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捕捉しておくが、「米を炊く魔法」が

 捕捉しておくが、「米を炊く魔法」があるわけではないぞ。

 加熱や水流コントロール、加圧に保温。

 様々な魔法が内部連動して、結果的に「米が炊ける」のだ。

 つまり複数魔法を特に意識せず、ボタンひとつで適度に調整して実行してくれるのが静的詠唱器スタティック・キャスター

 便利だろう? 


 動的詠唱器ダイナミック・キャスターは、魔法自体を紡ぐ道具だ。

 内部に高圧縮無音言語発声装置と、超振動伝達機構が搭載されており、元素結晶を装填することで魔法を行使する。

 全てを手動設定する必要があるので、手間が掛かるし魔法の知識も必須だ。

 逆に言えば、加熱に水流コントロール、加圧と保温の各魔法を駆使できれば、動的詠唱器ダイナミック・キャスターで米は炊ける。


 君の世界だって知識と技術があれば、飯盒と焚き火でご飯が用意できるだろう。

 大雑把だがそんな感じだ。


 ところで、飯盒はおこげが美味しいと聞く。君は作れるかね? 

 べ、別に食べたいんじゃないんだからね。

 つまり、あれだ。神として多くの事に触れておきたいという……。

 え? できないの。ふうん、そっか。まあ、別に残念じゃないよ。全然普通だし。


 ティータニアが引っ張り出した物に、老婆はやや驚きながらも。


「あら。手甲ガントレットなんて、いつ以来かしら」

「こ、これが手甲ガントレット? 初めて見た」


 駅員が目を丸くする。


 無理もない。手甲ガントレットは、五十年くらい前に主流だった詠唱器キャスターだ。


 詠唱器キャスターは移り変わりが激しい。

 手甲ガントレットがどのくらいの物か。

 君の世界なら電話をショルダーフォンで「しもしも?」なんて、レベルではない。

 モールス信号だ。いきなり「トン・ツーツー・トトン・ツーツー」だぞ。

 

「はい。七三〇年製ヤルングレイプ。シリーズ最高傑作です。

 五年前にガラクタ市で二千五百円だった破損品を、二年かけてレストアしました」


 施設はとにかくお金がない。

 でも、自分の労力はプライスレスなのだ。


「ホントに苦労したんですよ」と言いながら、手甲ガントレットに左腕を突っ込む。

 

 手甲ガントレットは、その名称通り椀部に装着して使う。

 形状的には肘から手首までを覆う円筒と、指を入れる手袋からなる。

 どちらも超硬チタンと衝撃吸収材の二重構造。

 これは元素世界での使用も考慮されているからだ。


 円筒はワンパーツではなく、一センチ幅のベルトが並ぶ形状。

 使用者はこのベルト数を調整して、自分のサイズに合わせるのだ。

 ベルト間に僅かな遊びがあり、装着者の動きを妨げないよう配慮されている。

 

 手袋は指先部分を取り外し、オープンフィンガーにできる。

 ティータニアはクローズタイプで使用。

「器用さは若干落ちますが、フィット感が増します」という建前だ。

 実際は子供の頃に好きだった変身ヒロインが、指先まである防具を付けていたから。

 まあ、物は言いようだな。

 

 円筒と手袋の間、手首部分は小片金属を繋げた形状で、フレキシブルに可動する。


 ティータニアがぎゅっと拳を作る。

 すぐさま力を抜いて、手甲ガントレットの位置を微調整。

 五回ほど繰り返し、ようやく満足したのか。

 ちろりと唇を舐めて、「フィット」とコマンドワードを呟いた。

 プシュッと空気音が鳴る。


 手甲ガントレット内部、腕や指に触れている部分が、微かに膨張。

 優しく包み込むように固定された。


 次にポケットから金属の箱を取り出す。

 縦五センチちょい、横はその倍くらいだろう。

 厚さは三センチ。長辺側面に直径一センチ半ほどの穴が五つ並んでいる。

 手甲ガントレットのコントロールボックスだ。

 

 ティータニアが立った。

 スプリングセーターの裾をたくしあげ、白い腹部に直巻きしているレザーベルト左腰に近づける。

 マグネットが仕込んであったのだろう。カチッとくっついた。


 軽く揺すって外れないのを確認。

 続いてベルトのホルダーに並ぶ金属筒を抜いて、コントロールボックスの穴に突っ込んでいく。

 五つの穴が塞がると、再びポケットに手を突っ込む。

 ゴムコートされたケーブルだ。

 片方をコントロールボックスに、もう一方を手甲ガントレットの手首付け根にあるスロットに差し込んだ。


「よし」



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