ナマって響きがいやらs
どれくらい時間が経っただろう。
何を考えているのかすら分からなくなって来たところで、目の前でせっせと私の身支度を用意していたサヤがにこりと笑った。
「お嬢様、鏡でご確認いただけますか」
サヤの言葉の意味が分からずポカンとしていると、後ろへ促された。
後ろを振り返る。と、そこには力なくぼんやりとした様子の幼女が映っていた。
明るいブルーのドレスは、胸下から等間隔に更に濃い色のブルーのリボンがぐるりと取り付けられている。
白いレースの縁取りが愛らしい。手元のショートグローブもレースで作られており、ドレスとマッチしていた。
足元は真っ白なヒールが輝いている。よく見ると、淡いピンクや白い花が飾られている。
全体のブルーを更に引き立てているかのようだ。
……うん、可愛いよ。可愛いけどさ、この顔どこかで見たことがあるような……。
ドレスから目を離し、自分の顔をまじまじと見る。
栗色の髪は後ろで纏められており、足元の花と同じような色合いの花が飾られている。
ちょん、と触れて驚いた。生花だ。
くるりと巻かれた髪に続いて、目や鼻、口といった顔のパーツを眺めていく。
目は吊り上がり気味の奥二重。カールしているまつ毛が長い。
薄い唇にはてかりとしたグロスのようなものが塗られている。
「いかがでしょうか」
何も言わない私に痺れを切らしたのか、サヤが問う。
「えぇ……可愛いわ」
「お気に召されたようで嬉しいです」
「サヤ、聞いても良いかしら」
「なんでしょう?」
聞いても良いかと言葉にしてから後悔が押し寄せる。
あぁ、できれば私の予想が外れてくれないだろうか。いや、っていうかやっぱり聞きたくない。
え、もしこの質問が私の予想通りなら……?怖っ!怖すぎるでしょ!無理無理。
「お嬢様?」
サヤの不思議そうな声に、私は奥歯を噛み締めた。
……聞くしかない。私の名前を。
この外見、きっと私の記憶が正しければ思い浮かぶ人間はただ一人。
「えっと、その……私のな……私のなま……」
「ナマ?」
ちょっといやらしく聞こえるのは何でだろうね!って今はそうじゃない!
くぅううぅ!!ええええぇぇぇええええいいい!!!
「私の名前、じゃなくて、この頭や靴についた花はなんなの!!!!!」
はい、見事に逃げました。だって怖いもん。怖い怖い怖い怖いよう。
ポカンとした様子のサヤは、私の言葉に少し眉を下げて言った。
「……こちらの花はお嬢様がご希望されていた生花でございます。種類の方は私共の方で選ばせていただきました。色合いなどはご希望になるべく沿った物をご用意させて頂いたつもりでしたが……取り除かれますか?」
「へっ?あ、いや、良いの違うの何でもないの!!」
ふるふると首を振ると、サヤは安堵した様子でにこりと微笑んだ。
「それは良かったです」