『こんやくしゃ』ってなにそれ美味しいの?
そこからは暫くの間、サヤがよしよしとあやしてくれた。
おっぱいがぁ、おっぱいがぁ、と嘆く私をニコニコと微笑ましいものでも見るように。
……なんだか納得いかないけれど、サヤのおかげで大分落ち着いてきた。
涙も止まり、改めてサヤを見るとやっぱりニコニコとしている。
こちとら胸の消滅を味わったばかりだというのに。
「お嬢様、とても不安定な気持ちになってしまうのは仕方のないことです」
「……どういう意味よ」
ブスッと答える私に、サヤはニコリと笑って言った。
「ご自身の婚約者様との初めてのお顔合わせですもの。仕方のないことです。お嬢様程のご身分ですから、たくさんの不安をその小さなお胸に秘めてしまうのは仕方のな
「おかおあわせ……?」
この際、ちっぱいと言われたことは見逃そう。
そんなことより、何だって?婚約者との顔合わせ?
「サヤ、私って婚約者がいるの?」
思わぬ質問だったのだろうか、サヤは少し驚きつつもはいとしっかり頷いた。
は、聞いてねえし。婚約者って。てか私、さっき8歳とか言われてなかった?
あれ、マッテシコウガオイツカナイヨ。
「ちょっと、一人になりたい……」
さすがに情報が小出しになって私の頭を破壊しにかかっている中、これ以上は何も受け入れたくない。
そんな様子を察したのか、だけどサヤは頷いてはくれなかった。
「お嬢様、申し訳ありませんがそろそろお時間なのです。本日、お嬢様の婚約者様、アーサー・チャールズ・シビメント第一王子とのお顔合わせがございます。旦那様や奥様にも朝のご挨拶をしなければなりませんので、お一人に……というのは……」
うえぅえっ世界って本当に理不尽……!
「お嬢様、安心してくださいませ!とびきり可愛く、どこの誰よりも美しいお嬢様ですもの。元気をお出しください!」
うんうん……きっとおっぱいが引っかかっていると思われているんだろうね。違うよ!いや、違わないけど!
今はそんなことよりも、記憶が混乱して自分の正体がよく分からないこととか、もうなんだろう色々と一人で考えて整理したいんだよぉ……!
なんていう私の希望は散った。何も答えない私の様子を納得したと受け取ったのか、ニコリと微笑み一礼すると、サヤは手際良く準備を進める。
その間、私はなされるがままの放心状態。
とにかく心にフィルターをかけたまま、頭の中では大混乱が続行していた。