようなもん。
Bランクまでなら、隙間を狙えば当たる」
「でも、隙間なんて見えねえし」
「破片。弾かれた破片の広がり方、ですか?」
(流石は優等生ちゃん、ますます育てたくなるよ)
「そう、よく見てよ。破片も魔法の一部、バリヤーに当たると微妙に流れが変わる」
数発撃つ。
今度はバリヤーの端っこであろう、解りやすいところを狙った。