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優秀な生徒であれば在学中に

 優秀な生徒であれば在学中にふたつかみっつ、四級の資格を取る。

 これで就職が俄然有利だ。

 一流企業なら研修期間で、資格を取らせるところもある。

 

 例外は収穫者ハーベスター候補生くらい。

 暗黙の基準として四級が五個、三級がふたつは必須とされる。

 三級はかなりの難易度で、魔法技術職としてやっていけるレベル。

 ほぼほぼどんな魔法を使ってもいい。


                  * * *


「錬成、変化、反射、守勢、重力、知覚、伝達、強化。三級って、ありえねえだろ」

 駅員が唖然と呟いた。


 更に下には十以上の四級資格が続く。

 余りのショックで追うのを止めたが、五級も沢山あるだろう。

 彼自身、社会人三年目にして、ようやく四級をひとつ取れたところなのに。

 しかも最も難易度が低いと言われる伝達魔法の、だ。

 

 すすっと指を動かして、プロフィールの先頭に戻る。

 

 昨今の化粧品は凄いと聞く。

 子供に見えるが実は五十オーバーのベテランかも。

 そこまではいかなくても、自分より十は上であってくれ。


 よく解らない希望を込めて、年齢を確認。

 

 ニアピンだった。差は九歳。惜しむらくは。

 

「十四? はぁ? 十四って」

 下だった。新手のドッキリか? と思う。


「あら、お嬢ちゃん。凄いはねえ。こんなに沢山持ってるなんて」

 老婆の声で我に返った。自分の発言を省み、頭を下げる。

「失礼しました。あまりの衝撃で、その……。いや、とにかく凄いですね」

 

 ふたりの称賛に、ティータニアはずり落ちそうなメガネを指先で、ちょいんと上げて。

「ありがとうございます。昔は頑張ってたんです」

 ややはにかみながら笑った。

 

 変に謙遜すると嫌味以外の何ものでもない。

 この素直な反応にふたりは好感を深くした。


「これだけの資格をお持ちなら問題ないですね。えっと、ティータニ……」


 駅員が言葉を失った。無理もない。

 

 その様子に老婆もプロフィールを見やるが、並ぶ文字に目を細めてしまう。

 最近は老眼鏡がないと、細かいものは厳しいのだ。

 

 ティータニアがぺろりと唇を舐めた。今まで以上の笑みと共に名乗る。

「はい。ティータニア・ン・サムルニュットです」

 

 老婆の表情が僅かに強張った。無理もない。

 

 彼女のフルネームを聞いた人間の反応は決まっている。

 六割は憐れみ、一割は驚き。そして残りの三割が嫌悪である。

 

 理由はミドルネームだ。

 

 君の世界でミドルネームは珍しいのか。まあ、そうだろうな。

 私は職業柄? まあいいか。職業柄、多くの世界の人間に接するが、ミドルネームという慣習は多くない。

 レアカードくらいの遭遇率だな。

 

 実際、この世界でもミドルネームを持つ人間は稀だ。

 主に国益となるくらいの成果を挙げた名士や、革命で市民解放に尽力した魔法使いの家系だけが持つ。

 前者は個人のみの一代限り、後者は男子直系のみの継承だ。「ベルト」や「デュア」といったものある。

 持っているだけで敬意の対象となる、見も蓋もない言い方をするなら、かつての特権階級社会の名残だろう。

 

 とはいえ、無意味な数音の羅列が、モチベーション維持や社会的モラルの向上に役立つのだから、安上がりで環境にも優しい。

 君の世界でいうエコ精神に溢れるところではないかな。

 残念ながらこの数音を名乗った事で、エゴを飽和させてしまう阿呆も多いがね。

 

 ……その、なんだ。ユーモアのセンスというのは、いや、いい。話を戻そう。

 

 形骸的な名誉溢れるミドルネームにも、ひとつだけ例外がある。

 それが「ン」だ。母音を持たない。孤独な音。これの意味するところは。


「はい。私はサムルニュット孤児施設の出身なんです」

 重い現実を屈託なく言い放った。


 その気軽な様子は逆に、老婆と駅員の方が動揺するくらいだ。




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