第六十六章・映画評論に華が咲く。
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第六十六章・映画評論に華が咲く。
雪枝先輩はうちらのデートの邪魔にならない程度にテーブルをくっつけてきて、アイスコーヒーを注文すると、うちの持っていた映画のパンフレットをもぎ取る。
雪枝先輩のおかげで省吾くんと二人きりの緊張が緩やかになった。
「この映画は海外の映画祭でも出品された作品なのよ」
そういうと、パラパラとパンフレットのページをめくる雪枝先輩。
「どの辺が芸術なんですか?うちにはその…えっちな映画にしか見えませんでしたよ?」
本音がつい、口に出てしまった。
「あはははは!えっちな映画とは。海もえっちだねぇ」
と、茶化してくる雪枝先輩だった。
「ち、違います!」
「まあそう怒んなさんなって。この『ブラウン・ジャーニー』って映画はね、前作の評価から推測すると、美しい風景の描写と性描写を交互に見せるだけでなく、その人間の本質にも焦点を当ててる作品なのよ」
「はぁ…」
「海は性描写しか頭に入ってないんでしょうけど、あらすじ的には小さい頃に好きだった清純な女の子が、時を経て大人になって再び主人公の前に現れると、娼婦になっていたというオチなのよね。男性からすると、ショックよね?そういうことを描いた話なのよ」
性描写しか頭に入ってないとは、いささか失礼だ。
でも本当のことなので、言い返せない。
まあ、雪枝先輩の話を聞いていると、なるほどと思う印象は確かにあったかもしれないけれど…。
そういう内容だったのね。
「清純な少女が娼婦に?」
「そう。感動の再会どころか、これなら妄想の中で留めておいた方が何万倍も良いことでしょ?再会したら逆に落胆につながるっていう、感動とは真逆の結果に終わるなんてオチなのよ」
つまり、省吾くんと一度別れて、何年か経って再会してみたら、893になっていたとかを想像すればいいの?
あ、逆にうちが省吾くんと別れて、もし万が一だけど、将来うちが娼婦になっちゃってたら、再会した時、省吾くんはうちの姿に落胆するっていうのを想像するとか…。
確かに省吾くんというか、男性を知るにはちょうど良い映画だったのかもしれない。
うちはそう思った。
うちにパンフレットを返した雪枝先輩は、アイスコーヒーを無糖で一気に飲み干した。
「じゃあ、わたしはこれで失礼するわね。アイスコーヒー代はよろしく。邪魔したわね。それじゃあ行くね」
雪枝先輩はすぐに席を立つ。
「先輩、これから帰るんですか?」
「うんや。用事」
「でも校則では夜の八時には自宅へ帰るよう、生徒手帳に書いてありますよ?」
「アンタ、校則なんか守ってるの?」
「校則は校則です」
「生真面目なこと。わたしはこれから彼氏と会うの」
「えっ?」
聞いてないです、そんなこと!
「先輩、彼氏がいたんですか?」
「いるよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてません」
「他校の生徒だから、普段は会えないのよ。だから週末に会うことにしてるの」
「はぁ…」
「アンタたちはもう帰りな。わたしみたいに夜遊びしちゃダメだよ。海も門限あるでしょ?」
「あ、はい!」
うちは省吾くんの方を向いた。
「帰ります?」
「そうだね」
うちと省吾くんも、雪枝先輩と一緒にコーヒーショップを出る。
支払いは省吾くん。
駅で雪枝先輩と別れると、うちと省吾くんは電車で家路についた。
これがうちと省吾くんの初デートになった。
思い出に出来るといいなと、うちは思った。
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