前置きが随分と長くなって
前置きが随分と長くなってしまった。
どうにも、私は話好きが過ぎるようだ。
まあいい。君は合格だ。
ここまでの長話に耐えられた君は、本編に進む権利を得た。
おめでとう。
君なら、ここまで来れると信じていた。私の目に狂いはなかったな。
さて、ここからは面白くなってくるぞ。
この神たる私が保証しょう。
ん? つまらなかったらどうしてくれるって?
それは君の感性に問題があるのかもしれないな。
まあ、そんな心配は要らないさ。
君がこれからの物語に期待してくれるのと同じように、いや、それ以上に私は君の感性に期待しているのだから、ね。
ところで、だ。
ヒロインの条件は何だと思う?
いや、答えなくてもいい。解っている。容姿だろう?
性格だの、行動だの、価値観だの。色々と綺麗事を並べても、まずは見てくれ。
現に君の世界に溢れるサブカルチャーは、いわゆる「美少女」で溢れているじゃないか。
いやいや。非難するつもりはなし、否定するつもりなんて毛頭ない。
ただ心配……そう、心配なのだよ。
彼女、ティータニア・ン・サムルニュットは残念ながら人目を引く「美少女」ではないのだ。
彼女は……。
* * *
ティータニアの容姿をひと言で表すなら「至極残念」になる。
まず目だ。目じりの下がった穏やかな形で、瑞々しく輝いている。
だが、その魅力を台無しにしているのが、大きなレンズのトンボメガネだ。
メタルフレームで愛嬌の欠片すらないそれを、鼻先にちょんと置いている。
鼻も惜しい。丸みがあって可愛らしいが、高さに欠ける。
メガネの掛け方と相まって、どことなく滑稽な雰囲気だ。
口は恵まれた並びの白い歯に、薄くも愛らしい唇。悪くない。
でも、カサカサだ。
折角の淡い桜色が、くすんでしまっている。
もったいない。実にもったいない。
深夜にもったいないお化けが、押し掛けてきても不思議じゃない。
唇のもったいないお化けだ、殆どドルゲ、あるいはゲルゲ。
トラウマものだ。
リップのひとつも使えばいいのだが、彼女は唇を舐める悪癖があるのだ。
しかも「塗っても舐め取っちゃうなら、塗るだけムダ」なんて考えている。
なんて酷い思考だろうか。
メイクなんて毎朝盛り付け、夜に削ぎ落とすという無駄の極みだというのに!
オシャレ番長の耳に入ったら、校舎裏に呼び出されるのは確定だ。
輪郭は柔らかい丸みを持ち、肌は白く血色も良好。
しかし、頬に散ったソバカスが、そのチャームポイントを巧妙に隠蔽している。
まるで迷彩塗装。実戦的にもほどがある。
ファンデーションを使えばいいのに。ここでも「どうせ落とすし」な思考だ。
オシャレ番長とガチバトルしたいのか。
髪は天然、深みのある藍色。毛量も多く質もいい。
丁寧に櫛を入れるだけで、ふわりと広がり、キラキラと映えるはずだ。
その恵まれた髪を、事もあろうに邪険にしている。
前髪から全部まとめて後ろに引っ張り、首の辺りで編み下げている。
腰まで達した先端は、使い古した筆みたいだ。
せめてもの抵抗とばかりに、二束ほどが額を隠そうと頑張っている。
しかし、結果はアホ毛。
品評会に出せば、花丸がもらえそうなくらいの見事なアホ毛だ。
身長はやや低めの百五十二センチ。体重は……。
いや、これは言えないな。
本人に聞けば、あっけらかんと。
「四十一。あ、ここしばらく食べてるから二かも」
そう答えるのは間違いないが、私にもデリカシーはある。
乙女の体重を世界の中心で叫ぶような無粋はしない。絶対にしない。
絶対に、だ。