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カタナを返して斬り下ろし

 カタナを返して斬り下ろし、更に一歩踏み込んで薙ぐ。

 この連撃は利いた。

 肩口と前腕が大きく抉れる。

 

 火炎トカゲが咆哮する。

 反撃とばかりに、牙で噛み付こうとするが。

 

 左目が弾けた。防御を掻い潜った銃弾が命中したのだ。

 突如、視界の半分を失い動きが止まった。


 カタナが翻る。

 刹那の呼気を溜めると、渾身の力で突き入れた。

 

 首の付け根から背中まで達する、まさに必殺の一撃だ。

 

 ぶるるんと、火炎トカゲの全身が揺れる。

 

 消え失せていく生命の感触に勝利を確信しつつ、刀身を捻りながら引き抜く。

 魔法で凍り付いた肉のジョリジョリという嫌な音と共に、溢れた血液が赤い蒸気となって吹き出した。

 

「へっ、トカゲ風情がよ」 

 崩れる巨体に半ば無意識で悪態を吐く。

 

(最初は誰しも通る路だよ。ま、その内、淡々と処理できるようになるさ)

 

 自らの手で直接生命を絶つ。

 そのストレスは、想像する以上に精神を削る。

 戦闘の高揚感が失せると、一気に反動が来るのだ。

 だが、それに慣れなければ、この仕事は続けられない。

 

(アタシらの仕事は全然ヒロイックじゃないからね)

 何事もフィクションとは違う。現実の残酷さに嘆息。

 それでも冷たく「リーダー」と促した。

 

「は、はい。周囲確認。脅威になる存在なし。状況を終了します」

 

 三者三様の溜め息を聞きながら、あくまで気楽を装おって。

「はい、お疲れさん。みんな、怪我ないね。

 最初の獲物にしちゃ、なかなかの相手だったじゃん。

 アンタ達が仕留めたこいつのお陰で、数十世帯の生活がひと月は維持されるんだよ。

 自分達の成果に胸を張りな」

 

 新人担当教官が使う定番の台詞に、それでも心的負担は減ったのだろう。

「ハイ、マム」は幾分軽くなっていた。

 

「とは言うものの、だ。反省点は山のようにあるよ。まずフォワードだ」

「ハイ、マム」

 急いで整列すると、踵を合わせた。


                  * * *


 元素生物は死骸が残らない。

 生命活動の停止後、十五分ほどで劇的な変化を始めるのだ。

 

 彼らが仕留めた火炎トカゲも例外ではない。赤い蒸気となって空中に溶けていく。

 体高二メートルの巨体が、数分足らずで消える。

 その光景は圧巻だ。生命の神秘。こんな安っぽい単語が、妙な説得力を持ってくる。

 

 三人が思わず感嘆を漏らす。

 聞いていたが、実際に目にすると信じられなかった。

 

 消え去った死体の後に残るのは、透明な深紅の玉だ。

 野球ボールほどの球体がふたつに、鶏卵くらいの楕円球体が三つ。

 ビー玉大のが七つと、指先程度の歪なものが二十個ほど。

 

 元素結晶。

 

 この世界の根幹を支えるもの。

 これを精製する事で、魔法の源となる触媒が作られる。

 形が美しく、色が濃く、大きい物ほど、精製される触媒量が多い。

 つまりは価値があるとされるのだ。

 そして、元素生物の脅威ランクに比例して、得られる結晶は多くなる。

 

「こりゃ、いい結晶だね。このふたつで、百万近くはなるよ」

 野球ボール大の結晶を手にして、教官担当の女性が簡単な目利きをした。


 その他を合わせると、二百万はあるはずだ。

 無論、全てが儲けにはならない。

 装備のメンテナンス代金、消耗品、移動費。

 更にメンバーの人件費を考えると、三百万でトントンだ。とは言え。


 タブレットで時刻を確認。

 撤収までには五時間近く残っていた。

 もう一回、いや二回はハントのチャンスはある。

 ここはより多くを求めるのが、理想の教官としての役割だろう。

 現に教え子達も結晶を回収して指示を待っていた。

 

「よし、今日はここまで。確実周囲を警戒しつつ撤収準備に入って」


 三人が動きを止めて、顔を見合わせる。

 バイザーで表情が見える訳でもないのに、咄嗟の反応だった。

 

「リーダー、復唱は?」

「え、あ。ハイ、マム。撤収準備を開始します」

 

 頼りない返事を聞きながら、ハンドシグナルで会話録音を切るように指示を出す。



 

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