第九十六章・青川荘へようこそ
ご感想やレビューもお待ちしております!!
第九十六章・青川荘へようこそ
雪枝先輩が落ち着くまで、旅館の前で待っていたうちたちは、ようやく雪枝先輩が回復したので、地面に置いたままの荷物を手に取った。
介抱していた野毬先輩は、実に見事なほどに優しく雪枝先輩の背中をさすって、水を飲ませて、回復させたと思う。
「俺が代わりに手続きを済ませておくから、部屋に着いたら寝てろ」
野毬先輩が雪枝先輩に言う。
「わたしが計画した合宿だから、わたしが手続きしないと…」
雪枝先輩は整いつつある息で野毬先輩に言った。
「大丈夫だよ。お前はもう喋るな」
そう言うと、野毬先輩は雪枝先輩の分の荷物も持って、旅館へと向かう。
「君たちも来い」
野毬先輩の言葉で、うちと省吾くんは先輩方に続く。
旅館名は『青川荘』。
どこかで聞いた名だ。
うちは少し気になった。
旅館の自動ドアが開くと、中は和風の雰囲気で、クーラーや空調も利いている。
ロビーの先には螺旋階段があった。
奥から仲居さんがやって来る。
どこかで見た顔だった。
え~と、誰だっけ?
うちは落ち着き始めた雪枝先輩を放って、仲居の顔をまじまじと見る。
声をかけてきたのは向こうからだった。
「あれ~、偶然!海っちじゃない!」
仲居の恰好をしていたのは、千百合さんだった。
世の中には偶然というものがあるというけれど、こんなご都合主義的に出てこなくても…。
うちは思い出していた。
千百合さんの本名は青川千百合だったことを。
ここの旅館の名前は『青川荘』。
なるほどね…。
「私、この夏は親戚の旅館でバイトすることにしたの。だから私は今、仲居なのよ」
あまりの偶然のことに、うちはついていけないでいた。
千百合さんが旅館の仲居…。
うちは省吾くんの方を見た。
省吾くんはフルフルと首を振る。
知らなかったようである。
「千百合、お前の親戚が旅館をやってるなんて、俺は初めて聞いたぞ?」
「あら、知らなかったの?でも幼馴染だって、お互いに知らないことってたくさんあるでしょ?」
「ム…、まあそうだけど…」
これは観念するしかない。
まさかの千百合さん登場は偶然とは思えなかった。
うちは雪枝先輩の方を見た。
「先輩?」
「ああ、知り合いだったのね?わたしは学校内で誰か旅館持ってる人いないか聞きまわったの。そこでその子が、田舎に温泉旅館を持ってるって言っててね。お友達割引で安く泊まれるように手配したの。なんかマズった?」
マズりまくりです!!
「文芸部だっけ?青川荘へようこそ!」
千百合さんがうちらの相手をすることになっているというのは、本当に偶然とは思えなかった。
特に何も起こらなければいいんだけど…。
読者の皆様に幸あれ!!




