アメリア・リリアンヌ・ユーサニア第一皇女
そう言うと、周りのメイドたちに仕事を言いつけ始めたサヤ。
ぱっと見は中学生くらいに見えるが、周りへの的確な指示を見ていると、もう少し年は上かもしれない。
こういう人材、きっと今の社会では喉から手が出るほど欲しいだろうな。
と、先程の逃げを誤魔化しつつぼんやりサヤの様子を眺めていると、突然サヤがくるりと振り向いた。
「それから。お嬢様のお名前は、アメリア・リリアンヌ・ユーサニア第一皇女様です。もう婚約者様へのご挨拶に気を向けていらっしゃるなんて、さすがですわ」
ふふっと嬉しそうに微笑むサヤの笑顔に、私は思わず凍りついた。
そんな様子には目もくれず、先程と同様に周りのメイドに混じり手際良く仕事をするサヤ。
ーードクンッ
大きく心臓が波打つ。今、なんて言っていた?あめりあ……?アメ……?
「ああああああああああああああああ!!!!」
突如出された私の咆哮に、周りのメイドがビクゥっと体を硬直させる。サヤが驚いた様子で小走りに近づいた。
「どうされました!?お嬢様!!」
「サヤァ……!私の名前はアメリアなの?違うでしょ?ねぇ、違うわよね?お願い、違うと言ってよぉぉおぉ!!」
さすがに困惑した様子でサヤは続けた。
「お、お嬢様。どうか落ち着いてくださいませ。そんなに思い詰めなくても、あなたは可愛いのです!美しいのです!おっぱいは大きさではありません!形、形ですわ!それに、胸のサイズが何ですか!この世には小さくてもお嬢様のような素敵な女性はたくさんいらっしゃいます!だからどうか、お気持ちを強くお持ちくださいませ!!サヤはお嬢様の全てが誇らしいですわ!!!」
ちげーんだよ。そうじゃねーんだよ。今、ぱいの話なんかどうでもいいんだよ。
っていうか、やっぱり小さいってお前も思ってたんだな?
ぁあ?そうだよなぁ、でなきゃぱいの話なんか出てこねーもんなぁ?
「リア、どうしたの?」
絶妙に違う路線からの攻撃を喰らって更なる絶望の淵へと歩み寄っていた時、扉の方から声がした。
ぁあ?と眉間にしわを寄せたまま振り向くと、扉の隙間から見慣れたあの薄ら笑いの奴が姿を現した。
「こ、皇太子様!騒がしくしてしまい申し訳ございません!」
サヤが恐縮そうな顔を貼り付けて頭を下げる。
「別に僕は怒っているわけじゃないんだ。ただ、あまりに激しい叫び声だったからね、あれは誰でも驚くんじゃないかな」
それで、何かあったの?と聞く皇太子と呼ばれた奴は、相変わらず嘘くさい笑みを浮かべながら私を見た。
「べ、別に何でもないわよ。ちょっとお胸が感情的な意味で苦しかっただけよ」
「ふふっ……そうなんだ。何もないなら良かったよ。邪魔したね」
そう言うとさっと離れていく。ほっと一息つくと、私はサヤに改めて向き直った。
「サヤ、もう一度聞くわ。私の名前は?」
真剣な表情で聞く私に、サヤはきちんと向き直り口を開いた。
「アメリア・リリアンヌ・ユーサニア第一皇女様です。この皇国を統べる皇族家のご息女でございます」