君の感性からは随分と異質に
君の感性からは随分と異質に見える出で立ちだ。
まず、ベースとなっているのはウェットスーツのような、全身を包むタイプのウエア。
個々の体格に合わせたオーダーメイドで、ボディラインが見てとれる。
ダークブラウンの地に、ライトブルーに明滅する流線模様が描き込まれていた。
頭にはSFアニメを彷彿とさせるフルフェイスヘルメット。
顔を保護するバイザーは、偏光加工されていて表情は伺い知れない。
手にした武器や、ウエアに付加された防護装甲には違いがあった。
このチーム、パーティーと言った方がしっくりくるかな。
このパーティーにおける役割の差だろう。
フォーメーションは火炎トカゲの前にひとり。その左後方一メートルに、もうひとり。
更に三メートル以上離れて、三人目がいる。
フォワード、フォロー、バックアップ。
FFBと称される最もスタンダードな配置だ。
最後のひとりはバックアップの右、五メートル以上離れて、火炎トカゲではなくパーティーメンバーを注視していた。
フォワードは大柄の男性だ。鍛え込まれた頑強な身体付きをしている。
直接近接戦闘が主眼で、胴体はもちろん、肩から腕全体。
腰から腿を越えて爪先まで、ほぼ隙間なく防護装甲が付けられていた。
装甲は超硬チタン合金と衝撃吸収材の二層構造で、斬・打・爆の全てに高い防御効果を発揮する。
君達の世界なら至近距離でショットガンを連射されても、平然とフラダンスを踊っていられるだろう。
魅惑の腰使いそのままに!
彼の武器は刃渡りは一メートル二十優の大剣。
片刃で僅かに反りがある。
シルエット的にはカタナ? うん、その単語で合っているようだね。
カタナに近い。刀身は繊細な波模様で隙間なく覆われている。
男は火炎トカゲに対し左肩を前にした半身の構え、右手一本でカタナを握る。
切っ先は地面寸前。
力を抜いた待ちの状態で、ジリジリと間合いを計っていた。
フォローも男。
やや痩せ型で。無骨なフォワードに比べると、しなやかな印象を受ける。
牽制支援という役割を担う為、防護装甲は薄い物を装着。
上腕や脇腹、太股のサイドはオミットされ、動き易さを念頭に置いてるのが解る。
手にしているのは銃。
長い銃身とがっしりした銃尻。脱着式の大型マガジンが刺さる。
突撃銃という単語が、妙にハマる武器だ。
肩の高さまで持ち上げた基本姿勢。銃口は火炎トカゲの頭部をしっかりと捉えていた。
バックアップに立つのは女性。ひと目で判別可能だ。
胸元が控え目に膨らんでいるし、腰後方から臀部を覆う半円状の布垂れ、スカートが付いているからだ。
ん。説明が足りなかったかな。
この世界での女性は、腰から布地を下ろす形状の衣装を着るのが伝統なのだ。
足首まで届く物から、短いのなら太股半ばのものまで千差万別。
ズボン着用時にお尻を隠すだけのもある。
前のふたりに比べると、幾分細く頼りない身体を保護する装甲は最も薄く数も少ない。
胴体なら胸や腹のみ。四肢も関節部に絞られている。
彼女のポジションはチーム後方でメンバーを支える事にある。
常に効果的な位置に移動できるよう極力動きの妨げにならず、また体力の消耗を避けるよう考慮されているのだ。
万が一前衛の壁が突破された場合は、その身軽さで逃げる為でもある。
彼女の左手にあるのはA4サイズの電子端末。
君の世界ならタブレットに近い。
相違点は上部からコードが四本、ベルトの左腰部分に並んだ円筒形の筒達に刺さっていた。
筒はどれも直径五センチで高さ十センチ。金属製で赤青黄緑に塗り分けしてあった。
右手に握りしめたペン型の入力補助具が、小刻みに震えているのは緊張からだ。
「はいはい。リラックスして、相手はDランクの雑魚なんだから。訓練してきたこと、ちゃんと出せば楽勝でしょ」
そう言ったのは離れた位置に立つ女性だった。
独り言ではない。彼女の声はヘルメットの通信機を通じて、他のメンバーに届いている。
すぐに「ハイ、マム」と端的な返事が返ってきた。
「誰がマムだってのよ。こちとら華の独身、魅力溢れる二十五の乙女だっての」
と、この数日のお約束になっているネタを滑り込ませた。
彼女の言は嘘ではない。
ボディラインは三人目に比べても、より魅力的な曲線を描いている。
スカートも短く、攻めたデザインだ。
一応、彼女の名誉を考慮して断っておくが、実年齢の二十九と四つの差があるのは、彼女の計算能力に難があるわけではないし、記憶が抜けてしまっているわけでもない。
乙女のポリシー的な、社会叡智の結晶だ。
装備はバックアップの女性に類似しているが、腰には刃渡り六十センチの直刀剣を差していた。
手にはコード付きのタブレット端末。
ペン型の入力補助具を指先でクルクルと遊ばせ、随分と気楽な感じがする。
それもそうだろう。
彼女は研修担当、このひと月指導した三人の仕上がり具合に評価をするだけ。
簡単な仕事だ。
「はいはい、リーダーさん。そろそろ始めてよ」