第百十八章・『ブラッディ・サマー』<中編>
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第百十八章・『ブラッディ・サマー』<中編>
上映中はお静かに、お喋り禁止、撮影もダメのお知らせのあとに、予告編が始まる。
うちはその予告からビビってしまった。
今後公開されるホラー映画の予告編ばかりだったからだ。
うちはもう、怖くなって仕方がなかった。
省吾くんは平気そうだ。
うちはこの年で恥ずかしいけれど、チビリそうになる。
おトイレは済ませたけれど、感情が高まるにつれて、尿意がこみ上げてくる。
というか、もう帰りたかった。
この予告編のバカバカバカ!!
お金を払った観客に恐怖を味わわせるなんて、不届き千万ですっ!
これだからホラーは…。
でも今日は、うちの隣の席には省吾くんというナイトがいる。
これから映画が終わるまでの二時間、しっかりとしがみついてますからね!
そうこうしているうちに、映画本編が始まる。
十代の男女六人組が、夏のパーティーの最中に殺人鬼に襲われるという、なんともベタな展開のホラーだった。
ミステリや怪奇もの嫌いなうちは、ホラーも基本ダメなのだ。
映画が始まるや否や、さっそく外で行為に及んでいたカップルが、スバッと襲われるシーンだ。
もう怖い!
もう帰りたい!!
スプラッターは嫌いだった。
うちはすぐさま、省吾くんの腕を掴むと体を寄せて、くっ付いたまま離れないでいた。
それが安心感に変わるかと思ったけれど、やっぱり画面から目を逸らす羽目になるのは必至だった。
こんな残虐シーンをありがたがって観る人の気持ちが分からない。
ディスるワケじゃないけれど、本気で怖いと悲鳴が漏れそうだった。
うちには合わない映画だ。
それを省吾くんに伝えたかったけど、上映中はお喋り禁止なので、声を出せずにいた。
殺人鬼の描写が役者でもスタントマンでもCGでも、どうでも良かった。
つまりは怖いだけなのだ。
それってうちだけ?
いいえ、違います。
時々女性の観客が声を上げています。
やっぱり怖いのは皆一緒なのだ。
うちは怖いシーンのたびに省吾くんの方を向いて、目を隠した。
『ブラッディ・サマー』…。
何という恐ろしい映画だろう。
うちも晴れて、省吾くんと距離をググッと縮ませたと思う。
こういうのはやっぱりカップルで観に来て正解な映画だ。
野毬先輩には悪いですけど、一人で観る映画ではないですよ。
うちは思いっ切り省吾くんにしがみついていた。
映画が終わるまで、それは続いたと思う。
エンドロールが流れ始めたけれど、もう二時間経ったのでしょうか?
うちはようやく安心して心を鎮めた。
ああ、怖かった。
省吾くんはどうだったんでしょう?
うちは照明が付く前に、省吾くんの顔を見た。
あれ、眠りこけてる?
省吾くんは寝ていた。
うちがこんなにも接近してたというのに。
ちょっとショック!
エンドロールも終わり、明るさが戻ると省吾くんは目を覚ました。
うちがこんなに怖がってたというのに、省吾くんったら!
「ああ、終わった?」
と、夢うつつの省吾くん。
「終わりましたよ。寝てましたね?」
「あ、いや…、起きてたよ?」
それは大嘘や。
「それじゃあ、この映画のあらすじを懇切丁寧に言ってみてくださいよ」
うちは食い付くように言った。
まさか映画が上映中だというのに寝てたとは…。
しかもホラー映画で。
「ごめん。途中から眠りこけていたよ」
「うちに嘘は付かないでくださいね」
「わ、悪かったよ…ゴメン」
うちはプンスカと怒っていた。
無理もないでしょう。
埋め合わせはしてもらいますよ、省吾くん!
うちはそう思いながら、省吾くんと劇場をあとにした。
後ろの方で鑑賞していた野毬先輩の姿は確認し損ねたけれど、それは今、関係なかったので、無視するうちだった。
読者の皆様には感謝しかありません!!




