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実戦部隊に配属されている人間が

 実戦部隊に配属されている人間が、金銭的に恵まれているのは直ぐに解った。

 持っている小物や、アクセに化粧品。ランチのメニューから、余暇の過ごし方まで。

 一般社員と比べて、明らかに贅沢なのだ。

 給料自体は年功序列で、変わらないというのに!

 

「手当ね。一応出てるでしょ」

 

 実際に元素世界に入り込んで結晶を収穫するのは、リスクが高い。

 元素生物との戦闘や過酷な環境による事故等。

 毎年、五パーセントくらいは命を落とす。

 それを考慮して各会社では危険手当をつけているが。

 

「一回の収穫で五千円。一月頑張れば三万にはなる。

 で、そっから税金取られて、いくら手元に残る?  

 で、あんな景気良く金使えると思う?」

 

 説明しながら、ヘルメットの顎を人差し指で二回弾いた。

 個人通話に切り替えろの、ハンドサインだ。

 

 訝しがりながらも、リーダーは設定を変更する。

 

「ぶっちゃけるけどね。

 今期の新入社員で上まで進めるのは、あんたくらいだって思ってる」

 いきなり意外な言葉だった。

 

 同期で実戦部隊として採用されたのは二十五人。

 一年の研修期間に耐えて、今回の実戦研修に残ったのは二十二人だった。

 みんな自分より、よい学校をよい成績で卒業している。

 真面目で面白みのない自分が、陰であげつらわれているのは、なんとなく感づいていた。

 

「そんな冗談は」

「机にへばりついてお勉強すんのと、元素生物を相手にすんのとは全然違うの」


 当然の理屈だ。

 そもそも学校のカリキュラムでは、武器の扱いや実戦魔法なんて教えてくれない。

 

「この仕事に高学歴を求めること自体がナンセンスだしね」


 危険な元素世界を進み人々の生活を支える結晶を集める。

 収穫者ハーベスターと呼ばれるこの仕事は、アニメやドラマの題材にされる事も多い。

 言うなれば、子供の頃から誰もが憧れるヒーローであり、ヒロインなのだ。

 当然のごとくハードルは上がる。そのひとつ目が学歴だ。

 

「魔法のセンス、視野の広さ、戦闘中の位置取り。どれも優秀よ。

 戦闘能力だって、悪くない。まあ、ユーモアのセンスだけは、絶望的だけどね」

「そんな。私なんて」

「謙遜は聞きたくないって。時間の無駄だし」

 軽く遮って。

 

「あんたは間違いなく、リーダーになる存在よ。そっから先は保証できないけどね」

 

 最後の演習でリーダーに抜擢されたのは、ちゃんと理由があった。

 女性優遇だの、逆差別だの、えこひいきだの。

 不満を並べていたふたりを、少し見返せた気がした。

 

「で、未来のリーダーさんに問題。隊を効率よく動かすには、何が必要になる?」

「それはカリスマ、ですか」

「んなの、あんた持ってる?」

「じゃあ、責任感とか信頼とか」

「マジメなのも、度を超えると阿呆と同じ。そんなもんで、人が動くかっての」

 

 切り捨てられて、リーダーは俯くしかない。

 

「いい。人を動かすのに手っ取り早いのは飴よ。

 適当な飴を、適当にしゃぶらせてやるの。

 こいつに従うと、得だな思わせるのよ」

 綺麗事を抜けば、これは事実。「得は徳」という言葉もある。


「ほら、見てみ。あの阿呆ふたり」

 少し離れたところにいる男性陣を顎で示す。

 

 個人通話で話しているのだろう。ふたりとも、両手を派手に動かしている。

 思わぬ臨時収入にすっかり興奮しているようだ。

 

「まったく、男ってのは単純でいいよね。

 ま、お金を懐に入れるのに抵抗あるなら、整備や調達の裏方さん達に差し入れでもしてあげな。

 こっちと違って、安月給なんだから」


 そのひと言にリーダーは思い至る。

 確かにこの教官は、整備担当達から「姉さん」と妙に慕われていた。


「飴には種類があるけど、まずは金。次は精神的満足感ね」

「精神的満足、ですか?」

「詳しく知りたけりゃ、来月の配属希望にウチのチーム選びなさい。

 学歴頼りで、いい気になってる同期を見返したけりゃね」

 

 優しく肩に手を置いて、「あんたは優秀なのよ」とダメ押しする。




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