第百十七章・『ブラッディ・サマー』<前編>
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第百十七章・『ブラッディ・サマー』<前編>
映画館にはカップルがいっぱいだった。
やっぱりこういうホラー系の映画はカップル御用達なのかもしれない。
あら、よく見るとカップルに混じって男の人がいるじゃないですか。
うちはその人をよく見た。
野毬先輩だった。
一人でホラー映画を観に来るとはツワモノですね。
女の子でも誘えばいいのに。
柔道部のマネージャーとか、誘う子はいるでしょうに。
うちは野毬先輩に話しかけようと、近付いた。
「先輩!」
「お、ご両人!」
野毬先輩もこちらに気付く。
でも夫婦じゃないので、ご両人とは言わないでほしい。
「野毬先輩もこの映画観に来たんですか?」
「ああ。お金払って怖い目に遭いに来たんだよ。そっちはデートか?」
「はい。ホラーお好きなんですか?」
「いいや。怖いから嫌いだよ。以前は好きだったけど、前に一人でホラー映画観に行ったら、観客が俺一人だけの時があって、もう帰りたいなんて思ったことがあってね。泣きそうになったよ。それからは一人では観なくなったんだけど、今日のこの『ブラッディ・サマー』は話題作だから、ちょっと観に来たんだ」
自慢気に話す野毬先輩。
話題作のホラーだから、観に来たんだ。
それはそれはホラー嫌いなのに、わざわざホラー映画を観に来る、珍客さんなんですね。
「たった一人だけでホラー映画鑑賞したことあるなんて、それは確かに怖いですね、先輩」
「ああ。しかもその時は、レイトショーだったしね。予告編もみんなホラー物ばっかりだったんで、余計怖かったよ」
「うちには無理です」
「まあ、今日は渡辺と一緒に来たんだろ?ならせいぜい、俺に見せ付けてくれよな」
何を?
というけれど、省吾くんにくっ付くのを見せ付けろと言いたいんですね?
分かってますよ。
うちの作戦です。
省吾くんはヘタレではないというところも見せ付けますから!
「それじゃあ!うちと省吾くんは真ん中の席で観ますから」
「ああ。俺は後ろの方だから、気にしないでくれよ?」
「はい!」
うちは省吾くんのところに戻って来た。
「あれ、野毬先輩だね」
「そうです。一人でホラー観るそうですよ」
「本当に?からかわれるの嫌だなぁ…」
「からかわれませんよ、大丈夫です」
「僕は前に観たホラー映画で懲りたからなぁ」
それは聞いてない。
初耳ですよ?
「前に一人でホラー映画観に行ったら、観客が僕一人だけで、泣きそうになったんだ。しかもレイトショーの時に…」
アレ?
どこかで聞いたような話だ。
「でも、今日はうちと一緒じゃないですか!」
「それはそうだけど…」
ホラーを一人で行く男子って何なの?
うちは呆れた。
野毬先輩も省吾くんも、どんなホラー映画を観たのだろう?
それが知りたくなった。
「もう劇場が開場になりますよ」
「うん。行こうか?」
「はい」
うちと省吾くんは、開場中のサインが出た劇場に入っていく。
野毬先輩も後ろの席のどこかに座るでしょう。
うちはこれから始まる怖い映画の上映まで待った。
省吾くんはうちの分のポップコーンとドリンクを買うために、一旦席を外した。
いつも奢らせて悪いなぁと思いつつ、省吾くんに甘えるうち。
でも女子には、払うタイミングが分からないから、男子の奢りについつい甘えてしまうのだ。
奢られて当たり前なんて、うちはそんな女子ではないのです。
読者の皆様に幸あれ!!




