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ハント中の会話は全て

 ハント中の会話は全て記録しなければならない。

 逆に言えば、録音を止めた時点でハントは終了となる。

 

「あの、教官。今日はこれで……」

「いやぁ、疲れた疲れた。明日は休みだよね。遊びに行かない?」

 

 フォローの男性がリーダーに気楽な声を掛けた。

 

「明後日も休みだし、ゆっくり過ごせるし」

 馴れ馴れしく肩に伸ばしてくる手を払いながら。

 

「あの、彼氏いるんで」

「俺だって彼女いるから大丈夫だって。そういうのは割り切って、純粋に楽しもうってだけ」


 その言い分に教官は大きく溜め息をこぼした。

 

 お堅く真面目な彼女がメットの中で、嫌悪感満載の凄い表情をしてるのが容易に想像できたからだ。

 

 聞くところによると、この男は社内の若い子に手当たり次第らしい。

 阿呆だと思う一方で、解らなくもないとも感じる。

 

 爽やか系のイケメン顔で、よい学校を卒業。

 こうして一流企業の有望株として扱われている。

 勝ち組気分にもなるだろうし、打算的な女にモテるだろう。だが。


(お前程度の腕だと、三年後には終わってるけどな)

 

 厳しい仕事だ。

 このままのお粗末な技量では、下位企業への無期限出向か、リストラ対象になるのは確実。


(まあ、化ける可能性もゼロじゃないけど)

 ぶっちゃけ、オッズの低い賭けだろう。

 

「色々と経験した方が彼氏も喜ぶって」

 なおも粘る。

 そろそろ止めるべきかと、教官が割り込もうとしたところで。


「それくらいにしとけよ」 

 フォワードの男が声を上げた。

 

「お前、ちょっと噂になってるぞ。上に目付けられると面倒になるからな」

「エリート候補になると女が放っておかないんだよ」

 

 笑えない冗談を挟みつつだが諦めたらしい。

 

「遊ぶのもいいけど、少しは節操ってのを持てよ」

(あらまあ。お前も似たようなもんだろうに。どの口で言えるかね)

 呆れるしかない。

 

 フォローの男とは対象的に目鼻立ちのくっきりと、しかもかなり恵まれた顔立ちをしている。違うベクトルでモテるタイプだ。

 だが、彼の言う節操のお陰か。評判も悪くない。

 ただ、それは社内での話だけ。外では随分と遊んでいる様子。

 

(会社に苦情きてるからな。

 今は期待の新人ってことで、大目に見てもらってるけど)


 剣技は優れているが、総合力はまだまだ。

 どこかで驕りを捨てられなければ、成長は止まるだろう。


(っていうか、このタイプで成功した奴を見たことないねえ。

 気付いた頃には、立派な落ちこぼれくんだよ)

 辛辣な所見だった。

 

 実際のところ、彼女が期待しているのはリーダーだけだ。

 判断力に優れ、視野も広い。魔法の使用に関してもセンスがある。

 運動神経だって優秀な方だ。

 研修が終われば、自分のチームに編入できるよう人事に働きかけている。

 CランクやBランクを相手に実戦経験を積ませたい。

 

(ただ、早く結婚しそうなんだよなぁ。あと、もうひとつの欠点は)

「教官、撤収しますか?」


 下卑た冗談を交わしあっている男性陣を無視して、そう尋ねてきた。

 

「今、報告書書いてるから」


 それぞれを採点しなければならない。

 フォワードが六十点、フォローが四十。リーダーには八十五を付ける。

 と、数秒手を止めて、男性ふたりを十点ずつ引いた。

 かなり甘めだが、新人へのご祝儀のつもりだ。

 

「はい、一旦集まって」

「全員、整列してください」


 号令一下。

 横並びで敬礼する三人を順に見やった。


 素行に問題があろうが、能力が残念であろうが、性格に面白みがなかろうが、しばらくは時間を過ごした可愛い生徒なのだ。

 できる限りの事を伝えておいてやりたい。

 



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