第百十九章・『ブラッディ・サマー』<後編>
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第百十九章・『ブラッディ・サマー』<後編>
うちと省吾くんは、それぞれ映画のパンフレットを買って、近くのカフェでお茶にした。
今日の埋め合わせとして、全部省吾くん持ちや。
うちはもう、怒ってはいなかったけれど、気持ちは悲しさと寂しさと切なさでいっぱいだった。
省吾くんは、あんなに怖い映画をちゃんと観ていなかったことが、うちには解せなかったのだけれど、そうは言っても、もう一度観てくださいとは言えない。
というよりも、そんなどうにもならないことが、うちを寂しさへと導いていたのにガックリきているのだ。
ホラーでもいいから、同じ時間に同じものを共有することこそが、デートと言えるのではないでしょうか?
これには同意してもらいたい。
うちが拘っているのは、そういうことなのだ。
鈍感な男子には、この繊細な乙女心が分からないんでしょう。
まったく…。
うちは映画を観に来たんじゃない。
省吾くんと映画を共有することで、同じ時間を過ごしたかったのだ。
それが分からないなんて、もう!
思い出しただけでも悲しさが戻ってくる。
今日の省吾くんは30点ですっ!!
うちはその想いを言葉にして、ぶつけたかったけど、ウザい女と思われたくはなかったので、沈黙で語ることにした。
男子には沈黙が一番堪えると聞くけれど、たぶん本当だろう。
いいえ、意地悪したいと思って黙り込むワケじゃないけれど、うちは本当にこの想いを言葉にして表したくはないだけなのだ。
うちの沈黙で分かってほしいと、切に思う。
でも省吾くんには、いいえ、男子にはそれでは伝わらないのだ。
それが分かってて、沈黙するうちも、何だか情けなく思った。
こんなはずではなかったのに…。
うちが口を開けば血が飛びそうな雰囲気だった。
まさに今、『ブラッディ・サマー』な状況だったと、言っておこう。
ああ、シャレにもならない…。
映画にちなむとは、質の悪い冗談ですよ。
「言い訳かもしれないけれど、僕が眠りこけていたのは、文芸部の小説執筆活動に、昨日の夜、手こずっていたからなんだ」
「言い訳ですね!」
「ごめん…」
「夏の終わりに思い出をと言ったうちが悪いんですか?」
「ち…違う」
「映画に誘ったのも、うちですものね」
「は、はい…」
「うちはずっと怖い思いをしていたんですよ?それを…」
「肝に銘じるから、許してくれないかい?」
「許す許さないの問題ではありませんよ、省吾くん」
「分かってるよ」
「分かってないです!ブラッディ・サマーですよ、省吾くん。血の夏です」
「そんな大げさな…」
「うちにとってはそうなんです!」
「君にとって?」
「はい。うちにとって…。アレ?」
うちは自分中心にデートを考えてた?
そういえば、映画は確かにうちが誘ったし、ホラー映画を観ようと提案したのもうちだった。
しかも、うちが省吾くんにくっ付きたいと工作したのもうちなのだ。
そういう計算をしたのは全部、うちだった。
ゾッとする感情が湧いて来た。
うちったら、省吾くんを引き合いに、自分だけが満足する方向でデートを考えていたのだ。
それには気付かなかった。
うちったら…。
女子はワガママというのは、うちの方針にはないと思っていた。
けれども、うちはいつの間にやら、女子が陥りそうな部分に自らハマっていたのだ。
自分も人のこと言えない状況を作り出していたことに気付く。
恥ずかしいわぁ…。
「ごめんなさい、省吾くん」
「え、別れるとか言わないよね?」
「あ、違う…。違います!」
省吾くんは、うちと別れるのは嫌らしい。
こんなうちを好きになってくれて、ありがとう。
そしてごめんなさい。
うちも勝手だったわぁ。
「省吾くん、うちは本当は、映画の内容なんて、別にどうでも良かったんです。これは本当。わざとホラーを選んだくらい。これはうちの間違いでもあるんです。それを省吾くんに伝えたかった。それだけです」
「え?」
省吾くんはよく分からなかったらしいけど、うちは本心から謝ろうとする。
でも逆に、省吾くんの方が先手を取って謝って来た。
「僕はこんなんだけど、どうか嫌わないでほしい。全部僕が悪かったから」
「そ、そんな…。うちこそ…。ごめんなさい省吾くん!」
うちと省吾くんは、お互いに謝り続ける。
誰かうちらを止めて!
すがる思いで、そう思ううちだった。
そこを通りがかったのは、まさかの絹代ちゃんだった。
「何してんの、二人で?夏休みの終わりにデート?」
絹代ちゃんに声をかけられるうちら。
絹代ちゃん~!!
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