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全員が即座に反応した

 全員が即座に反応した。

 

 フォワードの男が獣じみた怒声と共に踏み込む。

 足元からカタナを斬り上げた。

 刀身が青く輝く。出し惜しみはしない。

 込められるだけの魔法に、乗せられるだけの膂力を加えた、まさに渾身の一撃。

 左の脇腹から右肩に駆ける必殺の軌道だった。

 

 少し余談を挟もう。

 

 Sランクが、どれほどのものなのか。

 人類がどれほど足掻いても及ばない存在なのか。

 端的にいえば、答えは否だ。

 彼らも突き詰めれば生物、倒せない相手ではない。

 元素結晶を渇望する人類が、この脅威に立ち向かわなかったと思うかね? 

 君達人間は、君達の持つ欲は、そんな生易しいものじゃない。

 十分知っているだろう?

 

 Sランクが残す結晶は約十億。どうだね? 心が揺れたかね。

 

 資源だけではない。

 Sランクを屠れるというのは、国家が保持する高度な魔法技術と強烈な打撃力の証明になる。

 つまりは周辺諸国への外交カードだ。

 

 十年ほど前、この国でもSランク討伐が行われた。

 国家の威信を掛けたプロジェクト。

 官民問わず志願者を集め、二百名の精鋭部隊を作った。

 持てる技術を総動員し、最高の魔法装備を調えた。

 何度も偵察隊を出し、ターゲットとした個体の行動パターンを調査。

 万全に万全を重ね、奇襲に近い形で襲い掛かった。

 

 結論だけを見れば成功だろう。

 小振りな個体ではあったが、見事仕留める事ができた。

 

 しかし、被害も甚大だった。

 死者三十七名、重傷者六十九名。そのうち、六割が再起不能だった。

 中軽傷者は八十を超える。

 得られた元素結晶は九億以上だったが、どう考えても大損だった。

 

 ちなみにこのオペレーションの現場指揮官は、「もし、Sランクがもう一体現れていたら、我らは惨敗。生存者は二桁に届かなかっただろう」と残している。

 

 これを境にSランク以上の相手をしないのが、絶対のルールになっていた。

 向こうから手を出してくる事は、まずないのだ。

 

 存外長くなってしまったな。話を戻そう。

 

 カタナが加速した。速度向上の魔法だ。

 常人には影すら捉えられない、まさに一閃だった。

 

 刃が魔神の細い脇腹に食い込む。

 その寸前!

 

 刀身が砕けた。

 中央付近から、木っ端微塵に砕け散ったのだ。

 

 力なく下ろされていた魔神の手が上がっていた。

 ガードしたのではない。

 斬擊に対し裏拳をぶつけた。言うなれば迎撃になる。

 恐るべき事に、手には傷ひとつなかった。

 硬度で勝ったのではない。速度だ。

 迫るカタナの数倍の速さで拳を合わせ、文字通り正面から弾き返したのだ。

 

 そこに生じた衝撃に刀身は耐えきれなかった。

 無理もない。上等な部類ではあるが、所詮は一般流通している量産品。

 業物わざものならともかく、堪えろという方が無茶だ。

 

 恐怖と感嘆の混じりあった「うう」という、声がフォワードの口からこぼれた。

 

 魔神の顔に並ぶ瞳がひと回り膨らむ。全てが男を捉えて。

 

「少々知恵を付けた猿風情が」

 

 圧倒的な殺意を感じ取り、それでも半分になったカタナを構える。

 いや、他に選択肢がなかった。というのが、正解だろう。

 

「バカ! 手出すな! 逃げんだよ!」 

 

 素早くタブレットにペンを走らせながら教官が吠える。

 ほぼ同時にリーダーもタブレットを叩いていた。

 

 ふたりが選んだのは、対火炎防御魔法。冷気と空気の流れで炎から身を守るものだ。

 強度は出し惜しみなく全力、現状装備での最高の盾。

 しかも、二重だ。同調効果で通常の十倍近い効果になっていた。

 人間が操る炎であれば、ほぼどんなものでも防ぎうる。

 

 魔神が右手を動かす。掌を下から上に、軽く仰ぐような動作だ。

 その動きに沿って炎が生まれた。急激に膨れ上がりながら、眼前の男に襲い掛かる。

 巨大な赤き獣が、その顎で食らい付くかの如きだった。

 

 冷気の盾が迎え撃つ。

 ぶつかると同時に水分が瞬間気化。

 じゅうううという音が爆音さながらに空気を揺らし、水蒸気が視界を白く満たす。

 



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