まず質問をしよう
まず質問をしよう。小銃と刀剣、どっちが強いと思う?
普通は銃だ。
射程、手数、威力。全ての点で圧倒する。
アウトレンジから弾丸をバラ撒かれるだけで、手も足も出ない。
地面に転がる前に、軽口のひとつも出せれば上出来だろう。
相手が獣の類いであれば、尚更だ。
それなのに何故カタナのような近接武器を使うか。
その答えがこれだ。
元素生物の周囲には特殊な力場が存在する。
大抵は不可視で、物理的には作用しない。魔法的な力に対してのみ、有効なバリヤーだ。
すっぽり全身を包んでいるのではない。
十センチ四方の透明板が何枚も浮いているイメージになる。
個体差はあるが、火炎トカゲのようなDランク生物なら、数十枚のバリヤーが視界内に浮いている。
もちろん、完全無敵ではない。攻撃を受けると削れ欠ける。
一定量のダメージが累積するか、許容量を越える一撃を食らうと消滅するのだ。
消えた力場が復活するまでに掛かる時間は約十秒。
つまり強力な銃を数揃えて、長時間の一斉射をすれば倒せなくはない。
ただ、それよりは魔力を込めた近接武器をぶち込む方が、手っ取り早く確実。
しかもコスパがいい。
「フォローは牽制に注力してください」
そう言いながら、リーダーは急ブレーキ。右から回るべく反転する。
(優しいねぇ。怒鳴ってやればいいのにさ。いい子ちゃんは、マジで……)
悪態を止めて、タブレットを素早く操作する。
火炎トカゲの首元、炎のタテガミが微かに赤みを増したからだ。
素人には判別できないレベルの変化だが、明らかな攻撃準備のサインだ。
フォワードもフォローも気付かない。剣を上段に振り上げ、更なる弾丸を放つ。
火炎トカゲが微かに口を開いた。直後、火を吐き出す。
火は周囲の熱を吸い込んで、爆発的に膨れ上がる。瞬時に炎と化した。
更に渦を巻き、前方全てを呑み込もうと猛り狂う。まさに赤き津波だ。
その圧倒的な光景に男性ふたりが不様な悲鳴を上げた。
しかし。
彼らの前に白銀の幕が現れた。深紅の波を受け止め、包み込む。
激しい蒸気を上げながら、その熱を相殺してしまう。
耐火障壁。
水と風の元素力で行使する防御魔法だった。
(やるじゃん、いい子ちゃんのくせに)
タブレットで同じ魔法を用意していた彼女は、素直に称賛する。
火炎トカゲの攻撃に気付き、魔法を行使したのはリーダーの女性だった。
(八十点だけどね)
未だ空間に残る銀の輝きに厳しい評価を下す。
百の攻撃に対し、百二十の防御を張っている。明らかな過多。
(防具を加味すれば、半分でもいけたでしょ。やっぱ七十五点だな)
魔法には大なり小なりお金が掛かる。
利益を優先する企業戦士であれば、如何にコストを抑えるかは、常に意識しておくポイントなのだ。
「こ、こいつ、ふざけやがって!」
フォワードが吠える。肝を冷やされて情けない声を出した。
その不様な現実を理不尽な怒り変えて、カタナを斬り上げた。
切っ先が胸元の鱗を弾き、浅手ながらも傷を作る。
傷口が凍りついた。彼のカタナにも凍結の魔法が掛かっているのだ。
火炎トカゲの動きは、明らかに鈍い。
当然だ。魔獸と言っても、その力は無尽蔵ではない。
膨大な熱量を吐き出す。
そんな大技を使えば、スタミナを著しく消耗するのだ。
ほら、君の世界にもことわざがあるだろう。
「大パンチのあとは大ピンチ」というやつだ。




